チャレンジ&トライ!~初めてのことでも行動しなければ始まらない~日本の製品と技術でベトナムの道路橋梁の維持管理に貢献 - 東京ベルト株式会社(東京都)

2024.02.27

東京ベルト株式会社は、1946年に創業し、ベルト・ホース・樹脂、伝導・産業機器等のメーカー代理店及び部品加工メーカーとして企業展開してきました。新たな海外展開を模索するため、ベトナムで高品質な弾性加熱合材を使用した路面補修工法の普及を目的に、2022年7月~2023年11月年にJICAの案件化調査を実施。調査結果を受けて現地での製品の実証活動に取り組むべく、2023年にJICAのビジネス化実証事業に応募、採択されました。ビジネスを通じたベトナムでの社会課題の解決のために「チャレンジ&トライ」の精神で取り組んできた同社の取組について、前田淳社長、営業担当の渡邊淳一さん、EC海外事業部の陳虹町さん、そして地域金融機関のプロフェッショナルとして同社を全力でサポートしている常陽銀行西谷智行主任調査役にお話を伺いました。

東京ベルト:海外展開のきっかけについて

東京ベルトは、JICA事業に応募する前から工業部材のホースや機械機器を海外に輸出し、海外事業の立ち上げを模索してきました。特に、フィリピンで成功したホース輸出販売を他のアジア諸国で展開しようと独自で試みましたが、価格差、品質の違い等の現地事情により思うように進みませんでした。各国で地道に売り回ることに限界も感じていた頃、前田社長が出張で訪れたフィリピンでJICA事務所に相談したところ、民間連携事業を提案されました。そこで、途上国の社会課題を聞き、「JICAの民連事業とコラボする、現地にはないような、日本にしかない製品や技術は、自社取扱商材の中にないだろうか」、というところから改めて考えました。

ちょうどそのころ、同社は新規事業として、路面の段差、ひび割れなどの損傷に対し、常温合材に比べてはるかに耐久性に優れた製品「弾性加熱合材ファルコン」を使った補修事業を関東各地で行い、市場の手ごたえを感じていました。ベトナムの道路事情が悪いこと、自社で取り組んでいた輸出事業で一定の引き合いがあったこと等を踏まえ、ファルコンを使った道路補修工法に関する案件化調査をベトナムで行うことにしました。

ファルコンの施工の概要

ベトナムの道路の状況と日本製品を使った課題解決

ベトナムでは交通量の増加、高温多湿な気候の影響や施工品質の問題から、道路や橋梁の劣化が早く進み、経済、社会活動、生活に重大な影響を及ぼしています。ベトナム政府も維持管理の重要性を強く認識する一方、予算が不足している状況です。従来、道路補修は、耐久性の低い補修工法で行われており、結果繰り返し損傷が生じ路面健全性が保てないため、耐久性の高い補修工法を必要としていました。この課題に対して、東京ベルトは耐久性の高いファルコン及び現地に適した工法を提案することで、維持管理費の削減に加え、安全性の向上や事故の減少、振動や騒音等環境面での影響の改善を目指しました。

前田社長によると、「JICA事業は企業に求められているSDGsや社会貢献の面にストレートに応えることができるし、こういった点を重視するステークホルダーもいるため、企業価値も上がる。海外展開にはリスクもあるので、自社だけでは決断するのは難しかったかもしれないが、JICAのネットワークや資金面のサポートがあったので、リスクを軽減しながら臨めた。」とのことでした。

ハノイ市内の路面損傷状況

チャレンジ&トライの繰り返し

一般的に海外展開の際に企業が直面する課題として、商習慣の違いや価格差等があげられますが、東京ベルトもそのような課題に直面してきました。案件化調査開始後早々、現地関係者から高い評価を得ましたが、それが社交辞令なのか、本心から言ってくれているのか分からずにいました。不安点を少しでも払拭したいとの思いから、過去に案件化調査を実施した日本企業をJICAに紹介してもらいヒアリングを実施。第三者目線で率直な話を聞くことができたので、落ち着いて調査に専念することができ、今後に繋げる結果を得ることができたそうです。
現地政府関係者とのコミュニケーションも初めてでしたが、日本に招いて行った研修を大成功させた結果、非常に親しくなって本音を聞けるようになり、その後の現地セミナーは現地幹部やマスコミ等約100名が参加するほどの大盛況でした。
また、ファルコンを活用した路面補修のビジネス展開は、調査の結果、現地製品との価格差が10倍以上と大きいことが判明したものの、橋梁ジョイントの補修であれば、現地製品との価格差が比較的小さいことを突き止め、橋梁補修を中心にビジネス展開をすることにしました。
結果だけを聞くと簡単に感じられるかもしれませんが、渡邊さんによると、「白紙から始めたので何でもやらないといけないと思った。地道な作業も沢山重ねてきた結果、運も手繰り寄せたと思う。」と話されていました。

本邦受入研修

技術セミナー

担当者にとっての海外事業について

渡邊さんや陳さんに、担当者としての海外業務について伺ったところ、「海外の仕事は国内の仕事よりもスピード感がある。そういう経験ができるのは海外業務ならでは。また、日本の常識がそのまま通じるわけではないので、分かりやすい説明を心掛けるようにした結果、国内での商談でも分かりやすく説明できるようになった。」、「販売した商品が途上国の経済発展や生活改善の役に立つのをリアルに見ることができるのは嬉しい。」と話されていました。

ベトナムの路面維持管理の課題解決に貢献するビジネス事業化に向けて

今後の展望としては、JICAの実証化事業で現地での認証取得などにチャレンジし、ファルコンをベトナムでの標準工法にしてもらうこと、ベトナムに拠点を作ったら他の製品も展開することを目指したいということでした。

東京ベルト株式会社 前田社長、渡邊さん、陳さん

~あらゆるリソースを活用して企業と連携!常陽銀行西谷主任調査役へのインタビュー~

東京ベルトの案件化調査は、地域金融機関と連携して海外展開を検討・調査する地域金融機関連携案件でした。今回、常陽銀行は茨城県に本店を置く金融機関として初めて本事業に参画。ベトナムにも同行した西谷主任調査役にお話を伺ってみると、あらゆるリソースを駆使して、連携された様子が分かりました。

連携のきっかけ

東京ベルトと取引があるため、定期的に担当者が近況をうかがっていたところ、ある時、同社に海外展開の意向があることを聞きました。詳しく伺ってみると、将来的にベトナムへの進出やJICA事業に応募する意向があることが分かりました。常陽銀行にはハノイ駐在員事務所もあるので、事業計画策定や、現地パートナー探しのお手伝いを申し出ました。

常陽銀行市場国際部国際業務室 西谷主任調査役

地元産業界や企業からの反応

地域金融機関連携の形でJICA事業に参加したのは茨城県下で初めてのケースでした。前田社長とマスコミを訪問して積極的にPRしたところ、地元紙をはじめ、マスコミ関係者から、複数取り上げられました。その後、具体的に海外展開を検討している他企業からの連絡や、民間連携事業に関する質問を多数受けるなど、大きな反応がありました。

連携の具体的な内容

西谷主任調査役によると、「地方銀行として地場企業に近いという強みがあると自負しています。一緒に調査を行うと決まった時に、当行が持つネットワークを使って何か提案ができないかと考えました。色々調べてみると、茨城県は道路の総延長が北海道に次いで全国で二番目に長いことが分かり、その特徴を活かせるのではないかと思いました。そこで、第一にベトナム運輸交通省道路総局の人たちが本邦研修として来日した時に、県への出向者を通じて茨城県土木部道路維持課からの日本の道路維持管理方法の紹介や、情報交換の場をアレンジ。第二に、茨城県の主要道路には東京ベルトの製品が取り入れられていることも分かったので、同社製品を使っている現場を見てもらいました。また、第三に東京ベルトがベトナムに渡航する際には同行し、現地で提携している工業団地の視察サポート、今後の法人設立に備え現地コンサル、現地ローカル企業のリストアップも行いました。政府関係者との面談に同行することで、事業内容や交渉状況について詳しく知る機会にもなりました。」ということでした。

また、西谷主任調査役がタイの現地銀行に出向された時の横の繋がりで、他行で同様の金融機関連携を担当している行員と情報交換もしながら、東京ベルトのサポートを行ったそうです。今回の連携を振り返り、「初めての地域金融機関連携案件でしたが、どうすればうまくいくか全力で考えました。地域金融機関として、同様のご相談が取引先企業からあったら、今回の経験を活かして、しっかりと支援させていただきたいと思っています。」とのことでした。

(民間連携事業部インターン 野村由紀子)

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