データで有用性を実証 日本の斜面防災技術を海外へ - 株式会社プロテックエンジニアリング(新潟県)

2024.03.11

東日本大震災から13年。日本は国際的な防災指針を策定する「国連防災世界会議」の全てでホスト国となるなど、防災分野で世界をリードしており、防災分野の知見や技術は世界から高い注目を集めています。

今回は「自然災害対策技術の革新で社会に貢献する」を経営理念に掲げ、落石・土砂崩れ・雪崩などの斜面災害に対する製品の海外展開を目指す新潟県の株式会社プロテックエンジニアリングの取り組みを紹介します。

新潟県の中小企業 山岳地域ブータンで調査を実施

新潟県の東部に位置する聖篭町に本社を構えるプロテックエンジニアリングは、2019年8月~2023年6月にブータンで「道路斜面災害対策技術及び工法に関する普及・実証・ビジネス化事業」を実施しました。

国土の7割が山岳地のブータンでは、多くの道路が山道ですが、道路斜面の整備は不十分で、落石や斜面崩壊の危険性が高い状況です。一方、土砂崩れ対策に詳しい技術者や、対策施設の設計・施工ができる民間企業も少なく、落石による死亡事故や道路網の遮断などの問題が起きています。

プロテックエンジニアリングは、自社製品の強みを活かせるとして、山岳道路の整備が進む南アジアの地理的特性に注目。その中でも、道路斜面管理に関するJICAの技術協力プロジェクトも進んでいたブータンを調査対象国に選定しました。

斜面防災技術に強み

プロテックエンジニアリングは、斜面災害を未然に防ぐための防護構造物の開発・販売を専門とする企業です。斜面防災に強みを持つ同社は、普及・実証・ビジネス化事業では落石対策に役立つ「ジオロックウォール」と斜面を安定化する「マクロネット」の現地実証に取り組みました。

ブータンに設置した「ジオロックウォール」

ジオロックウォールは、特殊繊維で補強した土の擁壁です。大規模な落石の衝撃を吸収し道路に落石が転がり落ちることを防ぎ、直径2mの石が40mから落ちてくるエネルギーに相当する5500kJ(キロジュール)のエネルギー量をもつ落石まで受け止めることができる設計です。過去、東日本大震災では、宮城県の現場で推定エネルギー750kJの落石を捕捉したことを確認しました。

また、現地の土を使って構築、組み立てることが可能で、壁面の緑化もできるため景観の保全にも寄与します。

ジオロックウォールは落石による危険を取り除く製品である一方、落石の発生を未然に防ぐ製品がマクロネットです。
マクロネットは表層が不安定な斜面に高強度の金網と縦横のワイヤロープを張り、ワイヤロープの交点にアンカーを打設して斜面を固定します。アンカーの抵抗力によって岩の抜け落ちを防止し、単純な構成で設置が容易な点が特徴です。

ブータンに設置した「マクロネット」

両製品とも国内では15年以上の販売実績がありますが、プロテックエンジニアリングは新たな成長戦略の一つとして海外市場に目を向けています。韓国やトルコ等へ製品展開の実績もあり、本調査の前身にあたる案件化調査をきっかけにブータンでのビジネス展開を検討し始めました。

新型コロナに直面 調査中断中も現地パートナーと関係を継続

2019年8月に普及・実証・ビジネス化事業を開始し、現地適合性や有用性を検証するため、2019年12月にマクロネット、2020年3月にジオロックウォールを設置しました。

ジオロックウォール設置工事の様子

しかしその後新型コロナウイルスが世界中で広がり、渡航・行動制限により活動を中断せざるを得なくなりました。調査再開まで先が見えない中ではあったものの、案件化調査でつながりを持った現地パートナー候補企業と密に連絡を取るなど、調査中断中も工夫しながら現地との関係性を保ちました。

調査が再開したのは調査が中断してから2年半後の2022年10月。両製品の状況を調査すると、マクロネットはアンカーが地山へ固定されたことにより地山が落ち着いており、道路を管理する政府関係者への聞き取りから「施工後に事故や落石、斜面崩壊などは一切発生していない」ことが確認できました。

また、ジオロックウォールを設置した道路斜面は斜線や歩道への落石の侵入がまったくなくなり、通過車両や人へ影響を及ぼす可能性のある直径1m以上の落石を15個捉えていました。

ジオロックウォールによる落石の捕捉を確認

検証データから経済性を分析、有用性を政府に説明

プロテックエンジニアリングの調査の特徴は、実証で得た結果をもとに災害抑止による経済的効果を算出し、政府機関に対してデータを用いて製品の有用性を説明した点です。

調査中、製品が設置された道路で交通量調査やインタビューを実施し、移動人数、物資輸送状況などを把握。これに道路局から道路斜面災害に対して投入された復旧費用の情報を加味し、道路斜面災害の発生によって失われる道路管理費や経済機会の損失など社会的総費用を割り出しました。

社会的総費用と、マクロネット、ジオロックウォールにかかる初期投資の金額を比較検討した結果、両製品導入の投資回収期間は5~10年で、それ以降は採算性が得られるということを算出しました。

道路局局長へ対面で説明したときの様子

日本では一般的なライフサイクルコストの考え方は途上国では通用しにくいと言われており、日本製品を途上国で販売していく際にハードルになることも多々あります。このため、途上国での展開ではデータで定量的な効果を可視化することは、途上国側の理解を深めるうえで非常に有効な取り組みです。

プロテックエンジニアリングは、有用性をデータで明示的に示したことで、道路局関係者の関心を強くひきつけました。説明を聞いた道路局の局長からは「とても有益な内容であった」とのコメントが得られました。

進出機会を継続的に模索

災害が起きてからではないと効果が見えにくいことから、防災意識が高くない途上国でのビジネスは難しいとされています。事実、ブータンなど途上国は道路、橋梁、トンネルの整備や建設に比べて斜面対策にまで手が回っていの優先度が高くありません。また、防災投資へのインセンティブが低く、道路斜面災害対策に予算を仕向けるマインドが働きにくい状況にあります。


普及・実証・ビジネス化事業で業務主任者を務めた相澤さんは「調査に協力いただいたコンサルタントとは今も継続的に情報交換をしています。今回の提案製品とは別の製品のブータンでの導入について外部から問い合わせも入っており、今後もチャンスを探していきたいです」と話しています。

豪雪地で培った確かな技術力を課題解決に活かすべく、プロテックエンジニアリングの海外への挑戦は続きます。

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