The First 1,000 daysの母子保健改善~乳幼児の栄養改善とともにベトナムの働く女性への貢献に - アサヒグループ食品株式会社(東京都)

2024.03.21

アサヒグループ食品株式会社は、菓子、健康食品、サプリメント、フリーズドライ、ベビーフードなどの多彩な商品を製造・販売しています。同社ブランドの一つである「和光堂」は、粉ミルク、ベビーフード、スキンケア用品などの商品を中心に取り扱っています。
同社は、ベトナム国に栄養不良の二重負荷(低栄養(やせ、発育障害、微量栄養素不足など)と過栄養(過体重、肥満等)が個人や集団内で同時に見られたり、一生涯の中で低栄養と過栄養の時期が存在したりする状態)が存在し、子どもの出生後最初の1,000日間へのケアが課題であることに着目し、JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業のビジネス化実証事業にて、ベトナムの乳幼児の健全な成長への貢献や新たな事業展開の可能性を調査しています。(調査期間:2023年8月~2024年11月)

混在する栄養不良を解決するために…

近年ベトナムは急激な経済成長を遂げており、生活環境の変化から貧困率や死亡率は低下し、人々の生活の質は向上しつつあります。一方で、大都市を中心に肥満に起因する疾病が増え始め、過栄養という新たな問題を抱えることになりました。対して、同国の一般家庭では過栄養に対する問題意識が低く、適切な食事の摂取が行われていないのではないかと考えられます。これらの問題を改善するためには、養育者(子供を養って育てている人)に対して子どもに何をどれだけ食べさせるか、どのように調理するかといった教育や支援が重要となります。そのため、養育者が乳幼児に対して適切な離乳食を与えられるような実践ガイドの作成が必要になっています。

実践のためのガイドで養育者を手助け!

ベトナムには数多くの離乳食や妊産婦に係るガイドラインはあるものの、養育者個人にまで行き届いておらず、実際に食育を行う中で活用できるようなガイドはありません。この問題に対しベトナム国立栄養研究所や関連機関は、同社のサポートを得ながら、ベトナム版実践ガイドの作成を行い、全国への普及に取り組みます。
この実践ガイドは栄養面だけではなく、子どもの噛む力などといった摂食機能の発達に応じて何を食べさせるかという日本の「授乳・離乳の支援ガイド」の考え方を踏まえつつ、ベトナムの状況に沿うように作成される予定です。
本事業では、ベトナムと日本の専門家が互いに歩み寄りながらベトナムにあった考え方を模索しています。実践ガイド作成にあたっているアサヒグループ食品の担当者からは、
「日本の考え方を押し付けるのではなく、ベトナムの食文化や食習慣、育児環境を理解して、相手の考えを尊重しながら一緒になって取り組むことを意識している。」
「相手と志を共有するとともに、相手の関心ごとやメリットを交えながら話を進めている。」
とのコメントをいただきました。

ベトナムで開催した栄養シンポジウム

さらに、養育者が実践するためのガイドを作成することを目的に、乳幼児の予防接種の待機時間や小売店の店頭等で栄養相談などを行い、活動内容を実践ガイドに反映していきます。活動を行う中で現場ならではの苦労や経験をお聞きすべく、このプログラムに携わっている増田さんにインタビューを行いました。増田さんは現在、栄養士としてベトナムで栄養・食事のコンサルティングサービスを提供するNutrihome社の栄養分野の医師・栄養士の先生方と協議をしながらプログラムの中心として活動されています。

分かり合えた瞬間(インタビュー)

栄養士 増田さん / JICAスタッフ=J

J:Nutrihomeで現場の先生方の理解を得るにあたって苦労している点や大切にしていることを教えてください。

増田さん:摂食機能の発達を考慮した離乳食の概念は今までベトナムに根付いていなかった考え方で、その指導方法を先生方に共感してもらうのに時間がかかります。しかし、先生方の気持ちや思い、背景・考え方を理解することに時間を割き、きちんと丁寧に説明していくことで先生方が腹落ち(心から納得)する瞬間があります。そこからのスピードは速く、スムーズに話が進みます。ビジネス展開において、話し合いを時間軸で考えていく人が多い中、自分たちは先生方の気持ちに合わせて進めていきたいと考えています。

J:指導方法を考えていくなかで、気を付けていることはありますか?

増田さん:先生方もベトナムのガイドラインに基づき自信をもって養育者へ指導してきた経験があります。私たちも先生方の指導方法を学ばせて頂きながら、理解を深めていくようにしています。

新しい考え方のもと養育者へ指導していくことは、今まで先生方が指導してきたことを自身で否定する事にもなりかねません。養育者と先生方の現在までの関係性を尊重し、養育者からの信頼を損ねない様に工夫をしていくことが大切だと肝に銘じています。

Nutrihome社の先生(左)と増田さん(右)

Nutrihome社の先生方と会議をする増田さん(モニター前)

今後はビジネスで栄養問題を解決!

JICAとともに行うビジネス化実証事業の中で同社は、日本の母子保健や離乳食の知見を活かした実践ガイドの作成・普及を目指し、現地の保健医療機関と協力して栄養相談や実態調査を実施しています。また、本調査で明らかになった結果は今後開催予定のシンポジウムで報告され、栄養分野の専門家や研究者と共に食育や栄養、母子保健に対する理解をさらに相互に深めていく予定です。
今後は乳幼児とその家族をターゲットに、現地業者を通じた同社のベビーフードの販売を行うとのこと。また、製品だけでなく適切な離乳食の知識普及を通じて、ブランドの価値向上にもつなげていこうとされています。このように同社は事業で現地の医療従事者、養育者に対して適切な食事・栄養の知識を普及し、それに応じた製品を提供することで、ベトナムの乳幼児の健全な健康を促すことを目指しています。
この取り組みは乳幼児の栄養改善だけでなく、ベトナムの働く女性への貢献にもつながっています。同社の取り組みにより、女性の社会進出が進んでいるベトナムにおいて、各家庭での離乳食作りの時間短縮を通じ子育てに余裕をもたらすことが期待されます。

アサヒグループ食品株式会社「和光堂」の離乳食を試食するNutrihome社の先生方

編集後記

私自身、途上国の栄養問題と聞くと飢餓や低栄養というイメージが強かった中、ベトナムの都市部で起きている過栄養問題についてお話をお伺いでき、大変勉強になりました。このような新興国で浮上してきている新たな問題は、国際協力という視点では注目されにくいかもしれません。だからこそ、民間企業から見たビジネスの視点でODAとは違った社会問題解決へのアプローチの仕方を創出していくことの重要性を改めて感じました。また、現地で活動されているお話をお聞きし、その姿勢から熱い思いと真摯に向き合うお人柄が伝わってくるインタビューでした。アサヒグループ食品株式会社の皆様、ありがとうございました。今後のご活躍を心からお祈りしています!

(民間連携事業部インターン 川越理子)

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