アンモニアの可能性は無限大! 再生可能エネルギーの余剰電力で生産したアンモニアがラオスの農業に革新を起こす - つばめBHB株式会社 (東京都)

2024.03.27

アジアやアフリカ、アメリカ、ヨーロッパなど世界中でアンモニアの生産を通じて、社会課題の解決を目指すつばめBHB株式会社。JICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」を活用し、ラオス人民民主共和国(以下、ラオス)で余剰水力発電を活用した現地肥料生産の基礎調査を行いました。(実施期間:2021年5月~2023年2月)

ラオスの現状

ラオスでは、労働人口の約7割が農業セクターに従事しています。
天然ガスや石炭など化石燃料が取れないラオスでは、化学肥料の生産に必要なアンモニアをつくることができず、肥料などの農業資材やアンモニア自体を輸入せざるを得ません。昨今の世界情勢を受けて世界的に肥料の安定調達が喫緊の課題となる中、ラオス国内においても肥料国産化のニーズが高まっているものの、肥料製造技術が脆弱であることから目標とする食料生産に必要な肥料需要を満たすことができない状況があります。

一方、ラオスは水力発電で国内の電力消費の90%を賄っており、再生可能エネルギーの導入が進んでいる国でもあります。しかし、送電線容量の不足や電力需要の過少のため、年間を通して、使用されない発電設備容量及び発電電力量の余剰があるという現状がありました。

そこで、つばめBHB株式会社は、余剰水力発電を有効活用することで、肥料をラオス国内でも生産でき、農業問題や食料安全保障の強化につながるのではないかと考えました。そして、JICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」に応募・採択され、同社の小型アンモニア製造装置のラオスへの導入可能性を調査することになりました。

2021年5月から2023年2月にかけて行ったラオスでの基礎調査について、JICAインターン生の早川が同社の須田裕美さん(以下、須田さん)にお話を伺いました。
 


JICA:貴社はどのような事業を行っているのですか。
須田さん:弊社は、細野秀雄榮譽教授が発明したアンモニアを合成する画期的な触媒(エレクトライド触媒)を社会実装することを目的に設立した会社です。現在、世界でアンモニアは年間約2億トン製造されており、そのうちの80%以上が肥料の原料となっています。他にもナイロンの原料や、化粧品に使われている尿素の原料など基礎化学品として身の回りのあらゆるものに使われています。しかし、アンモニアを生産していない国々は多く、そういった国々はアンモニアや肥料を海外から輸入しています。この現状に対し、弊社の技術を導入することで、輸入に頼っている国でもアンモニアや肥料を地産地消できるようにすることが弊社のビジョンです。

JICA:ラオスで基礎調査をする中で苦労や困難はありましたか。
須田さん:現地の人にアポイントを取ることが一番大変でした。ラオスに限った話ではないと思いますが、現地の関係先とのアポイントメントが日本を出発する直前まで固まらないこともよくあります。ラオスについてからも常に各ステークホルダーと電話で調整していました。私は、もともとラオスで10年間くらい働いていた経験があったので慣れていましたけど、初めてラオスに行って仕事をする人は大変だと思います。

現地企業との事業連携にかかる打ち合わせ(その1)

現地企業との事業連携にかかる打ち合わせ(その2)

今回、「電力を使ってアンモニアを生産して肥料をつくる」という事業に取り組む上で、関係する省庁が異なり、電力に関してはエネルギー鉱山省、化学品の製造のプラントの建設は商業工業省(以下、商工省)、肥料の生産は農林省にアポイントを取る必要がありました。
エネルギー鉱産省は現地の商社が繋いでくれ、商工省は以前JICAの企画調査員としてラオスで働いていた時の繋がりがあったので会うことが出来ました。しかし、農林省だけが繋がりがなく、農林省の下にある研究機関の方には会えたのですが、調査期間中は農林省の方とお会いすることが出来ませんでした。調査が終了してから、弊社のパートナーが繋がりを持っていたので、農林省の方と会うことができました。

また、これもラオスに限った話ではないですが、日本との商習慣の違いが難しいです。相手の国で事業をさせていただく、商売をさせていただくというマインドを持って、その国の商習慣や文化、目に見えない規範(ノーム)を理解してから、ビジネスに臨まないと上手くいかないと思います。国際的な取引が頻繁に行われているようなタイなどの中進国は、外国の人たちとどう付き合うべきかを心得ているため比較的ビジネスがしやすいですが、ラオスなどのいわゆる開発途上国の人は外国の人たちと接する機会が少なく、一口に海外事業と言ってもハードルはより一層高くなります。そして、現地の方とお話しするときに、その事業はビジネスとして成り立つのか、儲かるのかを端的に説明する必要があると思います。

JICA:ラオスでビジネスするにあたってどのように情報収集しましたか。
須田さん:ビジネスをする上で重要なのは適切なビジネスパートナーを見つけることで、そのためには、とにかくたくさんの人に会う必要があります。現地で通訳兼現地コーディネーターを雇い、現地政府や企業とのアポイントやコーディネーションなどを委託して、一件アポイントを取ったら報酬を払うという成果報酬の形で賃金を払っていました。優秀な現地コーディネーターを掴まえることが、現地でネットワークを構築する上で、非常に大切なことです。
また、JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)が公開していた資料を参考にしたり、現地国の商工会議所の企業リストなどから会いたい企業数十社をリストアップして、現地コーディネーターにアポイントを取ってもらったりしました。また、JETROやJICAが担当している地域であればそういった機関に相談して色々調べて頂いたり、情報を頂けたりするのでJETROやJICAなどからのバックアップをもらいながら現地で調査を進めていきました。
現地政府や現地の商工会に行けば企業を紹介してくれるだろうと思うかもしれませんが、実はそんな簡単ではなく、企業の紹介まではしてくれません。法律や制度について知りたいときは現地政府に聞きますが、よく分かっていないケースも多々あります。(笑)

JICA:現地調査を経ての成果や得たことは何ですか。
須田さん:今回は、あくまで基礎調査段階だったので、当初の目的であった現地のビジネスパートナーを見つけるなど、ビジネスをする上での必要条件をある程度満たすことができたことが成果です。JICAから支援を受けて調査が出来たことで、予算を頂けたことはもちろん、JICAという冠があったおかげで、ある程度現地企業や省庁が会ってくれました。日本の中小企業がいきなり行って会いたいと言ってもそう簡単には会ってくれないところも多いですが、JICAの調査事業としてアポイントを取ったことで、会ってくれるようになったのではないかと思います。

エネルギー鉱山省との FS (実現可能性調査)覚書調印式

JICA:貴社のビジネスに対してラオス政府はどのような反応がありましたか。
須田さん:肥料の国産化はラオスのNSEDP(国家社会経済開発計画)の中でも優先的に取り組まれるべきものとされています。ラオス政府は、肥料を輸入に頼っている現状に対して、食糧安全保障の観点から危機感を持っています。そのため、弊社のプロジェクトの話を政府に持ちかけたとき、実現出来たら面白いビジネスであると言ってくれました。ラオスの投資計画省は投資誘致外交目的で各国に投資ミッションを派遣しており、2023年も投資ミッションが来日しラオスビジネスに関心のある日本企業を集めて投資セミナーを開催しました。そんな中、ラオス進出を検討している当社事業についてご関心をお持ちいただき、川崎市にある弊社のパイロットプラントへの訪問を打診頂きました。このように、 ラオス政府にかなり期待してもらっているので、この事業を実現するには色々課題があるのですが、一つ一つ解決していってラオスでの事業を実現させるために頑張っています。

「日ASEAN経済共創フォーラムでの低炭素肥料オフテイクアグリーメントへのLOI調印」
JICA基礎調査を通して見つけた現地パートナーおよび国営企業とオフテイクアグリーメントを締結

JICA:今後のラオスでの事業計画を教えてください。
須田さん:弊社が挑戦している低炭素肥料は非常に難しい分野であり、どう採算を取っていくのかというビジネス的な課題があります。また再生可能エネルギーは今、各国の企業が事業開発、技術開発を競い合っている段階です。その中で、ラオスでの事業は一つの布石という形ではあるのですが、弊社も早期にFID(投資決定)をする必要があると考えています。
非常にチャレンジングな目標ではあるのですが、これから事業環境を整えて年内には投資決定をしたいなと思っています。

JICA:ラオス以外の海外事業の今後の展望について教えてください。
須田さん:世界中で事業を行っており、例えば、現在ブラジルなどでも経済産業省の制度を使わせてもらって現地調査などをしていますし、今後アフリカにも進出していきたいと思っています。ラオスでのビジネスの進行スピードは比較的ゆっくりなので、先にほかの国で事業が進んでしまうかもしれません。(笑)

JICA:ビジネスをする上で経済的価値だけでなく社会課題の解決など社会的価値を追求することによる貴社にとってのメリットは何ですか。
須田さん:社会価値のある事業で経済価値を追求するというのが弊社のビジョンでありミッションです。スタートアップ企業として、大手企業がしないようなことをチャレンジし、先駆者利益を取ることができたら大きいと思いますし、これがスタートアップ企業の存在意義、価値であると思います。経済価値を追求することが困難な課題に挑戦していると「その事業儲かるの?」といろいろな人に言われますが、逆にそこに挑んでいます。飽くなき挑戦ですね。

JICA: 海外事業を広く行っている貴社から海外展開しようとしている企業に対して何かアドバイスはありますか。
須田さん:私がアドバイスできる立場ではないと思いますが、やるかやらないかだけだと思います。日本国内だと法規制が厳しいけど、海外なら規制が緩いことが多々あり、日本では難しい事業が行えるというメリットがあると思います。弊社の場合は再生可能エネルギーを最大限活用する事業なので、価格面でも、法規制の面でも再生可能エネルギー調達がしやすい国や地域を主戦場として事業を展開しています。日本の風習として、失敗を恐れてチャレンジしたがらない、失敗すると責任を負わされる面があると思います。日本から一歩出ると中国や韓国の企業が積極的に事業を行なっており、国際競争力で日本企業が劣ってきている現状があります。日本企業は世界の企業に比べて技術レベルが高いと思いますし、企業体としてもしっかりしている企業さんが多いと思うので、ある程度資金があり、人もいる企業さんは海外事業にチャレンジしていくべきだと私は思います。

JICA:JICAの本制度を活用しようか検討している企業に何かメッセージはありますか。
須田さん: JICAの調査事業として実施しているということで、現地企業や政府など会いたい人たちにアポイントを取ることが出来たと思います。また、JICAは途上国に根差しているので、日本国内にいては得られない現地の生の情報を得ることができる点も、ラオスでビジネスをする上で、非常にありがたかったです。そのため、途上国ビジネスを進める上で、JICAの制度を活用するのは、非常に心強いと思いますし、ぜひ活用した方が良いと思います。

JICA:本日は貴重なお話を聞かせていただき、どうもありがとうございました!

左からJICA 早川、つばめBHB株式会社 須田さん、JICA 坂



アンモニアの生産を通して、その地域の課題の解決や社会に大きな価値をもたらせる可能性にとてもワクワクしました。ラオスだけでなく世界中でのプロジェクトの今後が楽しみです。

(民間連携事業部インターン 早川元太)

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