SNS×災害 ~世界中からデータを集めて災害から世界を守る~ 株式会社Spectee (東京都)
2024.09.25
近年、日本は地震や台風、火山噴火などをはじめとする様々な災害の危機に囲まれています。そのような危機を回避するべく、株式会社SpecteeはSpectee Proという防災システムを開発しました。Spectee ProはSNSに投稿される情報から危機管理に有用な情報をAIの活用により抜き出し、24時間リアルタイムで可視化することが可能なシステムです。このシステムを導入することで、災害対応に従事する関係者が災害現場の状況を迅速かつ正確に把握することができ、より効果的な災害対応へ貢献することができます。
このようなシステムを持つ株式会社Specteeは、2022年の世界リスク指標で世界193ヶ国のなか1位となり、また日本と同様に災害大国であるフィリピンにSpectee Proを導入するため、JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業を通して、Spectee Proの導入可能性を調査することになりました。
そこで今回、2022年11月から2024年2月まで行った案件化調査について、株式会社Specteeで海外事業を手掛けていらっしゃる根来諭様に、JICAのインターンの山本がお話を伺いました。
――まず、中小企業・SDGsビジネス支援事業を知ったきっかけを教えてください。
防災テックスタートアップカンファレンスというイベントがきっかけです。そのイベントでは、防災テクノロジーを持ったスタートアップ企業が、自社の保有している技術や活用事例を発表するという場が設けられます。そこで我々の発表を見てくださった方が、こういうプログラムがあるということを紹介してくださって知ることになりました。
――ありがとうございます。その他にも海外進出を支援する制度は数多くあるかと思いますが、何が決め手となり本事業を利用することになったのでしょうか。
我々のビジネスは防災という公共性の高い分野に取り組んでいます。つまり、とにかくお金が稼げればいいというものではなく、社会課題の解決とビジネスを両立させる必要があり、その点においてJICAのプログラムが間違いなく相性が良いと思い、応募をしました。
――ありがとうございます。つまり、JICAを選んだ理由は、社会課題を解決するビジネスにフォーカスをしている点ということですね。
そうですね。調査段階でJICAのサポートなく我々がフィリピンに乗り込み、政府関係者に会ってくださいと言っても、おそらく誰も会ってくれません。 そのため、JICAの看板があるということがすごく大きかったです。日本は長い間フィリピンに対してODAによる協力をし続けてきているため、彼らは“日本”というものにすごく信頼をおいてくださっています。JICAのレターを携えてアレンジすると、フィリピンの行政機関の方々が迎えてくれて、我々がなかなか容易にアクセスできない職位の高い方たちにすぐにお会いすることができました。これは小さなベンチャー企業にとってサポートなしでは不可能なことで、大きく助けていただいたと感じています。
――フィリピンと日本には災害大国という同じ環境がありますが、先進国と開発途上国では異なる条件もあります。本調査を行う中で、フィリピンが開発途上国であるがゆえの調査の壁はありましたでしょうか。
正直、開発途上国だからどうということはありませんでした。むしろ、皆さんフレンドリーに接してくださったので感謝しています。デメリットは特にありませんでしたが、強いて言うならば、地方で泊まった時のホテルがひどかったことでしょうか。それも、冷房の音があまりに大きくて寝ることができなかったとか、虫が出たとかその程度です。開発途上国であるがゆえの壁は特になかったと感じています。
被災地に近い学校を訪問したときの様子。この学校は2017年に日本が建てた学校
――Spectee ProはSNS に上げられた情報が基盤となって動いているサービスだと認識しております。開発途上国であるがゆえの壁がなかったということは、日本における SNS からの情報収集量と、フィリピンにおける SNS からの情報収集量はそれほど差はなかったということでしょうか。
正確に比較したわけではありませんが、収集量の差はないように感じます。なぜなら、フィリピンではスラム街に住んでいるような人々でもスマホをライフラインとして所有しており、多くの人がSNSを利用しているからです。これはポジティブな発見でした。
――言語における壁もありませんでしたか。
そうですね。調査自体は全て英語で行われ、公務員の方々はほぼ全員英語ができる印象で、全く障害なく進めることができました。しかし、フィリピンは多言語国家で、マニラ周辺では公用語のフィリピン語(タガログ語)が話されていますが、セブアノ語やビサヤ語、さらにそれらから派生された言葉など多くの言語が存在します。そのため、SNSでの情報収集ではこの点が新しいチャレンジとなりました。ファクトチェックのチームをダバオで立ち上げましたが、彼らはタガログ語だけではなくビサヤ語も理解できるという点がダバオを選定した理由として大きいです。
チームを立ち上げることにしたダバオでの様子
――今回の調査の中で、フィリピンの政府にシステムを紹介する場面とフィリピンの民間企業に対してアプローチをする場面があったと思います。B to B向けの提案とB to G向けの提案をされる中で意識していたことはありましたか。
B to B
向けの提案では、システムの紹介だけで終わるのではなく、事業運営にどのようなメリットがあるのかをきちんと訴求することを心掛けました。先ほどの開発途上国であるが故の壁とまではいきませんが、開発途上国の民間企業は、先進国と異なり、リスクマネジメントに対して投資をする余力やマインドがないのが現状です。そのため、「日本の企業はこういう使い方をしており、このような費用対効果が出ています」というユースケースを、しっかりと伝えることを心掛けました。
B to G
向けの提案では、感情に問いかけることを心掛けました。政府は人の命を守るというすごく崇高な責務があります。そのため、「こんな便利なツールがあります」という紹介だけではなく、その結果一人一人の命を助けることにつながるということを訴求しました。また、日本とフィリピンは共通して災害大国であるとともに友好的な関係を築いている近隣国であり、防災というテーマにおいて協力しあうことの大切さや、そこに貢献したい我々の熱意をお伝えするようにしました。
メトロマニラ・パッシグ市に提案している様子
フィリピンの防災の司令塔であるOCD (Office of Civil Defense)を訪問した時の様子
――今回の調査に限らず、普段海外進出する上で意識していることがあれば教えてください。
海外進出で大事にしていることは、「現場」です。例えば、私の前職であるメーカーでの経験を例に挙げると、店頭での販売データや他社のデータなどを見て分析することも大事ですが、机の上で数字を見ているだけでは得られない情報が販売店場である店頭にはたくさんあります。例えば、陳列されている様子からどのブランドが、今一番勢いがあるか把握したりとか、実際に来店しているお客様の層を見て新しいプロモーション方法を考えたりだとか。データを分析しても人によってあまり結論が変わりませんが、こうした現場で集めた情報が最終的にビジネスの勝敗を決めると思っています。そして、現在リモートワークが最前線になってきていますが、やはり熱量はface to faceでなければと伝わりません。特に新しいことを立ち上げようとするには、現場に飛び込まないと絶対に物事は進みません。
――調査が終わった今振り返って、調査のときにやっておいてよかったことは何かありますか。
海外の政府機関などと一緒に仕事をした経験がある人や、特に調査対象の国で仕事をした経験がある人をパートナーとして巻き込めたのがよかったです。このJICAのプログラムに採択されたとしても、現場では面談先とのアレンジなどに苦労が伴います。例えば、どの省庁の誰と会うべきか、何か問題が起きた時にフィリピン政府の誰に連絡すればいいか、そういった現場のノウハウを知っている人がいると心強いです。さもないと、完全に袋小路に入ってしまう可能性もあると思います。我々のチームには元々JICAで働いていた方がコンサルタントとして入ってくれました。彼は現場経験が長く、どこを押せば何が出てくるって分かっている人です。
――最後に今後の展開についてお聞かせください。
まず、フィリピンにおいては、2024年10月にフィリピン版のSpectee Proを正式に立ち上げ、その後普及・実証・ビジネス化事業(※)に進んでいく予定です。そして、次にアジア圏、特にASEAN諸国に広げていくことを計画しています。その理由は、この地域が災害に対して非常に脆弱だということに加え、日本企業にとって製造集積地として重要な国が沢山あるからです。タイやベトナムでも調査を始めていますが、気候変動による水害の増加に苦慮していますし、インドネシアもフィリピンと同じく火山噴火や地震が多く発生する「災害大国」のひとつです。
そして最終的には、アメリカや中東、アフリカ、ヨーロッパなど全世界に広げていきたいと思っています。我々は戦略として「あらゆる危機に関するデータを集める」ことを徹底的に進めていきます。今回フィリピンにチームが広がったことで、フィリピンで発生する危機に関する非常に詳細な情報が届き始めています。こうしたデータ収集のネットワークが多くの国に広がっていくと、世界中の危機に関するデータが手に入るようになります。我々はそれを解析し、可視化することで、より多くの命を救えるような防災・危機管理ソリューションをお客様に提供していきたいと考えています。
(※)普及・実証・ビジネス化事業は2023年度までの旧制度の支援メニューです。株式会社Specteeは2023年度に同メニューで採択されています。2024年度の公募はなく、ビジネス化実証事業の内容を拡充し類似の調査が可能となっています。
――ありがとうございます。本日は貴重なお話をありがとうございました。
あらゆる危機に囲まれている今、災害時にいかに迅速な対応をとることができるかはSpectee Proによって大きく左右されることになるのではないでしょうか。それほどSpectee Proは防災において重要な役割を担っていくシステムであると考えています。「災害時にSpectee Proあり」がそう遠くはない未来であると楽しみにしております。取材にご協力いただいた株式会社Spectee様、誠にありがとうございました。
(民間連携事業部インターン 山本羽栞)
今回インタビューをしたときの様子
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