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【事例紹介】地理的影響により公正な取引ができていなかった地域でカカオの品質向上に取り組む - 有限会社テオブロマ(東京都)

2025.02.18

渋谷や神楽坂に店舗を構える有限会社テオブロマ。同社代表取締役である土屋公二氏は、パリ サロン デュ ショコラ CCCで金賞、インターナショナルチョコレートアワード 世界大会で金賞、アカデミー オブ チョコレートで金賞を獲得するなど国内外で高い評価を得るショコラティエ・パティシエです。
そんなチョコレートを作るプロである同社がなぜアフリカに飛び、カカオ農家と共にカカオの品質向上に取り組むことになったのか、ぜひご一読ください。

チョコレートを作るのに欠かせないカカオ。同社では仕事の関係者と共にカカオ農園の視察を毎年企画しています。カカオがなっているところを見て、農家の方と交流しカカオの生産国について学ぶという趣旨のもと行われるこの企画の一つとして訪れたのが高品質なカカオの産地として知られるマダガスカルでした。企画をきっかけに同国のカカオ産業について調べると、港のある下流域と上流域をつなぐ道路が整備されていないため、上流域の農民がカカオを自力で港まで輸送できないことが分かりました。収穫したカカオを港まで運ぶには仲介業者が欠かせず、上流域のカカオが仲介業者に買い叩かれる構造がありました。加えて、上流域ではカカオの品質を大きく左右する発酵・乾燥の技術が定着しておらず、カカオが安値で取引される要因になっていることも分かりました。

そこで土屋社長は貧困層の多い上流域の農民の生活を改善したいという思いから、中小企業・SDGsビジネス支援事業(以下、JICA Biz)を活用し上流地域の農園や収穫量、取引されるカカオの価格等の調査に加え農民に対しての研修施設で豆の加工技術の研修を行うなど品質改善に取り組みました。

そうして収穫された上流域のカカオを使用した bean to barチョコレートは世界チョコレートコンクールでも受賞をするほどの高い品質となりました。また日本でも株式会社銀座仁志川との食パンコラボなどに上流域で栽培されたカカオが使用されています。

MADAGASCAR CACAO PROJECT 65%の商品画像。同社がマダガスカルの農家さんと共に生み出したカカオ豆を使用したチョコレートはイギリスのチョコレート品評会「アカデミー・オブ・チョコレート2018」に初出品で金賞を獲得しました。

乾燥カカオ豆のチェック方法の研修中

以下のパートでは本事業に携わった有限会社テオブロマ 代表取締役の土屋公二氏にお話を伺いました。


ショコラティエとしてチョコを作るのみならず、カカオの原産地に行き農家の貧困問題にも取り組むモチベーションはどこから生まれるのでしょうか。

チョコレート職人として原料のカカオに興味を持つことは当たり前のことです。そして2015年に実際に現地を訪れた際、先進国との生活の違いに愕然とし、何か私たちにできることはないかという思いが常にありました。

② 2016 年の現地調査開始以降、困難もあったと思いますが今日まで事業を続けることができた秘訣を教えてください。現地の農家さんとはどのように信頼関係を築き、チョコレートコンクールで受賞するほどにまで品質を向上できたのでしょうか。

農家の方と信頼関係を築くにはまずは私たちの目的が利益主義ではないことを理解していただくことが重要でした。そして農家の人たちと本音で話し合い、きちんとやれば生活が豊かになるということを分かってもらうことが大切です。品質を上げるためには、ただお金や物を渡すのではなく、高品質なカカオ豆ができなければ買い取りはしないということを理解してもらいました。その上で、毎年現地に行き作業現場を見て指導を続け、農家の人たちは改善をする、この繰り返しを着実にこなすことでカカオ豆の品質を上げていきました。

マダガスカル事業においてJICAの支援事業を活用していただきましたが、どういった場面で活用してよかったと感じましたでしょうか。

現地調査はマダガスカルでの事業を行う上で最も重要なプロセスでした。農家数、関わる人数、収入、貧困の原因などを把握しその上で、どうしたら生活が良くなるかを考え、現地の指導者と綿密に話し合いました。また、何度もカカオ豆のサンプルを日本に送り品質検査をしたのですが、JICAの支援事業の調査費を活用できたことが良かったです。

株式会社明治は貴社の取り組みをきっかけにJICA Bizを活用しマダガスカルにてカカオ農家の支援をすることとなったと伺っております。その事業の中では御社が育成した優良農家がリーダーとして独自のカカオ豆生産方式を開発することで安定して高品質なカカオ豆を生産する体制を確立したと株式会社明治の事業完了報告書にありました。こうした協力体制は貴社のどのような考えによって実現したのでしょうか。

株式会社明治(以下、明治)と弊社は20年以上前から仕事上の付き合いがありました。マダガスカルのプロジェクトを進める中で、自社の力だけでは限界があると認識し、プロジェクトの途中で明治と一緒にマダガスカルに行きました。その機会をきっかけに弊社は、明治に対しマダガスカルのカカオ農家が抱える潜在的な問題や、個々の農家の特徴、カカオ豆のポテンシャル、キーマンは誰かといった情報を全て共有するようにしました。私たちの目標は自社の利潤ではなく、貧困問題の解決と高品質カカオ豆の入手です。私たちの持っている全ての情報を共有することで、明治の組織力や技術力でより優れた成果を得られると思いました。

前述の通り、現在は自社商品にはもちろん他社とのコラボ商品にも本事業の対象地で収穫されたカカオが使用されていますが、今後の日本での商品化や現地の事業においてなにか展望や期待があれば教えていただけますでしょうか。

パティシエの仲間にもこの取り組みを紹介していきたいです。
弊社が毎年現地を訪れる時に、お客様や同業者を連れていくことによって、マダガスカルのカカオ豆、カカオ農家、人物、生活水準を理解していただける機会を増やしたいと考えています。そして、高品質なマダガスカルカカオをより多くの人に知っていただくことを願っています。


現地調査の際にどうしたらよいカカオを栽培できるかではなく、まず現地の現状と共に貧困の原因について調べ、どうしたら農家の方の生活が良くなるのかを考えた同社。そうしたまっすぐな思いが農家の方との信頼関係を築き、農家の方が同社のアドバイスを信じて改善に活かす好循環が生まれたのだと思いました。
一朝一夕では成しえないこうした地道な活動を支えるのは同社のカカオに対する情熱とマダガスカルの農家から日本の消費者まで皆を繋ぎ、幸せにする温かな志なのだとお話を伺うなかで感じました。
お忙しい中取材にご協力いただきありがとうございました。

■案件概要はこちら↓
https://www2.jica.go.jp/ja/priv_sme_partner/document/551/1502840_summary.pdf

■本事業について掲載された記事はこちら↓
【mundi 2018年3月号】
https://www.jica.go.jp/Resource/publication/mundi/1803/201803_18.html
【HIGHFLYERS】
http://www.highflyers.nu/hf/kojitsuchiya1/

■中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)についてはこちら↓
https://www.jica.go.jp/activities/schemes/priv_partner/activities/sme/index.html

発酵方法の研修中の様子

2023年の農家訪問の様子

2024年の農家訪問の様子。インターナショナル チョコレート アワードで表彰されたことを農家のみなさんに報告しました。

イギリスのチョコレート品評会「アカデミー・オブ・チョコレート2018」金賞の授賞式の様子

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