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【事例紹介】フィリピン初の日本式介護システム「小規模多機能型及び入所型サービス(*1)」を実践する介護施設がパシグ市で開所 - インフィック株式会社(静岡県)

2025.05.14

インフィック株式会社(以下、インフィック)は、介護サービスの事業運営・経営指導に加え、IoTを活用した 高齢者見守りシステムの自社開発・販売を行う、介護×テクノロジーの分野における先進企業です。
同社は、訪問介護・通所介護・ショートステイを柔軟に組み合わせた「小規模多機能型」サービスを展開し、利用者やご家族の状況に応じた最適な介護を提供しています。
中でも、「飲んで歩く」(水分補給と歩行により排泄や運動機能の低下を防ぐ)という実践的アプローチにより、利用者の自立度維持・向上を図る取り組みは、利用者やその家族から高く評価されています。
さらに、自社開発のICT技術の導入により、介護スタッフの業務効率化と見守りの高度化を実現。高齢者の安心・安全な暮らしと、介護者の負担軽減を両立する環境づくりを推進しています。
日本国内では、静岡、東京、埼玉、神奈川で延べ2,000人に介護サービスを提供しており、テクノロジーを活かした新しい介護のかたちを広げています。


(*1) 日本の「小規模多機能型居宅介護」は、1つの事業所が「通い」「訪問」「宿泊(短期)」の3つのサービスを柔軟に組み合わせて提供する仕組みです。本プロジェクトではこの考え方を参考にしつつ、フィリピンのニーズに応じて、必要に応じた長期滞在(ロングステイ)も組み合わせた形でサービスを提供する予定です。

インフィック初の海外実証拠点がオープン

2025年3月20日、インフィックの新しい取り組みとして、海外初拠点となる日本式高齢者介護施設がフィリピン国パシグ市で開所しました。同施設は、利用者の安全性に配慮した設計で、バスルームの手すり、段差のないフローリング、車椅子対応の洗面台など、居者の快適性と安全性を確保するつくりとなっており、新たにインフィックの研修を受けた現地スタッフ8名と日本人専門家3名からなるチームが、専門的な介護を提供すると同時に、家族への介護に関する助言や説明も行います。
この取組みは、JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業【JICA Biz】(2024年6月~2026年6月)を活用して実施中であり、インフィック初の海外ビジネスの実証活動として、カウンターパート(C/P)であるパシグ市とインフィックの共同事業「パシグまごころプロジェクト」として立ち上げられました。パシグ市は、パシグ市内の敷地の一部延床面積約200㎡を提供し、インフィックは、高齢者の訪問介護、通所介護、短期入所生活介護および現地介護人材の育成を提供します。

パシグ市Magokoro介護施設外観

プライバシーに配慮した居室

フィリピンにおける高齢者介護ニーズ

フィリピン統計局によると、フィリピンの高齢化人口は2025年までに1,160万人に達すると予想されており、高齢者介護の需要は増加の一途を辿っています。
このような課題に対応するためには、専門的な知識と技術を持つ将来の介護者を育成することが不可欠であり、ビコ・ソット市長率いるパシグ市は、増加する高齢者へのサービスの強化に積極的に取り組んでいます。
「パシグまごころプロジェクト」は、日本式の高齢者介護をフィリピンに展開するだけでなく、ICTを活用した革新的な介護の仕組みを導入することで、質と効率の両立を目指すモデルプロジェクトとなっています。開所式で実演されたインフィックのデジタル・センシング・ケア・システム「LASHIC(ラシク)」は、利用者の心拍や動き、部屋の室温・照度などの身体および環境データを常時モニタリングし、異常の兆候を検知・通知するシステムです。これにより、介護スタッフは巡回などの日常的な負担が軽減され、より必要な介護に集中できるようになり、介護の質と利用者の安全性が大きく向上します。
また、「飲んで歩く」といった日常生活動作を重視した自立支援型のアプローチを取り入れることで、利用者の生活機能の維持や改善が期待されるとともに、現地介護人材の実践的なスキル習得や介護サービスの能力向上にもつながっています。本プロジェクトは、現場に根ざした介護モデルを通じて、地域全体の介護力の底上げを目指しています。

身体機能維持のためのエクササイズ

介護スタッフによる送迎の様子

何故、フィリピンを選んだのか(インタビュー)

インフィック増田社長=増田社長 / JICAスタッフ=J

J:御社は10年にわたる調査の結果、フィリピンを初の海外展開の地に選定されました。これは、フィリピンのマンパワーの可能性や高齢者介護の課題を認識したからだと思いますが、何故フィリピンだったのかを教えてください。

増田社長:当社は以前より特定技能介護人材の登録支援機関として、様々な国から海外人材を受け入れてきました。その中で、フィリピンを選んだ理由は、大きく三つあります。
一つは、介護に対するホスピタリティが高く、優れた人材が多いこと。実際に日本で働くフィリピン人介護士との関わりから、その適性を強く感じていました。
二つ目は、これからフィリピンが本格的な高齢化を迎える中で、介護制度やサービスが未熟であることに気が付きました。日本の自立支援型の介護を早期に導入することで、課題解決に貢献できると考えました。
三つ目は、日本とフィリピンが連携する「アジア健康構想(AHWIN)」の枠組みです。このプロジェクトを通じて、日本の介護の良さを現地に根付かせ、持続可能なモデルを構築していきたいと考えています。

J:フィリピンには多くの市がありますが、何故パシグ市をカウンターパートに選定したのかを教えてください。

増田社長:事業地については当初、「生活環境」「物価水準」「人件費」「利用者層」「C/Pおよび協力者」の観点から、メトロ・マニラ、セブ市、ダバオ市の 3 地域を対象に調査を開始しました。調査開始から2年経ったあたりでは、サンファン市での展開考えていました。しかし、調査期間中に市長選挙があり、市長はじめプロジェクトに関係してくれた職員が辞任してしまいC/Pから共同プロジェクト実施に対する回答が得られなくなってしまいました。そのような中、当時プロジェクトに賛同してくれたサンファン市の職員がパシグ市に転職し、ビコ・ソット市長も将来の高齢者介護への課題を感じていたことから、パシグ市として協力の意思を示していただきました。これを受けて、パシグ市を新たなC/Pとして選定するに至りました。

J:コロナ期間の中断もありながら2016年の調査開始から10年近くビジネス展開計画を模索してこられた訳ですが、ここまでの紆余曲折含めご経験をお聞かせください。

増田社長:2016年の調査開始時は施設入居型の介護施設を想定していましたが、調査を進める中で、フィリピンの大家族制度(自宅での介護が主流であること)や支払能力などの問題が判明し、施設入居型サービスのニーズは想定より低いと判断しました。
そこで、まずは、在宅介護や通所介護をメインに導入し、運営しながら入所型に移行するプランに方針を変更しました。
在宅介護、都度利用サービス、入所型介護サービスにかかる市場規模や高齢者介護の実態については、2年かけて家庭訪問や医療機関等からのヒアリングを繰り返し調査しました。その結果、社会的・文化的な背景を踏まえても日本式介護への関心が高いことが明らかになり、介護サービスへの期待や家族介護の負担軽減、介護の質の向上と介護専門職としての雇用創出に関する期待が高いことが分かり、本格的に実証事業に進む意義があると確信しました。

J:本プロジェクトを完了させた後、自社による本格的なビジネス展開を検討されていらっしゃいますが、事業モデルや今後の意気込みについてお聞かせください。

増田社長: 基本的には、本実証事業と同じく、通所介護、訪問介護、泊り(ショートステイ)を組み合わせた日本の小規模多機能型居宅介護に準じたサービスに加え、現地ニーズに応じた長期滞在(ロングステイ)を組み合わせたサービスを提供することを考えています。
例えば、退院が決まっているものの、入院中に体力や身体機能レベルが低下し、自宅での生活に不安がある場合には、我々の施設で少しずつ現在の身体状態に慣れていき、安心して自宅に戻れるような介護を提供する。あるいは、ご家族の都合や体調不良等で一時的に自宅介護ができない時、高齢者の体調が不安定な時などに泊りのサービスをご利用いただけるようにする、といった活用方法を想定しています。
フィリピンには、自宅で生活している要介護高齢者が通所介護で利用している馴染みの施設に一時的に泊まって介護を受けるサービスはなかったため、通所介護、訪問介護、泊りの3つのサービスを組み合わせて柔軟に利用できるサービスはニーズとビジネスチャンスがあると見込んでいます。

フィリピンでの日本式介護システム浸透を目指して

フィリピンは平均年齢25歳という若い国ではありますが、ASEAN第2位の人口大国であり、将来の高齢社介護需要が増大することが予想されています。マルコス大統領は2023年のASEAN首脳会議で、来るべき高齢化社会に備えて各国が明確な危機感を持って準備する必要があると指摘しました。急速な高齢化社会を迎え、質の高い介護に対する需要はますます高まり、専門的な知識と技術を持った将来の介護福祉士を育成することは大変重要です。
今回のインフィックとパシグ市の「まごころプロジェクト」が成功することにより、全国の高齢者介護事業、健康長寿社会のモデルとなり、多くのフィリピン人が質の高い尊厳ある介護を受けられるようになることが期待されます。そして、JICAはフィリピン人とともに持続的な形で日本式介護の普及を目指す本プロジェクトの一翼を担えることを嬉しく思うとともに、社会全体が支え合う精神を育んでいく場として、インフィックが存在し続けることを願っています。

車椅子でも利用しやすい洗面台

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