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【事例紹介】全児童のための教材がパプアニューギニアの児童の学力・学習環境を改善! 笑顔を生む算数ワークブック - 学校図書株式会社(東京都)

2025.09.26

学校図書株式会社とJICA Biz事業のご紹介

学校図書株式会社は主に小学校・中学校の教科書や副教材を出版する企業です。同社は2016年~2019年にかけてパプアニューギニア独立国(以下「パプアニューギニア」)においてJICAの技術協力プロジェクト「理数科教育の質の改善プロジェクト」に参画し、初等学校3学年~6学年の算数と理科の新カリキュラムに準じた初の国定教科書とその教師用指導書の開発に携わりました。2020年に教科書が完成し、その後JICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業(以下、「JICA Biz」)」を活用し、2023年~2024年に「初等教育向け算数ワークブックを活用した学力向上にかかるビジネス化実証事業」(以下、「本事業」)を行いました。本事業では、国定教科書に完全準拠した算数ワークブックをパイロット校に試験的に導入し効果を実証し、また、全国に広げるための販売及び輸送体制構築のための調査を行いました。調査を経て、算数ワークブック使用による学力向上が明らかとなり、2023年にはパプアニューギニア教育省に公認補助教材として認定されました。
今回は、本事業をご担当された学校図書株式会社の会長 芹澤さん、編修部 駒沢さん、デジタル教材部 川口さんにJICAインターン生の岩渕が事業背景やJICA Bizの成果、今後の展望をお伺いしました。

算数ワークブック(初等学校4学年向け)

算数ワークブックに一生懸命取り組む現地の児童

事業始動の背景

JICA:はじめに、算数ワークブック事業の前に実施された国定教科書の開発に携わることになった経緯を教えてください。

芹澤さん:2005年頃に日本の授業研究が世界的に有名になったことが背景にあります。海外では先生の授業を見せ合って改善する授業研究というものがほとんどありませんでした。そこで日本の授業研究会に多くの海外の先生方が参加されるようになったのですが、教科書が全て日本語だったため、海外の先生方向けに算数教科書の英訳版を日本で初めて作成し紹介しました。すると、パプアニューギニアの教育省の方が私たちの教科書に注目してくださり、同国が新カリキュラムを導入するタイミングであったこともあり、それが国定教科書の開発に繋がるきっかけとなりました。

JICA:海外の先生方を招いた授業研究がきっかけだったのですね。教科書の開発後、算数ワークブック事業をお考えになったきっかけは何だったのでしょうか。

駒沢さん:教科書の開発に関わっていく中で、学習に必要な副教材がないことが分かってきたことです。また、開発した教科書は全児童に配布されているはずでしたが、実際は児童全員に行き渡っていない学校もありました。教科書は貸与制で、学校で保管されているため、児童は教科書を家庭に持ち帰ることができないので、家庭での学習が困難な環境でした。児童に質の高い教育を届けるためには、教科書を補うものが必要ではないかということで教科書に完全準拠した算数ワークブックを開発するアイデアが生まれました。

JICA:貴社のどのような強みが現地の課題解決に貢献することができたとお考えでしょうか。

駒沢さん:一番は、やはり私たちは教科書会社なので、教科書や副教材の編集作成のノウハウを持っているというところです。具体的には、私たちは日本の教科書準拠の計算ドリルを既に作成していましたので、パプアニューギニアでもそのノウハウを生かして算数ワークブックを作成することができました。

JICA Bizの活用

JICA:JICA Bizを知ったきっかけ、応募のきっかけを教えてください。

駒沢さん:ワークブックの現地販売代理店(Kagicos PNG Limited)と元から繋がりがあり、その販売代理店の方から「ワークブックの販売促進のために応募してみないか」とJICA Bizの紹介があったことがきっかけです。是非、ワークブックをパプアニューギニア全国に広げるきっかけになれば良いなと考え、応募しました。

JICA:JICA Bizのどのような点が魅力的でしたでしょうか。

駒沢さん:まず、費用面を支援いただける点です。パプアニューギニアは交通の便が悪く、地方に行くにも飛行機や船を使う必要があり、お金がかかりますし、物価も安くはないため、費用面での支援は大変ありがたかったです。また、パプアニューギニアの実情に精通したJICAコンサルタントの方々の支援を得られたことも大変ありがたかったです。

JICA:様々な関係者との連携が必要だったかと思いますが、関係者との連携は取りやすかったでしょうか。

駒沢さん:以前JICAとパプアニューギニアの教育省と共同で国定教科書の開発を行っていたため、教育省の協力は非常に得やすかったです。そのおかげで、現地の各学校に訪問する際に必要な教育省からの許可が取りやすかったです。

現地教育省副事務官・第一次官補、学校図書株式会社関係者とJICAコンサルタントの皆様

現地の教師の皆様

JICA:ビジネス展開に向けて最も苦労された点とその解決策を教えてください。

駒沢さん:ワークブックの効果測定のために、ワークブック使用前後にテストを行ったのですが、パイロット校でワークブックの使用が適切に行われていたかどうかを確認する作業に苦労しました。児童がワークブックをどの程度利用したかを調べるため、使用されたワークブックの中身をチェックしたり、児童にインタビューをしたりしました。教師に対しては、児童の解答が誤っていた場合、どのような指導をしていたかなどをインタビューしました。

JICA:非常に地道な作業だったのですね。

児童へのインタビューを行う様子

教師へのインタビューを行う様子

JICA Biz の成果

JICA:JICA Bizでの調査がその後のビジネス展開で特に効果的だった点をお聞かせください。

駒沢さん:算数ワークブックの効果が実証されたことがその後のビジネス展開に大きく寄与しました。効果が実証されたことで、算数ワークブックは教育省から公認補助教材として認定され、学校の予算での購入が可能になり、ビジネス拡大がしやすくなったと感じています。

JICA:算数ワークブックを使用した児童やその保護者、教員の反応はいかがでしたでしょうか。

駒沢さん:児童は一人一冊ワークブックを持てることが本当に嬉しそうで、目をキラキラさせていたことがとても印象的でした。現地の教師から「教科書が数人で共有して使われるのが一般的な中、自分用のワークブックを持てたことに嬉しさや誇りを持っている」、「自宅に持ち帰って兄弟や友達同士で教え合うという良い変化も見られた」という意見もありました。また、ワークブックは 1 ページ 100 点満点で配点してあるのですが、教師が採点すると児童が非常に喜び、児童が自主的に学ぶ姿勢がついたとの声もありました。
保護者からは、児童が自宅にワークブックを持ち帰るため、学校でどのようなことを勉強しているか把握できるという声がありました。教師からは、「ワークブックを活用することで黒板に問題を全て板書する必要がなくなり、時間の節約になった」、「ワークブックを宿題や自習時間の問題として活用することにより自分で問題を作成する必要がなくなり、業務量の軽減に繋がった」などの評価を頂きました。

自分の算数ワークブックを手に持ち喜ぶ児童

現在の課題と今後の展望

JICA:算数ワークブックの普及について現在抱えている課題についてお聞かせください。

駒沢さん:現在抱えている課題としては、ターゲット顧客、ワークブック利用時、著作権、配送の問題があります。
一つ目の課題として、ターゲット顧客が限られるという点があります。現状、個人単位で児童の保護者に直接購入いただくことは、ワークブックの効果が十分に浸透しておらず難しいです。また、学校で使用する場合、クラス全員が持つ必要があることも踏まえ、原則個人への販売は行わず、現在は郡政府や学校単位への販売が主要ターゲットとなっています。
二つ目の課題として、ワークブック利用時の課題があります。教師が、ワークブックの問題がどのような趣旨で作られているのか、児童が間違いやすいポイントはどこかを理解していない場合や、ワークブックの解答集に解答プロセスが記載されていないため、間違った教え方をしている場合があります。
三つ目の課題として、著作権の課題があります。海賊版が既に作成され、使用されています。パプアニューギニアではコピーによって法律を破っているという意識が希薄で、むしろ多くの児童が使用できるため良いことであると考える教師がいます。教育省に依頼して各学校にコピーや海賊版の作成・利用に関する禁止の通達を出してもらい、対応しています。
最後の課題として、配送の問題です。交通・物流が整備されていない地域も多く、JICAの技術協力プロジェクトで開発した教科書が行き届いていない地域がありました。エンドユーザーの児童・教員にきちんと届けられるかどうかがビジネス展開上の大きな課題となっています。

JICA:本事業を経て、他国へのビジネス展開等はご検討されていますでしょうか。

駒沢さん:現時点では、まず一番にパプアニューギニアでの算数ワークブック事業を安定させることを考えています。その後については、他の太平洋諸国もパプアニューギニアの教科書に興味を持っているとの話を聞いていますので、太平洋諸国での教科書の利用が広まれば、ワークブック事業についても展開していきたいと考えています。他国に展開する際には文化の違いも考慮して内容の精査をする必要があると思っています。例えば、3桁の計算の習熟では日本の小学生の場合、買い物などの場面を例に出しますが、パプアニューギニアの小学生が買い物をするとき、3桁の計算をすることは、パプアニューギニアの通貨のキナ(100 キナはおよそ 3,500 円)では現実的ではないので、他国に展開する際はそのような違いも考慮する必要があります。

海外進出を検討中の企業様へのメッセージ

JICA:最後に、JICA Biz の利用を検討されている企業様に向けて、アドバイスやメッセージを宜しくお願いいたします。

駒沢さん:一番大事なのは、支援事業をよく理解しているコンサルタントや現地の人の協力を得ることだと思います。本事業では現地に非常に精通したJICAコンサルタントの方々に支援いただいたおかげで、スムーズに調査を進めることができました。

芹澤さん:他にも、現地のJICA海外協力隊に協力してもらうのも良いと思います。海外協力隊の方々は現地に深く入って生活をしていて、現地で信頼関係もできているため、そのような方々と協力していくことが大事だと思います。また、もう一つ重要な点として「粘り強くやること」があると思います。短期間で何かを成し遂げるのは中々難しく、長期的な視点で粘り強く、現地の文化や現地の生活の中に入っていくことが必要だと思います。これは実際あった話なのですが、教育省からの支払いが銀行を経由して、円で日本に送金されるまで2年程かかるということがありました。現地銀行に合わせて、粘り強く交渉することが大切です。開発途上国でのビジネスには一筋縄ではいかない困難さがありますが、少子高齢化の影響で日本国内の教科書・教材市場が縮小していることも考慮すると、今後成長性の高い開発途上国に投資していくことはむしろ長期的な企業の存続性を高めると考えています。

インタビュー中の様子(左から川口さん、駒沢さん、芹澤さん)

算数ワークブックを持っての集合写真(左から駒沢さん、JICA取材担当:岩渕、芹澤さん、川口さん)

編集後記

今回の取材を通して、日本式の質の高い教科書や副教材が海外の教育課題解決に繋がる可能性を秘めていることを感じました。また、学校図書株式会社の皆様が日本とは異なる環境の中で、現地に精通した関係者と協力し、相手国の文化や環境に柔軟に対応しながら、長期的に現地の課題解決に取り組まれている姿に、現地の課題解決への強い想いとその推進力を感じました。末尾になりますが、取材へのご協力をいただいた学校図書株式会社の皆様に心より感謝申し上げます。

(民間連携事業部インターン 岩渕由佳)

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