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【事例紹介】金融をもっと身近に。南アでタクシー運転手向けローン提供を開始! - 株式会社HAKKI GROUP(東京都)

2025.10.17

レンタルから資産へ、南アのタクシードライバー向けローンの提供を開始

ケニアでタクシードライバー向けの融資事業を手掛ける株式会社HAKKI GROUP (以下、HAKKI社) は、南アフリカへの進出を目指し、2024年4月~12月に中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)のニーズ確認調査を実施しました。8か月間で顧客のニーズや金融規制等の情報を集め、同国への進出を決定。2024年10月に現地法人を設立し、2025年3月には事業を開始しました。
今回は、ニーズ確認調査で調査主任者を務めたHAKKI社の時田浩司さん(共同創業者兼取締役)と、伴走支援を行ったJICAコンサルタントである監査法人トーマツの渡辺太郎さん(マネジャー)に、ニーズ確認調査を通して得た気づきや今後の展開についてお話を伺いました。

同じアフリカ地域でも各国に応じたローカライゼーションが必須

――HAKKI社のサービスの概要を教えてください。

(以下、時田さん)タクシードライバー向けに、車両をローンで提供しています。HAKKI社名義の車両をドライバーに貸し出し、ドライバーはタクシー業を始めます。月額で車両の費用を返済し、完済すると車両がドライバーの所有物になる仕組みです。
アフリカなど途上国ではUberやBoltなどの配車アプリを使った移動が一般的です。多くのドライバーは自分で車を用意する必要がありますが、インフォーマルセクターで働くドライバーは与信がないため、銀行からお金を借りることができず、リース会社や個人投資家から高額なレンタル料金で車を借りざるを得ない状況があります。1日の仕事で得た収入がリース会社への支払いに消えてしまうため手取りが増えず、その日暮らしから抜け出すことができないという課題を抱えています。

――強みは何ですか。

ケニアで流通しているモバイルマネー決済システムの M-PESAの利用履歴や、配車アプリの利用履歴のオルタナティブデータを活用した独自の与信管理システムです。決済アプリの行動履歴などから、融資に足る与信をもつ者かスコアリングします。車両には追跡装置も備え、不審な動きをする車両は瞬時に見つけます。信用力が低く、銀行でお金を借りられなかったドライバーにも融資でき、車という資産の形成を実現しました。
ローンを完済したドライバーは、タクシードライバーとしての収入を増やしたり、車を売却した資金でビジネスを始めたり、思い思いに生計を向上させています。
妥当な条件で貸し出しているため需要は非常に大きいです。2019年からケニアで事業を開始し、これまで累計3,000人程度に車を提供してきました。

――今回、南アフリカ(以下、南ア)を対象国に決めた背景を教えてください。

ケニアの事業が黒字化し安定してきたことから、成長戦略の1つとして他国展開を模索していました。
南アはアフリカ大陸の中で経済規模が大きいほか、政治、通貨、為替が安定している点に注目しました。また、ケニアの知り合いやJETROからも南アの薦めがあったことも後押しになりました。

――今回海外展開にあたりJICA調査を選んだ理由は。

南アの金融規制や法制度に関する情報を集めたいと考えていました。関係者から確かな情報を入手するため、政府関係者とネットワークをもつJICAを活用することが最適と考え、応募しました。

――8か月の間に3回渡航しました。現地調査ではどのようなことがわかりましたか。

パートナー企業との打ち合わせ(ヨハネスブルグ)

南アの中でも、地域によって潜在顧客の抱える課題が異なることがわかりました。初回渡航は、観光客が多くUberなどタクシーの利用が多いケープタウンに行きました。ところがケープタウンでは車を所有するドライバーの数が想定よりも多く、課題の深刻さは薄いことに気づきました。
渡航中、配車アプリ運営のBoltから、ケープタウンと南ア最大の都市ヨハネスブルグのドライバーデータを見せてもらったところ、ヨハネスブルグの方が車の所有するドライバーが少なく、課題が深刻だとわかりました。そこで第2回、第3回の渡航先はヨハネスブルグに変更しました。
加えて、南アは予想以上に移民が多かったです。調査期間中に約100人のドライバーに現状のヒアリング調査をしたところ、ジンバブエやソマリアなど周辺国からの労働者が半数以上占めていました。現在は南ア人のドライバーを対象にサービスを提供していますが、将来的に出身国が異なる人に対して、就労許可の有無もスコアリングの要素に組み込む予定です。

――ケニアと比較して違いは感じますか。

両国類似した課題はありますが、現場のオペレーションは国によってローカライズが不可欠だと感じました。例えば、ケニアでは中古車でローンを提供していますが、南アは中古車の輸入ができないため、新車の手配が必要です。
現地パートナーをしっかり頼りながら、各国の規制や商習慣に合わせてビジネスモデルを柔軟に変える必要があると実感しました。

JICA Bizをきっかけに現地企業と協業開始

――2024年10月に現地の法人登記を完了しましたが、ニーズ確認調査を通して南アへの投資を決断できた理由は何でしょうか。

ニーズ確認調査では現地の金融規制当局との面談を実施したり、法務コンサルタントから助言を得たりして、規制や法務での不明点がクリアになりました。また、調査期間中に良いパートナー企業が決まったため、進出を決断するのに十分な条件が整いました。

規制当局へのヒアリングの様子

――現地パートナーは時田さんの現地調査に同行するなど、存在感が大きかったと思います。

調査期間中にタクシードライバーを抱えるBoltの南ア拠点との協業が決まりました。Boltとはもともとケニアで提携していましたが、他国展開での連携に関して具体的な議論は進んでいませんでした。
今回JICAの調査で私が複数回渡航をしたことでこちらの本気度が伝わり、南アでの協業の話が一気に進展しました。現地のオペレーション構築にはパートナーから紹介のあった車両管理会社の知見をフルに生かしています。

――とても良いパートナー関係が構築できているようですね。

実は、2025年に南アでサービスを開始した直後、ドライバーがハイジャックに会う事件が起きました。ケニアでは経験したことがない事案だったので、治安の違いを痛感しました。しかし、事案が発生した際はパートナー企業の知見を活かして必要な処理を迅速に取ることができ、ドライバーも怪我なく収束しました。
HAKKI社のメンバーだけで対応していたら、パニックになっていたかもしれません。各国で必要な知識やノウハウは異なるため、ローカライゼーションの重要性を改めて実感した場面でもありました。

事業計画を2倍に上方修正

――南アでの事業展開について進捗を教えてください。

とても順調に進んでいます。このほど2025年の年間貸与目標台数を2倍に上方修正しました。
人の採用も進めており、これまで2名現地人材を採用しました。南アではパートナー企業等に運営を一部外注しているため、外注先の管理や調整を中心に担当してもらっています。
南アでは黒人経済強化政策(B-BBEE)に基づいた人材採用が必要です。業種ごとに求められる要求が異なるのですが、調査期間中に同政策に詳しい人と出会うことができ、適切なアドバイスをいただきながら事業を進めることができています。

貸した車両にはパートナー企業のロゴが入っています。貸した時点の車両の所有者はHAKKI社ですが、ローン完済後はドライバーの所有車になります。

――2025年2月には三井住友フィナンシャルグループからインパクト投資を受け、SMBCベンチャーキャピタルとソーシャルインパクト測定に関する覚書を締結しました。

HAKKI社の社会的影響を可視化することを目指した取り組みです。例えばドライバーが融資を完済した後の可処分所得の変化や、完済に至った顧客の数などを継続的にモニタリングし、ドライバーへの影響を定量的に測定します。
現在、インパクトと事業性の両立がトレンドになってきているなか、事業性を確保しながらインパクトを目指す事業の成功例はまだそれほど多くありません。SMBCグループのインパクト投資第1号案件として、インパクトの創出を可視化した事例を作れるように頑張りたいです。

――ニーズ確認調査では、インパクト創出への道筋を示したロジックモデルを作成しました。

JICAやJICAコンサルタントと一緒に作りました。全体を俯瞰して事業を見直す良い機会となりました。課題解決への道筋がたくさんある中で、社員たちと議論を重ね、優先する事項への目線をそろえることができたと思います。
現在は、ニーズ確認調査で作ったロジックモデルを、さらにブラッシュアップしています。

――長期的な事業計画を教えてください。

南アでの展開をきっかけに、グローバルサウス全体の、より広い範囲での事業展開の検討を進めることができています。
また、南ア国内での資金調達の議論も進んでいます。いままでは日本から低金利で資金を調達し、ケニアで貸し付けるモデルで運営してきましたが、南アの金融機関から資金を調達できるという話が出ています。リスク分散になりますし、お金の流れが現地で完結する仕組みができるかもしれません。金融システムが発展している南アだからこそ生まれた話であり、この事例ができたら実績としてケニアや他のアフリカ地域でも応用したいと考えています。

――最後に、JICA Bizを使った感想をお聞かせください。

非常に助かりました。弊社で南ア事業を担当しているのは私ともう一人の計2名です。限られたリソースの中でJICAの支援は大きな力となりました。調査期間中はJICAが規制当局の面談に同席したり、JICAコンサルタントはタクシードライバーのヒアリングを実施するなど一社員のように取り組んでくんでいただきました。

――伴走支援を担当するコンサルタントとして工夫されたことを教えてください。

(以下、トーマツ渡辺さん):途上国への進出自体が初めてという企業も多い中、HAKKI社は経験が豊富だったためこれまでとは違う、より高度な支援が必要でした。時田さんからは具体的な支援のリクエストを聞き、競合との細かなビジネスモデルの違いや、現地調査でのヒアリング事項の洗い出しなど、HAKKIさんの知見のピースを埋められるような支援を意識しました。

――コンサルタントとして、HAKKI社の展開をどのように見ていますか。

とにかくスピード感に驚かされました。また、HAKKI社の一番の特徴は、時田さんや他の社員のコミットメントの強さだと感じています。事業展開への道筋をみなさんが頭の中で描きながらニーズ確認調査を進めていただいたおかげで、JICAやJICAコンサルタントとの支援の相乗効果も生まれたのではと思います。

――南アフリカ、そしてアフリカ全土での展開を楽しみにしています!

インタビュー時の様子

関連リンク

■案件概要はこちら↓
https://www2.jica.go.jp/ja/priv_sme_partner/document/1591/Nz231136_summary.pdf

■株式会社HAKKI GroupのHPはこちら↓
https://hakki-africa.com/
※2025年9月より社名が株式会社HAKKI AFRICAから株式会社HAKKI GROUPへと変更になりました

■中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)についてはこちら↓
https://www.jica.go.jp/activities/schemes/priv_partner/activities/sme/index.html

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