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課題情報の発信(農業・農村開発)

1. 途上国の課題

世界では貧困や飢餓に苦しめられている人々の8割が農村部で暮らしています。貧困層の約6割は農業に従事しており、その数は全世界で5億人にも上ります。飢餓撲滅や食料の安全保障を確保する上で、農業・農村開発分野に対する官民双方からの一層の支援が強く求められています。農業・農村開発分野の課題は多岐に渡りますが、途上国の主要な産業である[01]稲作、[02]園芸、[03]畜産、[04]水産の課題との概要は以下の通りです。

開発途上国の農業・農村開発に関する課題の概要

途上国の主要な産業における課題に加え、生産現場から消費者に届くまでのサプライチェーンごとに、それぞれの産業の特徴に応じて、様々な課題が存在しています。その中には農業従事者だけでなく、行政が抱える課題も含まれています。下記に挙げた課題はその一部を示しています。

課題01:稲作

稲作における課題

途上国では食料安全保障の観点から、気候変動への対策も含めたコメの安定生産と供給が求められています。
また近年は、より高品質なコメの需要が拡大していますが、適切な収穫後処理や精米加工に関する製品・技術・ノウハウ等が不足しているのが現状です。

サプライチェーンでの課題

● 民間が抱える課題 ● 行政が抱える課題

課題02:園芸における課題

園芸における課題

人口増加や都市化に伴い、野菜・果物等の園芸作物の市場ニーズは多様化しています。
他方、市場ニーズを意識した園芸作物の生産体制や、加工・流通・販売に至る価値連鎖(バリューチェーン)を構築するための製品・技術・ノウハウ等が不足しています。

サプライチェーンでの課題

● 民間が抱える課題 ● 行政が抱える課題

課題03:水産における課題

水産における課題

気候変動に伴う海洋環境・沿岸生態系の変化や乱獲による水産資源の減少が課題となっており、IUU(Illegal, Unreported and Unregulated[違反・無許可・無報告])対策を含む適切な水産資源管理が求められています。
増加する水産物需要への対策も求められていますが、水産養殖や水産加工で必要となる製品・技術・ノウハウ等が不足しています。

サプライチェーンでの課題

● 民間が抱える課題 ● 行政が抱える課題

課題04:畜産における課題

畜産における課題

経済成長・人口増加に伴い、食肉を含む畜産品の需要は増加傾向にあります。
他方、安全な畜産品を安定して生産・供給するための家畜衛生管理や食品加工技術に関する製品・技術・ノウハウ等が不足しています。

サプライチェーンでの課題

● 民間が抱える課題 ● 行政が抱える課題

2. JICAの事業戦略(グローバルアジェンダ)

JICAは持続的かつ包摂的な農業・農村開発を推進し、農業(水産業・畜産業を含む)及び関連産業(加工・流通業等)を振興しています。これによって、農家の所得向上及び農村部の経済の活性化が図られ、農村部の貧困削減を実現するとともに、食料の安定的な生産・供給を通じ食料安全保障の確保を目指しています。この事業方針に基づき、(1) 稲作振興、(2) 包括的なフードバリューチェーンの構築、(3) 水資源の管理・活用、(4) 畜産振興・家畜衛生強化等の取組を行っています。

JICA​が認識する農業農村開発分野のグローバル課題​

持続的かつ包括的な農業・農村開発のために、1) 農家所得向上、農村部の経済活性化を通じた農村部の貧困削減、2) 食料の安定的な生産・供給を通じた食料安全保障確保の実現が課題となっている。

グローバルアジェンダの目的

農家の所得向上及び農村部の経済の活性化を通じ、農村部の貧困削減を実現する。​

食料の安定的な生産・供給を通じ、食料安全保障を確保する。​


【参考】JICAグローバルアジェンダ 「農業・農村開発」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/agricul/index.html

3. サブセクター説明

上記の課題をもとに、農業・農村開発分野におけるビジネスニーズや事業展開国を検討する際のポイント、企業の展開事例などを、「稲作振興」「包括的なフードバリューチェーンの構築」「水産資源の管理・活用」「畜産振興・家畜衛生強化」のサブセクターに分類して説明します。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

稲作振興

  • 現状と課題
  • アジア・アフリ力における人口増加やコメ食の広がりを受け、現在もコメの需要が増え続け供給が追いつかない
  • 現地ニーズ
  • 単収向上と生産面積拡大によるコメ生産の安定的拡大
  • バリューチェーンの構築・強化を通じた国産米の品質向上と安定的供給

対象国選定のポイント

JICAの稲作関連プロジェクト(CARD) の対象地域はアフリカであるため、アフリカでの事業展開の場合は、JICAの知見・ノウハウを活用できる可能性がある。
CARD分野ではJICAにて多くの事業を行っているため、JICAのODA事業との連携可能性が想定される。
【参考】ODA見える化サイト

アフリカ稲作振興のための共同体(Coalition for African Rice Development:CARD)
サブサハラ・アフリカのコメの生産量を倍増させることを目標に、2008年のTICAD IVでJICAが国際NGOのアフリカ緑の革命のための同盟と共同で立ち上げた国際イニシアティブ

想定される民間技術(例)

  • データを活用した営農支援技術
  • 栽培技術・気象情報提供支援
  • 営農管理支援
  • 生産コスト削減支援
  • 肥料・農薬・土壌改良技術
  • 土壌改良材
  • 土壌分析装置・技術
  • 農薬・バイオスティミュラント、等
  • 農業機械・販売 / レンタルサービス
  • 農機
  • レンタル/クレジット販売技術
  • 石抜機
  • 精米機
  • 水分計、等

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

包括的なフードバリューチェーンの構築

  • 現状と課題
  • 市場ニーズに合致した付加価値のある農産物供給ができていない
  • 流通インフラが未整備
  • 現地ニーズ
  • 農業経営の強化
  • 生産管理の効率化
  • 流通インフラの改善

対象国選定のポイント

JICAのフードバリューチェーン構築関連プロジェクトの対象地域は、東南アジア、南アジア、中米、南米が主であるため、同地域でのビジネス展開は、JICAの知見・ノウハウを活用できる可能性がある。
東南アジア、南アジアの中には成長率が高く、市場が急拡大している国もあるが、製品/サービスによっては既に市場が飽和しているところもあり、製品/サービスの市場の成熟度を見極めた対象国の選定が望まれる。

想定される民間技術(例)

  • 需給マッチングを可能にするマーケットプレイスの構築
  • IT等を活用した生産管理システム
  • 低温物流通(コールドチェーン)技術

農業会計ソフトと生産管理ソフト

農業会計ソフトと生産管理ソフト
農協などに会計ソフトの開発・販売をするソリマチ株式会社が、ベトナムで農業会計ソフトや生産管理ソフトを展開することで、農業にかかる生産コストのダウンや農作物の品質アップを目指している。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

水産資源の管理・活用

  • 現状と課題
  • 適切な水産資源管理体制が確立されておらず、水産業の持続性が担保されていない
  • IUU(Illegal, Unreported and Unregulated[違反・無許可・無報告])漁業への対策が不十分
  • 水産業から得られる収入が少なく、特に零細漁民の生活が困窮
  • 現地ニーズ
  • 水産資源管理手法に関する技術・サービス、養殖用の種苗生産技術、養殖技術等
  • 海洋監視システム等のIUU漁業対策技術、トレーサビリティシステム等
  • 水産加工機材、製氷機を含む鮮度保持のための関連装置等、水産物の付加価値化に繋がる製品

対象国選定のポイント

自社の製品と関連のある水産品の各国統計資料(漁獲量・輸出入量)を確認し、その市場規模を推定するところから開始するのが良い。この作業を通じて対象国を絞り込む。
絞り込んだ対象国の状況についてネット検索を行い、自社の製品が現地の課題解決につながるかを確認する。なお、JICAは東南アジア・大洋州・中米・アフリカで水産関連の事業を多く実施しており、同地域でのビジネス展開であればJICAの知見・ノウハウを活用できる可能性がある。

想定される民間技術(例)

  • 水産資源管理:海洋観測装置(水温・塩分濃度データロガー、ICTブイ等)
  • 養殖関連:養殖用の種苗生産技術、小規模養殖向けの関連養殖技術・機材等
  • IUU漁業対策:海洋監視システム、デジタル操業日誌による漁獲量管理技術、トレーサビリティシステム
  • 水産加工:製氷機、鮮度保持関連機材、食品衛生管理技術等

高度冷蔵保存技術

高度冷蔵保存技術
株式会社MARS Companyが高度冷蔵装置や雪状海水製氷装置を販売することで、モロッコのコールドチェーンを発展させ、水産物の高付加価値化に貢献。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

畜産振興・家畜衛生強化

  • 現状と課題
  • 家畜感染症を制御する家畜衛生システムが脆弱
  • 家畜の飼育環境と畜産物の処理環境が不衛生
  • 現地ニーズ
  • 家畜の損耗・死亡対策
  • 畜産物の安定供給
  • 食中毒・食品媒介性感染症対策

対象国選定のポイント

JICAの畜産振興・家畜衛生強化プロジェクトの対象地域は、東・中央アジア、南アジア、アフリカが主であるため、同地域でのビジネス展開は、JICAの知見・ノウハウを活用できる可能性がある。
新興・再興の感染症が 1990 年以降世界規模で流行しており、上記の地域の中で感染症により甚大な被害を被り喫緊の課題となっている国は対象候補の可能性がある。

想定される民間技術(例)

  • 抗生物質の代替品
  • ICTを活用した農畜産品のトレーサビリティ確保
  • 自動洗浄搾乳機

自動洗浄機能付搾乳システム

自動洗浄機能付搾乳システム
オリオン機械株式会社の自動洗浄機能付搾乳システムなどをタイで展開することで、搾乳プロセスの改善による生乳の品質向上や、食の安全性確保を目指す。

4. ビジネス展開上のTIPS

農産加工業等の例

ビジネス環境の把握

進出前にビジネスの外部環境の把握(外資規制・奨励、輸出入手続、税制等)が重要です。

国により現地法人を設立する場合、1億円程度の払込資本金が必要とされる国もあり、中小企業にとって現地法人設立による進出が難しい国も存在します。さらに業種により外資出資比率の上限が定められている国もあり、独資では進出できないケースがあります。

コスト・価格のローカライズ

現地の市場価格に敵した価格設定が肝要です。

日本製品の場合は、品質は良いが価格は高いということで、途上国では顧客は結局安い製品を購買してしまう例が多いといえます。現地ニーズに即して機能をおとして価格をローカライズする方法も考えられます。

食料品の例

製品・サービスのローカライズ

現地顧客の味覚を定量・定性的に把握し、食料品のローカライズが重要です。

味覚は人種や文化によって変わります。また、食料品のパッケージの色遣いやデザインの良し悪しも人種や文化によって異なります。これらの違いを現地で調査する必要があります。

5. 統計情報等

1)主な統計の使い方

FAOSTAT 様々な農産物の生産、食料安全保障と栄養、食料需給、貿易、価格、土地、投入材、持続可能性、人口と雇用、投資、マクロ経済指標、気候変動関連データ、林産物(生産量等)など確認できるサイトFAOSTATが、国連食糧農業機関(FAO)により提供されています。

FAOSTATの利用方法は、以下をご参照ください。
(公社)国際農林業協働協会「FAOSTAT利用マニュアル」
https://www.jaicaf.or.jp/fileadmin/_fileadmin_old_/user_upload/Statistics/faostat_manual_6.0.pdf
総務省統計局「FAO FAOSTAT: Production の使い方」
https://www.stat.go.jp/data/sekai/pdf/faostat.pdf

2)その他の統計