jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

課題情報の発信(教育)

1. 途上国の課題

教育の格差は地球規模で根強く残っており、途上国における教育分野の課題も多岐にわたります。読解力や計算力の不足、教科書や教材の不足、教員の数や質の不足、教育へのアクセスの問題、経済社会や産業をリードする専門人材の不足、大学等教育機関の質の問題などが挙げられ、結果として人々が潜在能力を伸ばせず、社会経済開発の妨げになることが考えられます。これらから3つの課題を取り上げ、それぞれの要因を「学びのコンテンツ」「学びの場」「指導力と体制」という視点で整理しました。

開発途上国の教育に関する課題の概要

課題01:学びを支える環境が不十分(就学前教育を含む)

課題02:脆弱層の子どもが学習機会を得られていない

課題03:経済社会のニーズと高等教育/技術教育が合致していない

2. JICAの事業戦略(グローバルアジェンダ)

JICAは、質の高い教育が提供されることで人々が自らの才能と能力を十分に伸ばし、尊厳をもって生きることができる社会を築くことをグローバルアジェンダの目的にし、日本の強みや経験が活かせる分野として4つのクラスター(協力方針)を設定しています。(1) 教科書・教材開発を中心とした学びの改善(算数、理科)、(2) コミュニティ協働型教育改善、(3)不就学児、女子、障害者、紛争影響国児童を含めて、誰ひとり取り残さない教育改善、(4) 拠点大学強化クラスターです。

グローバルアジェンダの目的

質の高い教育の提供を可能にすることで、すべての人々が自らの才能と能力を十分に伸ばし、尊厳をもって生きることができる社会の基盤を築き、ひいては持続可能な社会経済開発を推進する。


【参考】JICAグローバルアジェンダ 「教育」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/education/index.html

3. サブセクター説明

上記の課題をもとに、教育分野におけるビジネスニーズや事業展開国を検討する際のポイント、企業の展開事例などを、「学びを支える環境の改善」「脆弱層の子どもの学習機会の改善」「経済社会に貢献する高等教育/職業訓練・技術教育の改善」のサブセクターに分類して説明します。3つめの「経済社会に貢献する高等教育/職業訓練・技術教育の改善」は、途上国の経済社会の発展に不可欠となる大学レベルでの高度な専門人材の育成と、現地産業界のニーズを適切に反映させたタイムリーな技術者の育成という両方の目的が含まれます。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

学びを支える環境の改善

  • 現状と課題
  • 2.6億人以上もの子どもや若者が就学の機会を得られていない
  • 学校に通っていても、最低限の読解力や計算力を習得していない子どもが6.1億人以上
  • 現地ニーズ
  • 良質な学習教材の開発
  • 学習環境の改善(ハード・ソフト)
  • 教師の職能開発

対象国選定のポイント

教科書や教材の提供が民間セクターに開放されていること。
遠隔教育の場合はインターネット環境を含む学習環境の整備がされていること。
現在/過去のJICA事業の実施状況(既往事業との連携や事業成果の活用も考えられる)。
【参考】JICA事業の実施状況

想定される民間技術(例)

  • 教科書・教材(生徒用、教師用)
  • 算数アプリ等のデジタル教材や機材(遠隔教育、個別最適化)
  • 学習管理システム/校務支援システム
  • 学習評価ツール(評価問題、テスト)
  • STEAM、21世紀型スキル、非認知スキル育成プログラム
  • 教員研修
  • 教師のためのウェブコミュニティ、メルマガ配信サービス

算数eラーニング教材

算数eラーニング教材
株式会社すららネットのe-ラーニング教材によって、インドネシアの子供の算数力向上を目指している。

学習管理システム

学習管理システム
株式会社デジタル・ナレッジがウズベキスタンで学習管理システムを展開することで、地方学校の教員の能力向上を目指す。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

脆弱層の子どもの学習機会の改善

  • 現状と課題
  • 初等教育の就学率は90%に近づいているものの、10%は未だ就学できず取り残されている
  • 不就学児、女子、障害児、紛争影響国の児童等、脆弱層の子どもの学習環境/学習支援体制が整っていない
  • 現地ニーズ
  • 不就学児童(特に女子)の学習機会
  • 学習障害や視覚/聴覚障害を持つ児童を対象とした補助教材
  • 女子や障害児が安心安全に通える学校施設の整備

対象国選定のポイント

国や地域により脆弱層の実態や脆弱層に対する政策が異なるため、統計や政策の確認が重要。
現在/過去のJICA事業の実施状況(実施事業との連携や事業成果の活用も考えられる)。
【参考】JICA事業の実施状況

想定される民間技術(例)

  • インクルーシブ教育(ICTを活用した遠隔教育、学習の個別最適化等)
  • 視聴覚障害児等のためのアクセシブルな情報システムや教材
  • 学校施設建設への技術提供、バリアフリー資機材の提供
  • ノンフォーマル教育セクターへの教材・機材支援
  • 個別指導計画案の自動生成
  • 学童保育事業

読書障害者のためのアクセシブルなマルチメディア図書製作ソフトウェア

読書障害者のためのアクセシブルなマルチメディア図書製作ソフトウェア
エジプトにシナノケンシ株式会社のソフトウエアを導入することで、障害のある人でも読むことのできる出版物を増やす。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

経済社会に貢献する高等教育/職業訓練・技術教育

  • 現状と課題
  • 国をリードする大学が脆弱で、経済社会に貢献する人材を輩出できていない
  • 産業界のニーズに則した人材の育成ができていない
  • 就労希望者が求める就職支援、インターン、起業相談等が不十分である
  • 職業訓練・技術教育が未整備で、産業人材の実践的なスキルレベルが不十分である
  • 現地ニーズ
  • 拠点大学の教育力、研究力、産学連携力、大学運営力の強化
  • 現地産業界のニーズとマッチした技術教育カリキュラムの構築
  • 就職支援、インターン、起業相談
  • 日本語教育、日本への就労支援、留学支援

対象国選定のポイント

国や地域により産業構造や産業人材育成制度が異なるため、産業構造や制度を確認することが重要。
現在/過去のJICAや科学技術振興機構(JST)事業の実施状況を確認。実施事業との連携や事業成果の活用も考えられる。また、これらの事業成果を他地域で展開するの可能性も検討。
【参考】JST事業の実施状況 JICA事業の実施状況

想定される民間技術(例)

  • 学習管理システム、学務情報システム、サイバーセキュリティ対策サービス
  • 遠隔教育システム(含:複数大学間の共同研究、共同教育)
  • 企業―大学間の新技術/大学シーズの紹介プラットフォーム
  • 就職・インターン求人情報サイト
  • VR等を使った実習内容の拡充
  • 問題解決型カリキュラム(指導者研修)
  • 日本語教育、日本への就労支援、留学支援サービス

建機の運転技術

建機の運転技術
盛興業株式会社がラオスで建機オペレーターの育成を行うことで、オペレーターの雇用機会の創出と建設現場の高品質化を図る。

特殊分野の技能教育及び日本語教育

特殊分野の技能教育及び日本語教育
株式会社成田空港ビジネスが空港関連の人材育成を行い、トンガの若者に就労機会の提供し、産業・経済活動を促進する。

4. ビジネス展開上のTIPS

ビジネス環境の把握

進出前に関連分野のビジネス環境を把握しましょう。

対象国の教育に関する統計、教育制度、関連する法律等について調べましょう。現地の教育制度に則したサービスの提供がビジネスを行う上で重要になります。遠隔で教育や研修サービスを行う場合、インターネット環境の確認も重要です。
また、東南アジアやアフリカ等、各国で個人情報保護に関する規制が強化される流れにあります。学籍情報、成績などサービスが扱う可能性のある情報の情報管理上の制約にも留意する必要があります。

現地パートナーの確保

現地での事業展開をサポートするパートナーを見つけましょう。

現地パートナーの存在が成功への必須条件と言えます。教育分野では行政サービスの割合も大きく、現地行政機関とのネットワークを持つ現地パートナーを確保することで、事業を効果的に進めることができます。

製品・サービスのローカライズ

現地の状況にあわせた製品・サービスのローカライズを考えましょう。

現地での嗜好・購買力や外部環境によって求められる製品のニーズが異なります。現地の教育制度や入試制度に則したサービスを提供する必要があるため、仕様や価格を含めて製品・サービスをローカライズすることを考えましょう。
教材をローカライズする際には、現地の文化、自然環境、動植物、身近に手に入るものかどうか等をふまえて、地域性にあった内容にしましょう。日本では入手可能な文房具や実験用具、楽器等の教材が手に入らないことも多くあります。

5. 統計情報等

1)主な統計の使い方

世界各国の教育に関する統計や情報が国連児童基金(ユニセフ)や国連教育科学文化機関(ユネスコ)から提供されています。

国連児童基金(ユニセフ)

国連教育科学文化機関(ユネスコ)

2)その他の統計