jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

課題情報の発信(社会保障・福祉)

1. 途上国の課題

多くの途上国では、医療保険や失業保険等の社会保障の制度が不十分なだけでなく、障害者、高齢者、貧困層、女性、子ども等が十分な社会福祉サービスにアクセスできていません。全ての人が社会的、経済的に自立できるような制度とサービスの拡充が急務です。社会保障・福祉分野の課題は多岐にわたりますが、以下の2つの側面について、要因を「アクセシビリティ」「福祉・ケアサービス」「人材・啓発」という視点で整理しました。

開発途上国の社会保障・福祉に関する課題の概要

課題01:社会保障制度と社会的弱者向け社会福祉サービスが弱い

課題02:高齢化社会への備えができていない

2. JICAの事業戦略(グローバルアジェンダ)

JICAは、人々の生活や社会の安定の基礎となる社会保障制度の構築を支援し、障害者、高齢者、女性、子ども等が包摂される社会の実現をグローバルアジェンダの目的にして、「社会保障・障害と開発」事業を進めています。社会保障分野では、社会保険・福祉制度構築や労働安全衛生が挙げられています。障害と開発分野では開発におけるすべてのプロセスに障害の視点を反映し、障害者が受益者または開発の実施者として参加することを保障する「障害主流化」に向けた取り組みや行政能力強化・人材育成があります。日本の強みや経験を活かせる分野として、DXの推進による情報アクセシビリティの改善、介護福祉関連の用具や技術、サービスの提供や経験の共有等があります。

グローバルアジェンダの目的

人々の生活や社会の安定の基礎となる社会保障制度の構築を支援し、障害者、高齢者、女性、子ども等の脆弱者が包摂される社会の実現を推進する。

人々の生活の基盤となる健康と社会参加を守る体制作りを推進する。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター


【参考】JICAグローバルアジェンダ 「社会保障・障害と開発」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/social_sec/index.html

3. サブセクター説明

上記の課題をもとに、社会保障・福祉分野におけるビジネスニーズや事業展開国を検討する際のポイント、企業の展開事例などを、「社会保障制度の充実と社会的に弱い立場にある人々へのサービス」「高齢社会対策」のサブセクターに分類して説明します。「高齢社会対策」の一部は「社会保障制度の充実と社会的に弱い立場にある人々へのサービス」に含まれますが、その中でも特に、多くの途上国にとって新たな開発課題であり、幅広く日本企業の知見の活用が期待される分野となっています。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

社会保障の充実と社会的に弱い立場にある人々へのサービス

  • 現状と課題
  • 社会保障制度でカバーされているのは世界の人口の45%
  • 障害者、女性、子ども等の就学や就労機会が制限されている
  • 開発途上国の障害児の90%は就学の機会を奪われている
  • 現地ニーズ
  • 社会保障制度の強化
  • 障害者、女性、子ども等へのサービス向上
  • 障害者の社会参加支援
  • 労働安全や労働者の健康診断サービス

対象国選定のポイント

社会的に弱い立場にある人々や政策が国によって異なるため、統計情報(市場規模)や社会保障制度についての確認が重要。

想定される民間技術(例)

  • バリアフリー施設、エレベーター、スロープ、多目的トイレ等
  • 点字端末、スマートグラス、遠隔手話サービス、デジタル書籍等
  • 車いす、義肢・義手・装具、歩行補助具、電動スクーター等
  • リハビリテーション技術/サービス
  • 福祉人材養成
  • 労働安全衛生や労働者向けの健康診断サービス

社会保障制度運営のためのICTシステム

社会保障制度運営のためのICTシステム
株式会社日立製作所が開発したシステムで、複数の社会保障制度の加入者の情報を一元管理することができ、正確かつ効率的な社会保障制度とユニバーサルヘルスカバレッジ の実現に貢献する。

すべての人が適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられること

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

高齢社会対策

  • 現状と課題
  • 東南アジアや中南米等で人口の急速な高齢化が進んでいる
  • こうした地域では人口の高齢化は新たな社会課題で、対応する製品、サービス、ノウハウ等がない
  • 感染症に対する知識や意識が不十分
  • 現地ニーズ
  • 要介護高齢者向けの介護サービス
  • 健常高齢者向けの健康寿命延伸サービス
  • 生活空間に設置するセンサーなどを通じた非接触型の健康データの収集・伝達
  • 認知症に対する早期診断技術の開発・普及

対象国選定のポイント

高齢化の度合いや高齢者向けサービスの状況についての確認が必要。
年金等の高齢者向け支援制度の有無や経済状況が購買力に影響するため確認が必要。

想定される民間技術(例)

  • 高齢者向け施設、及び施設での介護ベッドや入浴用リフト等の資機材と給食やリハビリ/レクレーション等のサービス
  • 介護施設運営技術
  • 介護人材育成
  • 高齢者向けアイテム(電動シニアスクーター、歩行補助具、排泄用具、多機能スマート杖等の転倒防止アイテム、等)
  • デジタルや通信技術を活用した健康データ管理、見守りシステム、GPS装置
  • 健康寿命延伸製品/サービス(エクササイズ、食品、健康管理アイテム、認知症診断/予防サービス等)

介護支援装置

介護支援装置
株式会社エイビスが持つ介護支援ロボット技術を活かした高齢者見守りシステムで、高齢化が進むタイで高齢者の社会的保護の充実と長期介護ケア支援制度の確立に貢献する。

4. ビジネス展開上のTIPS

ビジネス環境の把握

進出前に関連分野のビジネス環境を把握しましょう。

対象国の社会保障に関する統計、社会保障制度、関連する法律等について調べましょう。国によって社会的に弱い立場にいる人々や高齢化の度合いが異なるため、事前にビジネス環境を把握することにより、速やかに事業を立ち上げることができます。
障害者等の事業対象者の問題やニーズを直接聞き、サービスや事業計画に活かしていくことも重要です。
アジアや中南米では人口の高齢化が進んでおり、各国で高齢社会対策や高齢者向けのサービスが広がりつつあります。現地の状況を把握して効果的にビジネスを展開する方法を考えましょう。

現地パートナーの確保

現地での事業展開をサポートするパートナーを見つけましょう。

現地パートナーの存在が成功への必須条件と言えます。障害者・高齢者へのケアサービス提供者・団体等の現地パートナーを確保することで事業を効果的に進めることができます。
事業展開において、行政機関との連携や公的補助の活用が考えられるため、現地パートナーが現地行政機関とのネットワークや社会保障/公的補助制度に関する知見を持っていることも重要なポイントになります。

製品・サービスのローカライズ

現地の状況にあわせた製品・サービスのローカライズを考えましょう。

現地での嗜好・購買力や外部環境によって求められる製品のニーズが異なります。不安定な電圧、精密機器に適さない水質や屋内環境等、途上国はインフラ面で日本と異なることが多いです。現地ユーザーの技術水準が低いことや予算不足等が理由で、機材のメンテナンスが難しいケースもあります。「日本製だから売れる、品質が高ければ売れる」という固定概念にとらわれず、仕様や価格を含めて製品・サービスをローカライズすることを考えましょう。

5. 統計情報等

1)主な統計の使い方

国際労働機関(ILO) 世界各国の社会保障・福祉に関する様々な情報、障害者、子ども、女性、高齢者の就労状況や労働安全などの世界各国の統計がILOSTATのサイトで検索できます。

2)その他の統計