jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

課題情報の発信(自然環境保全)

1. 途上国の課題

人間の生活、経済、社会は、豊かな自然環境から様々な恩恵(生態系サービス)を受けることで成り立っています。(1)食糧・水の供給サービス、(2)気候調節、水源涵養、自然災害の低減などの調整サービス、(3)信仰対象やレクリエーション等の文化的サービス、(4)野生生物の生息地や土壌などの生態系の基礎を形成する基盤サービス、といった健全な自然環境がもたらす多面的なサービス(便益)は、人類の生存と暮らしに欠かせません。しかしながら、現状は逆に生活・経済・社会に起因する人為的な活動により自然環境の減少・劣化が進行しており、その結果、生態系サービスも低下し、我々の生活に深刻な影響を及ぼしています。
世界の自然環境の減少・劣化の状況は次のとおりです。森林は1990-2020年で約5%、湿地は1970年以降約35%、マングローブ林は1980-2020年で約22%、サンゴ礁は2009-2018年で約14%、泥炭地については未だ全容は不明ですが主要保有国でそれぞれ減少・劣化しています。そのため、他の様々な自然環境の減少・劣化と相まって、気候変動、生物絶滅、貧困・開発問題に対する多大な負のインパクトが発生しています。特に、自然環境に依存し、その変化に対して脆弱な層・地域が多く存在する開発途上国での森林及び沿岸生態系の減少・劣化は、食糧や水等資源の枯渇・汚染生産基盤の損失自然災害の発生により、人命や生活が脅かされ、人間の安全保障に関わる重大な問題となっています。

2. JICAの事業戦略(グローバルアジェンダ)

JICAは、JICAの事業戦略の1つであるグローバルアジェンダ「自然環境保全」において、自然環境と人間活動の調和を図り、自然環境の減少・劣化を防ぐことで、多くの恵みを享受し続けられる社会の構築を目指しています。具体的には、陸域(森林、湿地、泥炭地等)と海域(沿岸域・湿地、マングローブ林、サンゴ礁等)の自然環境を守り、その機能を社会課題の解決のために活用するとともに、持続可能な利用のための取り組みを継続的に行うことで、自然環境と共生することを目指しています。
開発途上国ごとに自然環境に対する保全ニーズは異なり、社会環境等の差異により自然環境の利用ニーズも異なります。そのため、開発途上国のニーズを踏まえつつ、最大限の効果を発現させることを目指して優先事項を判断し、「自然環境を守る~自然環境の保全・回復~」「自然環境の恩恵を生かす~Nature-based Solutions ~」を開発シナリオ(サブセクター)の柱として取り組みを行っています。この柱は、「政策・計画」、「実証・モデル化」、「科学的情報基盤」、「スケールアップ」という4つの共通アプローチを適用しながら進めており、「熱帯陸域(森林・湿地・泥炭地等)」、「熱帯沿岸域(湿地、マングローブ林・サンゴ礁等)」、「乾燥・半乾燥地」での活動に優先して取り組んでいます。
各地域・国の異なる自然環境や住民の特性を十分に考慮し、これまでの協力で得た知見・経験を活用の上、事業を展開しています。

社会課題に効果的かつ順応的に対処し、人間の幸福および生物多様性による恩恵を同時にもたらす、自然の、そして、人為的に改変された生態系の保護、持続可能な管理、回復のため行動

(1)自然環境を守る~自然環境の保全・回復~
保護区・OECM(Other Effective Area-based Conservation Measures)の設定や回復が進み、生態系の管理や生物多様性の保全が推進されるよう、保全・回復に必要な制度や情報収集・管理システムの構築、また、地域住民との協働に取り組んでいます。

(2)自然環境の恩恵を生かす~ Nature-based Solutions
自然環境保全を主要な経済・社会部門に主流化するため、自然を基盤とした解決策(Nature-based Solutions:NbS)の導入に向けた制度・計画の構築やインパクト・コストの評価、また、現場レベルでの実践の支援に取り組んでいます。


【参考】JICAグローバルアジェンダ 「自然環境保全」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/natural_env/index.html

3. サブセクター説明

上記の課題をもとに、自然環境保全分野におけるビジネスニーズや事業展開国を検討する際のポイント、企業の展開事例などを、「自然環境を守る~自然環境の保全・回復~」、「自然環境の恩恵を生かす~Nature-based Solutions~」の2つのサブセクターに分類して説明します。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

自然環境を守る~自然環境の保全・回復~

  • 現状と課題
  • 大規模かつ急激な自然環境の減少・劣化、生物多様性の損失、生態系サービスの低下、貧困・開発課題への深刻な影響
  • 保全・回復の政策・計画・取組、人材・能力不足
  • 自然環境保全に必要な基礎情報を含む情報基盤が不十分で、科学的根拠に基づく意思決定が困難
  • 非持続的・無計画、違法な自然資源利用
  • 政府予算・外部資金の不足
  • 現地ニーズ
  • 保全・回復対象のゾーニング・管理計画策定が必要
  • 自然環境や生物多様性にかかる基礎データの収集、調査手法の開発や情報の蓄積・提供を目的とするデータベース・インターフェイスの整備が必要
  • 科学的情報基盤の運用及びエビデンスに基づく意思決定のための土台作り(データを収集・分析・活用して意思決定するための人材育成や体制構築等)が必要
  • 自然資源に依存して生活する地域住民の代替生計手段や住民参加型の自然環境保全活動が必要

対象国選定のポイント

自然環境の減少・劣化の進行度合いや生物多様性スポットの存在、炭素固定、気候変動に対する脆弱性、自然災害リスク等の観点から優先度が高い、以下地域を有する国
熱帯陸域(森林・湿地・泥炭地等)、②熱帯沿岸域(湿地、マングローブ林・サンゴ礁等)、③乾燥・半乾燥地

想定される民間技術(例)

  • 自然環境や生物多様性に係るデータ収集・分析、モニタリングに関する技術・サービス(例. リモートセンシング技術を用いた計測・モニタリング技術、生物多様性に係る情報を収集できるアプリ、等)
  • 自然環境の保全や回復に関する技術・サービス(例. 育種・育苗技術等)
  • 代替生計手段や持続可能なコモディティ生産に関する技術・サービス(例. エコツーリズム・アグロフォレストリー・非木材林産物等)

森林・泥炭地火災向けの石けん系泡消火剤

森林・泥炭地火災向けの石けん系泡消火剤
シャボン玉石けん株式会社が開発した、水よりも少量で消火でき、高い延焼阻止効果を有する泡消火剤。石油系の泡消火剤と比較しても、より早く生分解され、環境残留性がない。森林や生態系の焼失、煙害、さらにはCO2排出抑制にも貢献

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

自然環境の恩恵を活かす~Nature Based Solutions(NbS)~

  • 現状と課題
  • 自然環境の減少・劣化の元の原因は経済活動の増大であり、主要経済・社会部門での自然環境保全の主流化が必須
  • 生態系サービスの防災・減災機能に着目したNbSの重要性が世界的に認識されつつあるものの、気候変動対策・防災減災等の社会課題の政策にNbSが統合されていない
  • NbSの効果・コストに係るデータや評価の不足
  • 現場におけるNbS導入事例の不足
  • NbSのための政府予算・公的外部資金・民間資金不足
  • 現地ニーズ
  • 複数関係者による協働体制の整備を行い、NbSの有効性の普及・共有や統合に向けた検討を行うことが必要
  • NbSと従来型構造物の選択・統合のため、生態的、社会的、経済的観点から比較分析を行い、エビデンスに基づく合理性の提示が必要。定性・定量評価のため、データを収集・蓄積し、モニタリング・評価する手法等の整備が必要
  • 現場で実証を重ね、効果・有効性の検証及びモデル化を図り、NbS事例を蓄積することが必要

対象国選定のポイント

自然環境の減少・劣化の進行度合いや生物多様性スポットの存在、炭素固定、気候変動に対する脆弱性、自然災害リスク等の観点から優先度が高い、以下地域を有する国
熱帯陸域(森林・湿地・泥炭地等)、②熱帯沿岸域(湿地、マングローブ林・サンゴ礁等)、③乾燥・半乾燥地

想定される民間技術(例)

  • NbSの効果・コストに係るデータ収集・分析、モニタリングに関する技術・サービス(例. リモートセンシング技術を用いた計測・モニタリング技術、生物多様性に係る情報を収集できるアプリ、等)
  • NbSに関する技術・サービス(例. 治山技術、環境再生型農業等)

留意点:NbSが対応する社会課題の範囲は気候変動、水資源、防災・減災等、多岐にわたるため、各課題に対応した技術が必要

森林保護と斜面補強の両立を可能とする施工技術

森林保護と斜面補強の両立を可能とする施工技術
株式会社大翔が開発した、山岳地域の狭隘地で重機を使用せず、伐採工・仮設足場が不要かつ短工期で施工を行うことができる技術。森林を保護しながら、土砂くずれの発生危険性がある斜面を補強することで、森林保護と防災の両立に貢献

4. ビジネス展開上のTIPS

環境社会配慮に係る対応

現地の法令に基づいて、環境社会配慮への対応を行いましょう。

現地当局から、環境社会への影響の予測・評価や、緩和策・モニタリング計画の策定を求められ、関連許認可の取得が必要となる場合があります。また、現地での実証やビジネス展開に際して、用地取得や周辺住民の移転が必要となる場合は、住民への説明会・現地当局との調整・交渉や必要手続きの対応に相応の時間を要することもあります。こういったケースを想定しながら、事業計画を立案することが重要です。

現地政府関係者との折衝

現地政府関係者との折衝にかかる時間を想定しておきましょう。

実証の実施やビジネス展開をするために、現地の官庁(場合によっては複数の官庁)との折衝が必要となるケースがあります。折衝には相応の時間を要する可能性があるため、事業実施の際に考慮しておくことが重要です。

実証・ビジネス展開に向けた資金計画

長期間の取り組みに対応できる資金計画を立案しましょう。

関係者との折衝や、自然環境そのものへのインパクト創出やモニタリングは、長期にわたる可能性があります。ビジネス展開を実現するための活動を継続させるためには、関連補助金等を含めた資金計画を検討することが重要です。

公共調達のハードル

現地政府への販売には、調達規制に関する知識が必要です。

製品やサービスの販売先として現地政府を想定する場合には、調達規制の確認が必須です。調達規制には、カタログへの掲載やローカルコンテンツ比率などの制約、外資規制などのハードルが存在するケースもあるので、留意しましょう。

5. 統計情報等

1)主な統計の使い方

自然環境保全に関しては、国連食糧農業機関(FAO)や世界資源研究所(WRI)によって、面積、減少率、違法伐採や森林火災の発生状況など森林に関連するデータが提供されています。また、アメリカ航空宇宙局(NASA)の衛星データプラットフォームでは、森林やマングローブ林・サンゴ礁などのモニタリングに活用できる衛星画像を取得することができます。
各種情報については、以下のサイトをご参照ください。

2)その他の統計