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1. 途上国の課題
近年、多くの途上国では急速な都市化や経済発展が進む一方で、環境質の悪化が深刻な問題となっています。環境問題は社会経済の発展と密接に関連しており、従来から続く課題です。こうした状況を受け、多くの国では環境行政に関する法制度の整備が進み、環境省の設置や環境関連法の制定・改正が行われています。持続可能な開発に関する国際的な理解が深まり、生活水準の向上に伴って国民の環境意識も高まっていることも、取り組みが進んでいる背景にあげられます。しかし、環境保全に向けた取り組みが進展する一方で、依然として多くの課題が残されています。
大きな課題として、環境行政の法執行能力の不足が挙げられます。環境規制が整備されても、実施体制が十分でなければ効果的な施策にはなりません。特に、企業や市民の環境負担に対する意識は高まりつつあるものの、環境対策にかかるコスト負担を市場原理に組み込む仕組みが十分に機能しておらず、実効性のある政策立案に課題を有しています。開発のスピードに対して、下水道などの環境インフラ投資が追いついていないことも深刻な問題です。
これらの課題に対して、環境問題の解決及び質改善に向けた技術やサービスの需要は高まっており、ビジネス機会としての可能性も広がっています。今後、途上国における環境質の向上を目指すには、法執行の強化、環境インフラの整備、適切な資金調達メカニズムの確立などが不可欠であることに加えて、国際的な協力や官民連携を強化し、環境負荷を低減するための包括的なアプローチが求められており、ESG投資を含め、民間からの投資が期待されています。
開発途上国の環境管理に関する課題の概要
環境管理に関する課題の具体的な内容を(1)廃棄物管理、(2)水質汚濁・土壌汚染、(3)大気汚染の3つのサブセクターに分けて説明します。
課題01:廃棄物管理
廃棄物の収集・処理システムが未整備である国が多く、不法投棄や適切でない処理が原因で環境汚染が発生している。特に海洋プラスチックごみの流出は深刻で、河川や海洋の生態系に大きな影響を及ぼしている。
課題02:水質汚濁・土壌汚染
水質汚濁・土壌汚染は、未処理の生活排水や産業廃水の流出によって引き起こされる。都市化や工業化が進む中で、化学物質や重金属の流出が増加し、地下水や河川の水質悪化、さらには健康被害へとつながっている。水利用の多様化と水需要の増大に伴い、適切な水管理の重要性が増しているが、現状では対応が追いついていない。
課題03:大気汚染
都市部を中心に大気汚染が深刻化しており、その要因も複雑化している。産業活動や自動車の排ガスに加え、廃棄物や農業残渣の野焼きが大気汚染の原因となっているが、法制度やモニタリング体制が十分に整備されていない。
2. JICAの事業戦略(グローバルアジェンダ)
JICAは、JICAの事業戦略の1つであるグローバルアジェンダ「 環境管理 」において、廃棄物管理と水質汚濁・大気汚染防止等の環境対策を推進しています。また途上国の都市部において「JICAクリーン・シティ・イニシアティブ」を推進し、「きれいな街」の実現に取り組んでいます。具体的には、「廃棄物管理の改善と循環型社会の実現」、「環境規制及び汚染対策の適正化を通じた健全な環境質の実現」の2つの柱に沿って、途上国の人々の健康と生活環境の保全を実現できる持続可能な社会の構築を目指しています。
廃棄物管理の改善と循環型社会の実現
JICAは、廃棄物管理システムの改善、排出者責任原則に基づく住民や企業といった排出者の取り組みを持続的かつ主体的に推進する主体として、都市圏などの行政・公的機関や、国全体の廃棄物管理行政を担う機関の能力強化を支援しています。また、資源の消費が抑制され環境への負荷が小さい循環型社会の実現に向けた支援も行っています。
環境規制及び汚染対策の適正化を通じた健全な環境質の実現
JICAは、環境質(水、大気、土壌)の管理において、環境汚染・公害問題の未然防止を図りつつ、汚染が発現した場合に、科学的根拠に基づいて汚染状況と発生源を把握し、対策の策定・実施を担う規制主体となる行政機関の能力強化を支援しています。また、公的な汚水処理事業などの水質汚濁対策を担う運営主体に対しても施設整備と能力強化を行っています。
【参考】JICAグローバルアジェンダ「環境管理」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/env_manage/index.html
3. サブセクター説明
上記の課題をもとに、きれいな街づくりのための環境管理分野におけるビジネスニーズや、事業展開国を検討する際のポイント、企業の展開事例などについて、「廃棄物の管理」、「水質汚濁・土壌汚染」、「大気汚染」の3つのサブセクターに分類して説明します。なお、各国の取り組みや環境政策の進展状況は異なることから、投資を行う際には、各国の法制度や市場環境を慎重に分析し、実施可能なアプローチを検討する必要があることに留意ください。
日本の製品・サービスが求められるサブセクター
廃棄物の管理
- 現状と課題
- 廃棄物の回収率はまだ十分ではない上に、収集・運搬中間処理、最終処分場までの廃棄物管理全般に課題が残る
- 分別収集等が不徹底であり、廃棄物の発生量や組成等のデータ整備も不十分である
- 不適切な中間処理や最終処分場の管理が不十分なため、地下水、土壌、河川等への環境汚染を引き起こしている
- 不法投棄及び不適切な処理により、海洋プラスチックごみが大量に河川、海洋に流出している
- 現地ニーズ
- 廃棄物の処理システムを確立するための、廃棄物の分類設定、定量的な測定、データ管理等にかかる能力強化
- 廃棄物の適正な収集・運搬・処理に向けて、生産者責任制度やリサイクル導入にかかる計画・法制度整備
- 収集運搬率の向上、廃棄物発電、リサイクル、再利用、衛生処理等の中間処理技術の新規導入及び改善
- 最終処分場の改善及び延命、適切な運営・管理、新規処分場の造成
対象国選定のポイント
・国家社会開発計画等の政府基本方針で環境への取り組みが明記され、政府として廃棄物管理への課題認識がある(大前提)
・現状と課題、現地ニーズを踏まえた、廃棄物管理の課題に関する法制度の整備状況(著しいギャップが存在しないかどうか)
・リサイクルに関する制度や、生産者責任制度の実施に関する法制度の整備状況
・策定されている法制度の状況を踏まえ、廃棄物管理関連業務を実施しているアクターの明確な存在と情報の有無
想定される民間技術(例)
- 廃棄物の発生状況データ整備に資するソリューション(例. 衛星・ドローンを活用したモニタリングツール)
- 廃棄物の収集・運搬の改善や適切な実施に向けたソリューション(例. AIを活用したごみ収集状況の調査ツール、GPS監視、分別を促すようなシステム開発。バーコードやRFIDタグを活用した廃棄物の追跡システム)
- 中間処理及び最終処分改善に向けたソリューション(例. 自動分別システム、バイオテクノロジーを活用した生物分解技術。新規の廃棄物発電処理、新規最終処分場技術)
- 生産者責任制度や、循環経済に向けた廃棄物のへのソリューション(例. ライフサイクルアセスメントを目指した製品全体管理、マテリアルフロー解析システム)
AI
による画像解析を用いた路上ごみの散乱状況の可視化サービス
株式会社ピリカが開発した、スマートフォンで撮影した路上の情報をAIで解析することで路上に散乱するごみの分布状況を可視化することができるシステム。デジタル技術を活用し、より効率的にごみの分布にかかる実態を把握することに貢献する。
日本の製品・サービスが求められるサブセクター
水質汚濁・土壌汚染
- 現状と課題
- 用水利用の多様化と使用水量の増加といった水ニーズが増加している。また、気候変動により水資源の現状が変化している
- 水資源や汚濁物排出先での土壌質・地下水のモニタリングがされておらず、環境質管理に向けての基礎的データが不足している
- 生活排水管理のための施設整備や産業廃水管理の枠組みと対応施設の欠如によって、表面水全般の環境質の状況が変化している
- 都市化、工業化による排水水質の変化と、有機汚濁とあわせて化学物質、重金属、ウイルスといったリスクの顕在化が生じている
- 現地ニーズ
- 現状の水質・土壌のモニタリング技術。あわせて安価で簡易、またモデリング技術を踏まえた予測技術
- 汚染源のインベントリー整備と、流域レベルでの汚濁負荷解析と、関連法制度の整備
- 対象地域・排水(量/質)にあわせた排水処理技術の改善、土壌質改善技術
- 工業地帯の排水、下水道整備に向けて、省エネルギー、効率性といった革新的排水処理施設・技術や、管路敷設等の技術
- 汚水処理を活用した再生水利用技術、土壌改質技術
対象国選定のポイント
・国家社会開発計画等の政府基本方針で環境への取り組みが明記され、政府として水質・土壌管理への課題認識がある(大前提)
・汚染物質の発生状況の把握や対策の実施における今後の戦略・計画、体制等の整備状況。それらが課題とニーズを踏まえた制度となっているかや、その制度にあわせた適用技術の適切性の評価(現地での本課題に向けた類似プロジェクトの把握)
・環境インフラの整備に向けた取り組み方針。現地民間企業(外国企業含む)の取り組み状況。
・水質汚染・土壌汚染に関する現地メディアの報道状況とその報道に対する政府の取り組み等の公開状況。
想定される民間技術(例)
- 水質・土壌モニタリング、モデル解析等に資するソリューション(例. 現地の制度・状況に応じた分析技術、簡易型水質モニタリング技術、病原体のPCR解析等の微生物判定技術)
- 生活排水や産業廃水の適正な処理に資するソリューション(例. 省エネ型システム、微生物を利用して有機物を分解する技術、固形物・不純物を捕捉するフィルタ)
- 対象水質、業務に向けた分散型処理のためのソリューション(例. 家庭用浄化槽、畜産排水処理、養殖水質処理)
- 土壌汚染の状況把握、改善に向けたソリューション(例. 微生物・細菌を活用した処理)
高濃度な有機系産業排水を対象とした高性能排水処理システム
株式会社ジェー・フィルズは有機排水を処理する方法の一つである活性汚泥法をもとに、酵素を活用した排水浄化を行うシステムを提供。これまで有効な排水対策を取ることができていなかった事業者に対する普及が進むことで、河川等の水質汚染の改善が期待される。
日本の製品・サービスが求められるサブセクター
大気汚染
- 現状と課題
- 都市化・産業高度化によって大気汚染が複雑化・局所化・広域化し、大気質汚染の要因と連鎖が複層化している
- 廃棄物や農業資源の野焼き対策等への、大気汚染要因に対する対策に向けた適切な予算が配分されていない
- 大気汚染モニタリングデータや発生源インベントリーデータが不十分
- 大気汚染対策に関する法制度整備や実施体制が不十分
- 現地ニーズ
- 大気質モニタリング体制、発生源調査、モデル分析等の機材や実施方法の改善
- 固定発生源及び移動発生源毎の大気室モニタリング及び改善技術
- データに基づいた、大気質改善に向けた法制度整備
対象国選定のポイント
・国家社会開発計画等の政府基本方針で環境への取り組みが明記され、政府として大気汚染対策への課題認識がある(大前提)
・大気汚染対策に向けた国家政策、特に大気汚染改善に向けたアクションプランの整備状況
・農業分野、工業分野、運輸分野といった主要セクターにおける大気汚染対策政策の設定状況
・大気汚染に関する現地メディアの報道状況とその報道に対する政府の取り組み等の公開状況。現地民間企業(外国企業含む)の取り組み状況
想定される民間技術(例)
- 固定発生源の大気質改善に資するソリューション(例. 産業廃棄物の特性に応じた処理手法を用いた焼却炉)
- 移動発生源の大気質改善に資するソリューション(例. ガソリンエンジンから排出される汚染物質・有害物質の排出を削減する自動車エンジン設置用フィルター)
- 大気中の汚染物質・有害物質量をモニタリングするためのソリューション(例. 定点観測による発生源を特定するシステム、拡散モデル分析システム)
- 農業分野における発生源対策に資するソリューション(例. 稲わらの肥料化)
PM2.5
自動成分分析装置・大気モニタリングシステム
株式会社堀場製作所が開発した、PM2.5発生源の重要指標成分である元素濃度と質量濃度を1台で連続測定することができる装置を活用した大気汚染のモニタリング。定量的なデータが収集されることで、効果的かつ予防的な大気汚染への対策や健康被害への対策を策定することに貢献する。
4. ビジネス展開上のTIPS
現地での関連法規制等の整備状況
現地での関連法規制等について十分な調査を行いましょう。
ビジネスの実現可能性は、廃棄物の発生抑制に対して生産者責任制度やリサイクルにかかる法制度の整備が進んでいるか、環境汚染への対策として汚染源ごとの基準や対応が定められているかなど、対象国での法規制等の整備および執行の状況に大きく依拠します。
特にリサイクルビジネスに関連して、法規制が存在しない、あるいは実態として執行・適用されていない場合、日本で行っているようなリサイクル事業が実施できない、現地バリューチェーン上のプレイヤーがリサイクルや汚染対策を行う必要性や経済的メリットがなく巻き込みが難しい、といった課題に直面する可能性があります。実態としてインフォーマルセクターがその役割を担っている場合も多く、十分な実態調査を行うことが重要です。
まだ法規制が整備されていないもののその見込みや予兆が見られる、もしくは、整備されていても法規制の執行に課題があるといった情報は、公開情報だけで確認するのは難しいため、進出国の検討に当たっては、現地政府の動向や関心度合いについてJICAにもご相談ください。
環境社会配慮に係る対応
許認可取得など、環境社会配慮に必要な手続きを確認しましょう。
現地当局より、現地法令に基づいて環境社会への影響の予測・評価、および緩和策やモニタリング計画の策定を求められることがあります。
関連許認可の取得が必要となるケースもあるため、事前に確認しておくことが重要です。
公共調達のハードル
現地政府への販売には、調達規制に関する知識が必要です。
製品やサービスの販売先とし現地政府を想定する場合には、調達規制の確認が必須です。
調達規制には、カタログへの掲載やローカルコンテンツ比率などの制約、外資規制などのハードルが存在するケースもあるので、留意しましょう。
5. 統計情報等
1)主な統計の使い方
環境管理分野に関しては、国連環境計画(UNEP)や経済協力開発機構(OECD)、世界銀行(World Bank)によって、国別の廃棄物の発生量、リサイクル率、処理方法や方法別の処理量、また、大気や水質、土壌の汚染状況に関する統計等の情報が提供されています。
各種情報については、以下のサイトをご参照ください。
- Global Environment Outlook(UNEP) https://www.unep.org/geo/global-environment-outlook-7
- Environment at a Glance Dashboard(OECD) https://www.oecd.org/en/data/dashboards/environment-at-a-glance.html
- OECD Indicators(OECD) Indicators | OECD
- World Bank Open Data(World Bank) https://data.worldbank.org/
- World Bank Solid Waste Management https://www.worldbank.org/en/topic/urbandevelopment/brief/solid-waste-management
2)その他の統計
-
Sustainable Development Report:Data Explorer
SDGs12(持続可能な消費と生産)に関連した廃棄物の発生量や大気汚染状況のデータ
https://dashboards.sdgindex.org/explorer -
UNEP:Global Waste Management Outlook 2024
廃棄物の発生源、処理方法、リサイクル率、埋め立ての割合などが確認できるレポート
https://www.unep.org/resources/global-waste-management-outlook-2024 -
世界銀行:What a Waste 2.0
廃棄物管理の現状から、経済・社会インパクトまで包括的な調査結果がまとめられたレポート
https://datatopics.worldbank.org/what-a-waste/ -
国際廃棄物管理協会:廃棄物管理・処理にかかる各種レポート
世界各国の廃棄物管理・処理方法、リサイクルの状況等に関するレポート
https://www.iswa.org/iswa-releases/?v=24d22e03afb2 -
UNITAR 国家E-Waste Monitor
電子廃棄物の量と流れを監視
https://ewastemonitor.info/ -
World Resources Institute (WRI) - Environmental Performance Index (EPI)
環境パフォーマンスに関するグローバルな指標を提供し、大気質、水質、廃棄物処理に関する評価を国ごとに比較可能
https://epi.yale.edu/ -
World Health Organization(WHO)- Air quality database
世界各国のNO2、PM10、PM2.5といった汚染物質の年平均測定値のデータ
https://www.who.int/data/gho/data/themes/air-pollution/who-air-quality-database
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