jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

課題情報の発信(持続可能な水資源の確保と水供給)

1. 途上国の課題

水は人間の生活や経済活動を支える上で必須の資源であり、水へのアクセスを確保することは重要です。また、水は地球上を循環している再生可能な資源であり、河川からの取水量は年間流出量の10%にも満たず、かつ一度利用した水を処理して再利用する技術も確立されているため、地球全体で絶対量として水資源が不足することはありません。
一方、水に関する課題として次のようなものが挙げられます。

開発途上国の水に関する課題の概要

課題01:水資源管理

水の確保・管理に関して、水の賦存状況が地理的に偏在していること、雨期と乾期の存在や降水量の年変動など時間的に偏在していること、水の輸送や浄水処理には一定のコストが発生することなどの要因から、地域や時期によって、必要な時に必要な量の水が得られない水不足の問題が発生しています。
加えて、近年では降雨の極端化や海面上昇等の気候変動の影響によって、干ばつに伴う給水制限や沿岸部の水源の塩水化などの問題が顕在化しており、今後さらに悪化することが懸念されています。

課題02:都市給水

水へのアクセスの確保は重要な課題である一方、人口が増加の一途を辿る途上国では、都市部を中心に安全な水へのアクセス率は伸びておらず、安全かつ効率的に水供給できるインフラの整備が急務となっています。

課題03:村落給水・衛生

水道がない村落地域では、女性や子どもが長時間の過酷な水くみを強いられている場所もあり、水汲み労働が大きな負担となっています。また、衛生に関しては、世界保健機構(WHO)によると、水系感染症により乳幼児を中心に年間 50 万人以上が死亡し、低体重・栄養失調の 50%は水・衛生の問題に関連しているとされており、感染症の予防に不可欠なトイレや手洗い設備も不足しています。

2. JICAの事業戦略(グローバルアジェンダ)

JICAは、JICAの事業戦略の1つであるグローバル・アジェンダ「持続可能な水資源の確保と水供給」において、水資源を適切に管理し、全ての人々が飲料水等として持続的に利用できる社会の達成を目指しています。具体的には、「水資源管理」、「都市給水」、「村落給水・衛生」に関する取り組みを推進し、中でもJICAは「地域の水問題を解決する実践的統合水資源管理」、「水道事業体成長支援」に重点的に取り組んでいます。

グローバルアジェンダの目的

地域の水問題を解決する実践的統合水資源管理
水資源の確保・利用を巡る様々な問題への対策として水資源開発、節水灌漑、治水施設の整備などが挙げられる一方、利害関係者間の対立、利水者間での水の配分を巡るトレードオフ、合意形成の仕組みの欠如などにより、有効な対策を講じることができないケースもあります。
これに対して、JICAはSDGs のターゲットにも取り入れられている「統合水資源管理」(Integrated Water Resources Management)の考え方により、利害関係者の対立を解消し、関連する複数のセクターを総合的に考慮に入れ、地域の水問題を継続的に解決できる状態を作ることに取り組んでいます。

水道事業体成長支援
途上国の水道事業においては、サービス水準の低さ、それに対する市民の不満と水道事業体に対する信頼の欠如、非効率な事業運営、資金不足が悪循環のように連鎖している状況が多く見られます。
JICAは、この悪循環に対して「施設整備による料金収入基盤の拡大」と、「無収水削減による収支改善」に力を入れ、サービスの改善、運営の効率化、料金収入の確保、投資の確保という好循環への転換、そして、水道事業体を成長軌道に乗せるための運営・経営の改善を支援しています。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター


【参考】JICAグローバルアジェンダ「持続可能な水資源の確保と水供給」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/water/index.html

3. サブセクター説明

ここでは、持続可能な水資源の確保と水供給分野におけるビジネスニーズや事業展開国を検討する際のポイント、企業の展開事例などを、「水資源管理」、「都市給水」、「村落給水・衛生」のサブセクターに分類して説明します。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

水資源管理

  • 現状と課題
  • 水資源(供給)や水利用(需要)を十分に把握できていない
  • 戦略や計画の策定、科学的データの取得やモニタリング、利害関係者間の合意形成等の水資源管理能力が不足している
  • 治水、利水(灌漑用水、生活用水、工業用水等)、水環境(水質汚濁等)に関する問題(水不足、地下水位の低下、水質悪化、洪水・浸水等被害、地盤沈下、貯水池堆砂の進行、生物多様性の減少、流域の荒廃、漁業資源の減少等)が発生している
  • 現地ニーズ
  • 水資源の賦存量・需要量の把握、モニタリング体制の整備
  • 利害関係者間の社会的合意形成メカニズムの強化(関係者の協議体の運営、情報公開等)
  • 水資源の重要性・持続可能な利用に対する利害関係者の理解促進
  • 治水、利水、水環境に関する問題の解決(水資源開発、給水施設整備、漏水削減、節水灌漑、水力発電開発、ダム堆砂対策や再開発、治水対策、地下水揚水規制、生態系保全、水質汚濁規制、汚水処理、流域・集水域の保全等)

対象国選定のポイント

水資源管理に関連する課題に対して、政府による積極的な取り組みや、国際機関などによる重点的な支援が進む国・地域。
治水、利水、水環境に関する問題が深刻化しており、課題解決の必要性が高まっている国・地域。
戦略、計画、体制等が整備されるなど、統合水資源管理を推進する能力が備わりつつある国・地域。

想定される民間技術(例)

  • 水資源の賦存量・需要量把握のためのデータ収集・分析ソリューション(例.水量計測ツール、計測データの解析システム)
  • 利害関係者の啓発や合意形成に資するソリューション(例.啓発、意思決定支援、情報の公開・共有等のためのツール)
  • 治水、利水、水環境に関する問題の解決に資するソリューション

水資源モニタリングシステム

水資源モニタリングシステム
株式会社みどり工学研究所のシステムで雨量や河川の水位などのデータを観測し、遠隔地のサーバーに伝送・分析することで、インドネシアの多目的ダムの水管理効率を改善し、洪水や干ばつの被害軽減を目指している。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

都市給水

  • 現状と課題
  • 水道の普及が十分でなく、都市人口の増加に対して施設の整備が追い付いていない
  • 非効率な運営(高い無収水率、低い料金徴収率、定額制料金の適用等)により、水道事業体の経営状態が悪い
  • 水質、水圧、給水時間等の水道サービスの質が低い
  • 現地ニーズ
  • 質が高く安価な水道施設の建設、拡張
  • 運転・維持管理の改善による水道サービスの質の向上
  • 無収水対策(商業的損失、漏水の削減)、料金請求・徴収事務の改善、省エネルギー、運転・維持管理費用の削減
  • 運転・維持管理状況や配水状況のモニタリングの改善、GIS等を用いた管路等施設情報の整備・デジタル化
  • 顧客台帳の整備、顧客サービスの改善、検針・請求の効率化、利用者の支払い能力に応じた金融サービス

対象国選定のポイント

インフラが未整備な中、政府による資金投入や国際機関等からの支援が進む国・地域。
一定の技術力と支払い能力を有し、水道事業の改善に向けた取組を進めている水道事業体が存在する国・地域。
民間委託やPPPなどの民間活用を積極的に進めている水道事業体が存在する国・地域。

想定される民間技術(例)

  • 高効率・高性能なインフラ整備に資するソリューション(例.浄水処理装置)
  • 運転・維持管理の効率化に資するソリューション(例.モニタリングシステム、省エネ機器、質が高く安価な薬品)
  • 漏水削減に資するソリューション(例.管路劣化診断、漏水の監視・検知、漏水修理、水圧管理、管路探知、GIS)
  • 商業的損失削減に資するソリューション(例.顧客情報管理システム、メータ、検針・請求・徴収システム、少額融資)

水道用管継手(くだつぎて)

水道用管継手(くだつぎて)
漏水による無収水が課題となっているケニアで、株式会社川西水道機器の管継手を展開することで、水道水流出を減少させ、都市化に伴う水需要の逼迫を抑制させる。

日本の製品・サービスが求められるサブセクター

村落給水・衛生

  • 現状と課題
  • 水源や給水施設の不足、維持管理の不足(故障の放置)等により、水汲み労働や水系感染症等の問題が発生している
  • 衛生設備(トイレ)や手洗い設備が不足している、維持管理が不足している(住宅に加え、学校や保健施設も含む)
  • 給水施設の稼働状況が把握できていない、水料金が持続的に徴収できない、住民への啓発活動の効果が持続しない
  • 現地ニーズ
  • 水源の探査、水源開発、給水施設の整備、給水施設のアップグレード(手押しポンプから管路給水へ、ソーラー揚水導入等)
  • 水料金の確実な徴収、モニタリング・メンテナンス体制の整備、スペアパーツのサプライチェーン改善
  • 衛生設備(トイレ)や手洗い設備の整備、衛生設備の質の向上
  • 住民に対する衛生啓発、持続的な維持管理に関する啓発、保健・栄養・教育等の関連セクターとの連携
  • 地下水中の砒素、フッ素、鉄、マンガン、塩分等の、村落部でも持続的に維持管理ができ、支払い可能な除去方法

対象国選定のポイント

政府による資金投入や国際機関等からの支援が進み、政府の実施体制が強化されている国・地域。
政府、国際機関、NGO等、支払い能力のある主体が本分野での取り組みを積極的に行っている国・地域。

想定される民間技術(例)

  • 水源確保に資するソリューション(持続的な維持管理が可能な小規模分散型の給水施設、地下水探査ツール)
  • 料金徴収や維持管理に資するソリューション(ICTや電子マネー等を用いた料金徴収システム、遠隔モニタリングシステム)
  • 衛生環境の改善に資するソリューション(改善された安価な衛生設備・手洗い設備)
  • 住民の意識改善に資するソリューション(衛生啓発ツール、手の洗い残し等を「見える化」するツール)

循環型無水トイレ

循環型無水トイレ
下水道整備が遅れているケニアの非都市部で、株式会社LIXILの循環型無水トイレにより排泄物を無害化し、堆肥とすることで、水源と土壌の汚染を抑制する。

4. ビジネス展開上のTIPS

開発金融機関による支援状況や水道事業体の資本構成を確認しましょう。

水資源に関する利害対立の課題にアプローチする場合には、
開発金融機関など第三者による利害調整の取り組み状況の有無が大きなポイントになります。

大都市の水道インフラについては、
ODAで整備されているケースも多く、相手側がODAやドナー資金による製品・サービスの購入を前提に議論を推進するケースも多いことに留意しましょう。

水道事業体向けのビジネスを展開する際には、
対象となる水道事業体が公的資金のみで運営されているか、PPPか、民営化しているかによって、意思決定の構造や調達方法が異なることに留意が必要です。

ソリューション導入によるコストメリット

経営効率化はメリットを定量的に示しましょう。

水道事業体の経営効率化に資するソリューションについては、水道事業体にとっての経済的メリット(オペレーションコストの削減効果や料金収入の向上)を定量的に示すことが重要です。

公共調達の規制

現地の制約・規制を確認しましょう。

上下水道公社への製品・サービスの納入にあたっては、調達規制の確認が必須。カタログへの掲載やローカルコンテンツ比率などの制約、外資規制などのハードルが存在するケースもあります。一方、革新的なソリューションであれば上記の手続きを経ずに導入が進むケースもあるため、現地カウンターパートとの協議が重要です。

ソリューション導入後のメンテナンス

導入後のメンテナンスについて事前に検討しておきましょう。

村落地域では、ソリューション供給よりも、その後のメンテナンスへのニーズが高いため、メンテナンスの実施可能性についても検討が必要です。

5. 統計情報等

1)主な統計の使い方

水資源分野に関しては、世界銀行(World Bank)グループや国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機構(WHO)によって、水資源に係る課題の概要、各国が抱える課題、国別の飲料水や衛生設備へのアクセスに関する統計、水資源分野でのプロジェクト動向などの情報が提供されています。
各種情報については、以下のサイトをご参照ください。

2)その他の統計