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- インドネシア ― 注目分野(農業分野)
インドネシアの農家の人々と学び合いながら、皆さまの製品・技術・サービスで、インドネシアの課題解決に一緒に取り組みませんか?
「★専門家コメント」項目では、インドネシア農業省に在籍しているJICA農業政策アドバイザーをはじめとする専門家の方々からのメッセージを記載していますので、データでは見えない現場感に触れてみてください!
※以下の情報に関し、インドネシア国家中期開発計画(2020-2024)、農業省の戦略計画(2020-2024)に加えて、JICA専門家が業務の中で得た知見やJICA事業の経験に基づくものとなります。
インドネシアにおける農業分野の現状と課題
1. 現状
- 2020年以降、農業セクターのGDP寄与率は約9~10%。農業部門の労働力は3,814万人弱で総労働人口の約27.52%(2022年/農業省)(※1)。これらの割合は長期的スパンでみると、低下傾向にある。
- 農家の約72%が44歳以上であり、44-58歳の年齢層が最大の42.39%を占める一方、44歳以下の農家の割合の減少している(※2)。15歳以上の農業従事者の教育水準は9割が初等教育以下(2023年)(※3)。
- 小規模農家(0.5ヘクタール未満)の数は増加している。2023年において、小規模農家は農地を利用する農家(約2,780万人)の約62%(※4)を占めている。
- 農業栽培に近代技術(農業機械、デジタル技術、ドローン等)を利用する農家は46.84%に過ぎない(※5)。
★専門家コメント
- 小規模農家:相続にあたりすべての子供に平等に農地を分ける習慣から、政府は大規模化を推進するも小規模農家が主流。親から子へ世代交代しても同じ作物・取引相手という地縁・伝手が強い固定的なビジネスのため営農活動は記憶で十分な場合が多く記録する習慣がない。このため、過去の収益・市場価格変動・栽培コスト等の記録など、与信にあたってリスク評価に必要な情報が乏しく与信が受けられない。よって、融資を受けられないため新作物・機材・設備導入に必要な投資ができない状況。ただし、スーパーなど新しい流通形態・バイヤーがいる大都市近郊では、ポリテクニック卒業生や技能実習生を経験した者など、他のビジネスを知る若手(ミレニアムファーマーと呼称)が増加しており、徐々に変化しているとみられる。
- 農業者集団(村単位の農業協同組合にあたるPoktan及びもう少し広域の複数のPoktanからなるGapoktan、農民による企業(農民企業)など):農家の集団化のメリットを行政側は理解しており、集団化を推進しているが、多くはトップダウンで(政府からの指導で)農業協同組合を設立している状況。このため、他の地域や他国の状況を知るリーダーを中心に実際に活動している組合と、活動実態がない組合がある。よって、現地をよく理解しているローカルコンサルタントに確認の上で顧客対象を見極める必要がある。なお、Poktanは日本の農協と異なり、営農活動が農業省、経済活動が中小企業省の管轄で、事業の活動範囲や利用できる政府の支援スキーム等が異なる点、また農村では従来の取引関係が強固なため参入の初期ハードルが高い場合が多い点に留意。
- 農業省:農業省が一括で購入し、例えば農業機械組合などに供与するケースがある。その組合が農家に農器具をリースし、農家からリース料を得て、農器具の維持管理を行っている。ただし政府が購入する機材は大型機材(トラクター等)に限定され小回りが利かない、また機材の輸送ルート等の問題から農機具・機械サービス組織(UPJA)が設立されている場所(主にコメ産地)以外では使いづらいという農家の声を聴く。
2. 主な課題
(1) 農業の生産性が低く、所得も低い
- 背景には耕作面積が0.5ヘクタール未満の小規模農家が多く、伝統的な農法・品種を近代的な手法を取り入れずに使用していることがある。
- 農業改良普及員(新技術を地方の試験場にもたらす等の中央政府レベルと、現場と近い地方政府レベルの2段階で役割分担)が不足。地域を区切って1地域当たりで数年に1回しかサービスを受けられない、正規の普及員に多数の補助員を雇用して対応していることから、サービスの密度・カバー範囲の確保などに課題。
- 栽培歴の作成・改定や病害虫の発生予察等の提供サービスは行われていない。
- 土壌分析は普及していない(普及所も含む)ため、肥料の使用には改善の余地あり。
(2) 食料安全保障の確保と発育阻害
- 2045年までにインドネシアの人口は3億1,800万人を超えると予測されており、食料需要が増加する見込みであり、食料の増産が課題となっている。
★専門家コメント
- 特にここ数年はコメの需要が供給に追いついていないこともあり、農業省はキャッサバなどコメ以外の伝統的な主食を促進しています。
- 順調な経済発展を受け、所得の高い大都市部では食生活の変化(炭水化物→タンパク質・脂質)も見られます。ただし、都市部と農村部で10倍以上の所得格差があること、また多民族国家で食文化が多様なため、日本の高度成長期のような短期間の変化ではないと思われます。
- 天水に頼る農地が多く灌漑による生産向上の余地は大きいが、ジャワ島では水資源がおおむね開発済みで大幅な拡大は困難、その他の島は公共事業省管轄の1次水路、2次水路の整備(農地に直接つながる3次水路は農業省)という、初期投資が大きな事業が必要と聞いています。
- 水が十分あればコメの3期作が可能であるものの、雨季を狙うコメ1作とその他の時期でのトウモロコシ1作ないし2作という地域がかなりあります。
- 発育阻害率が21.6%(※6)であり依然として高水準にある。
★専門家コメント
- 食餌の絶対量という点では改善されているものの、バランスが悪く(間食の習慣、特に都市部での運動不足、栄養バランスについての知識が十分浸透していないなど)糖尿病が問題となってきています。今後無償の学校給食制度の導入計画があり、栄養改善も期待されています。
(3) 農地転用、農村部の貧困、農業組合の脆弱さ
- 農地転用(日本の農地法のような保全策を取っていないため、大都市近郊での転用が目立つ)により大都市周辺などの従来からの耕作適地における食料生産が減少し、農業生態系が劣化している。
- 上述の通り、小規模農家が融資を受けることが難しいため、新たな技術への投資などができず生産性・所得が低いことが課題となっている。
- 全国をカバーする農協の上部組織がなく結果として各農協(Poktan)がそれぞれのリソースのみでビジネス展開をせざるを得ないこと、営農と経済活動で一体化した行政サービスを期待できないこと、トップダウンで組織化された結果、その地域に合った活動内容をメンバー農家が十分検討しないまま組織化され結局機能していない組織がかなりあること、集団に加盟していない農家が多く、組織のメリットが発揮されていない状況
(4) 農産物の付加価値の向上
- 農産物のポストハーベスト・保管施設や加工の利用度を向上させることが課題となっている。
- 小規模で分散した農業経営が特徴で、生産性と品質にばらつきがあり、国際競争力に課題がある。
- 選果(目視・手作業。センサー利用ではない)や品質管理は先進的な農業者集団の一部で取り入れられ始めた段階で、ブランド化の推進等に課題がある。
(※1) Statistik_Ketenagakerjaan_Sektor_Pertanian_(Februari_2023).pdf
(※2) Sambutan Kepala BPS
(※3) Statistik_Ketenagakerjaan_Sektor_Pertanian_(Februari_2023).pdf
(※4) Sensus Pertanian 2023 - Badan Pusat Statistik (bps.go.id)
(※5) Sambutan Kepala BPS
(※6) 全国栄養状態調査(SSGI)2022年
インドネシアにおける農業分野のニーズ
1. 農業の生産性の向上と近代化
(1) 農業機械・農機具
★専門家コメント
- ある程度以上の規模の農家、または農家集団では大型機械(乗用トラクター・垂直乾燥機等)のニーズが強いが、小規模農家の場合は、手持ちの農地の大きさ・初期投資の大きさから、手押し播種機などの手動の器具や、育苗用ミストノズル・ミスト散水パイプといった器具類にニーズがある模様。
※JICA事業の中で、都市部へ付加価値付き農産物を販売する一方で政府から全国の農家への教育活動を事業として請け負っている農家集団を日本に招き農家・農協視察を組んだ際の聞き取り結果に基づくもの。 - 日本の農家が使用している農器具類のコストと効果に大きな興味が示されたが、インドネシア国内での入手ルートは事実上なく、ニーズはありそうですが普及が進んでいない状況です(上記事業の聞き取り結果)。手動器具などは安価で資金力のない農家も手が出しやすいと考えられます。
※省力効果があまりに大きいものは、手作業が機械化することで農村内失業者を生むリスクがあり、村の有力者などが導入に難色を示す場合があるようです。 - 整備済みの土地では大型農業機械のニーズ、特にコメ・トウモロコシ・キャッサバ等の産地では垂直乾燥機のニーズをよく聞きますが、資金計画とセットのビジネスにしないと進めづらい模様です。
(2) 優良な商業品種
★専門家コメント
- 作目にもよりますが(例:飼料用トウモロコシは欧米のハイブリッド品種を使用)、小規模農家の場合、たいていは昔から使ってきた在来品種の自家採取をしているため、近代の商業品種による生産と比べ、病害虫耐性や環境耐性が劣る、農産物の生産性や品質が高くないことが多い状況です。
- 商業栽培を行うためには、農業省に品種登録する必要があり、その登録に2年程度要しているようです。
※ここでいう品種登録とは、知的財産の育成者権ではなく、性能試験を経て、商業栽培できる、つまり品質が劣悪で農家に経済的損害を与えないことを政府が保証している、ということを示すものになります。この制度は欧州の「ナショナルリスト制度」に相当します。
(3) デジタル技術などを活用したスマート農業
★専門家コメント
- インドネシアでは、栽培歴の公表や病害虫発生予察等がありません。また、農家に記録をつける習慣が普及していない、可能な初期投資額が小さいなどの留意が必要な点があります。そこで、栽培記録を簡便につける・過去の栽培記録とラフな天気予報を利用した栽培計画作成を支援するなどの低コストで取り組み易い単純なスマート農業もニーズが高いと思われます。
- ITを使用したスマート農業もニーズがありますが、先進的なスマート農業のターゲットとなりうる農家集団は、大都市部の富裕層向け高級果実等を生産する農家集団などに限定されると考えられます。
(4) 精密農業システム(農地や農作物の状態を踏まえ、その結果から次年度の栽培計画等を 立てる一連の農業管理手法)
★専門家コメント
- 栽培ごよみや病害虫発生予察など情報提供もニーズが高そうです。というのは、インドネシアでは地方自治体がこれらの情報を提供していないからです。なお、基本的に政府が収集した情報は有料(省庁間での利用を含む)ですので、情報を得るためのコストには注意が必要です。
(5) 農産物の保管・加工施設(コールドチェーンなど)
★専門家コメント
- 小規模農家は保管施設がありません。また、集団化も進んでおらず大型機材の共同購入ができないため、コメやトウモロコシなど保存できるはずの作目であっても、収穫期に一気に出荷するため価格が下落するという、周期的な価格変動に巻き込まれてしまいます。例えば、乾燥させて保管し、農作物の価格が高い時期に売れるようにすると、農家の収入向上に資すると考えられます。
- 供給ルートとして主流である伝統市場への出荷では、園芸作物の箱詰めなしのバルク輸送が多く、ロスが多いという課題もビジネスを通して解決する対象になるかもしれません。残念ながら、箱資材のコスト・生産物の単価・ロス率といった費用分析は普及していない模様。園芸作物は消費者の手に渡るまでに6割がロス、との政府報告もあります。
(6) 灌漑施設・システム、水管理
★専門家コメント
- 灌漑施設が整っている地域が限定されること、短期での灌漑施設の状況変化は見込めないことから、所与の条件での灌漑効率の向上や既存の灌漑システムにあまり頼らない作付け体系などにはニーズがあると考えています。
- 現在のコメ増産の機運の中で、湿田や干潮・満潮の影響を受ける地域の生産性向上が注目されています。この関係でこういった地域の効率的な灌漑排水・作付け体系といったニーズもあると考えています。
(7) 上記以外の農業の気候変動への適応や緩和に資する製品・技術・サービス
2. 農業の付加価値と競争力の向上
(1) 付加価値の向上(収穫後の処理、加工、マーケティングなど)
★専門家コメント
- 経済発展に伴い高品質の園芸作物に対する需要が増えています。大都市近郊の農業グループによると、需要に供給が追い付いておらず、作れば作るだけ売れているそうです。
- 急激な食生活の変化が生じており糖尿病が増加傾向にあるため、健康・栄養機能性食品のニーズも高まると想定されます。
- ジャカルタでの経験では、スーパー(品質の独自規格あり)と伝統的な市場がすぐそばにある場合でも、同じ野菜が多少の外観の差はあるにせよ3、4倍の価格で売られていることは珍しくありません。スーパーの中でも専用の売り場所を持つブランド品とその他で5割程度の価格差はよく見られ、ブランドの品質保証に大きな関心があることが見受けられます。
※ジャカルタとその周辺部ほど所得格差が大きくない他の都市部でも「3、4倍」「5割」があてはまるかどうかは未確認です。
(2) 農業競争力の向上(輸出促進、市場アクセス改善など)
★専門家コメント
- 食料安全保障の目標を自給に置いているため、余剰生産物は輸出したいという希望を持っています。ただしパームオイルなどの現在の輸出産品を除き、単純に価格競争での輸出促進は困難な状況にあります。多くの農家は小規模で機械化が進んでおらず、在来品種を用いている状況であり、輸送インフラが脆弱です。
- 一方、品種改良の余地が大きいものの未開発の特有の作物等も多いこと、降雨が多く周年栽培が容易、といったポテンシャルもあります。
3. 人材育成・組織設立・強化
(1) 農業技術支援・普及する製品・サービス・仕組み
★専門家コメント
- 大都市の中産階級以上を顧客に想定した高品質生産のビジネスモデルでは成功例が出ています。一方、地方の農家を対象にしたビジネスモデルは、技術や管理運営などのニーズはあるものの、成功事例の話は聞きません。
- 携帯電話は普及しているため、農地でのアクセスに問題はあるものの、少なくとも集落内部ではIT技術の利用は可能です。
- 政府は農薬の自給促進の一環として生物農薬の普及を進めています。トリコデルマ(カビ)、寄生蜂、バチルス(細菌)等、種としては一般的なものの、農家が自分で増殖して利用することで低コストでの利用を可能とするものです。市場では農作物に傷一つないなどの外観へのこだわりが低いため、生物農薬の受け入れ余地が大きいと感じられます。よって、中産階級以上の層の増大も含め、有機農業が一つのビジネスポテンシャルとして考えられます。
(2) 農業組合の設立・強化に資する製品・サービス・仕組み
★専門家コメント
- 上記の通り、農業組合の体制が弱く、活動している組合としていない組合があります。組合を機能させ、強化する製品・仕組み・サービスなどが求められています。
(3) 農家の資金調達を改善する仕組み・サービス
★専門家コメント
- 上記の通り、小規模農家は栽培など記録する習慣がないため、与信が受けられず、よって、融資を受けられない状況にあります。この複合的な要因を含めてまとめて解決するような仕組み・サービスが求められています。
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