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モロッコの農業は今、苦難に直面。苦しい時こそ成長するチャンス?!
モロッコ農業セクター概観
モロッコの農業は国の活力です。モロッコのGDPに占める農業セクターの割合は近年10-12%程度で推移しているものの、労働人口は全体の40%以上、地方部においては人口の80%以上が農業により収入を得ています。農業はモロッコの経済や地方雇用吸収、活性化にとって大きな役割を担っています。
そんな重要なセクターの一つであるモロッコの農業ですが、農耕地面積の9割は天水農業(雨水による農業)であり、近年の気候変動の影響で干ばつが非常に厳しく、例えばカサブランカーセタット地域近郊にあったかつての一大農業地帯は雨が降らず、農業用水が全くないので農家の失業状態が続いています。
一方で、モロッコの主食はパンで、その主原料である小麦(穀類)の国内消費量の約4割を輸入に頼っている状況です。さらに世界情勢の影響もあり、穀物輸入価格の高騰や仕入れの困難から(かつてはロシアとウクライナからの輸入が全体量の半分を占めていました)、食糧安全保障問題にも直面しています。
2014年頃の節水灌漑の風景
現在の左写真と同じ地域の状況(2022年撮影)
2014年頃の農業用貯水池
現在の左写真と同じ農業用貯水池(2022年撮影)
農業の転換期へ
モロッコ政府は農業セクター長期開発戦略である「グリーンジェネレーション2020-2030」において、次世代農家の育成・支援を国策として掲げました。若者の農業離れ対策として、若手農家・実業家を対象とした農業新規事業の資本融資や技術的な支援を通して、将来の農業の担い手を育成しています。
水がある地域では園芸・蔬菜栽培を中心に、農業組合・企業体の組成、小規模農家のグループ化を促進し、より広い土地での分業、農業機械の導入、大口取引などの作業・事業効率化による、中大規模農業の主流化が進んでいます。
水のない地域では園芸・蔬菜栽培の代替生計手段として、農産物加工や手工芸、養蜂、畜産などが注目されつつあります。特に畜産においては、現状、消費量の9割が不衛生な小規模屠畜場を通して消費者へ届いており、この屠畜場から消費者へ届くまでのサプライチェーンと衛生管理方法を抜本的に変えるため、政府は衛生管理が徹底された中大規模屠畜ビジネスへの投資を呼び込んでいます。
食品加工・流通分野ではAgropoleと呼ばれる農業・食品分野の外国企業誘致のためのフリーゾーンが全国7か所(2024年時点)に設置され、「企画から工場へ」をスローガンに、情報と資金、人、テクノロジーのハブ機能を担っています。国内外の企業がAgropoleにオフィスや工場を構えており、ビジネスやシナジーが生まれています。
解決が期待される農業課題
・渇水(天水不足による貯水地の貯水率や地下水保有量の低下)による農業用水の不足
・農業用水の効率的利用(老朽化した灌漑施設→灌漑施設・手法の近代化)
・農畜産生産技術力の向上(特に農家の世代交代による若手農家の技術指導・技能伝達)
・農生産物の高付加価値化・食品加工技術
・農産物の収穫時の労働力確保、または農業機械導入による自動化
・農業・食品廃棄物(オリーブ搾油滓、オレンジ皮、屠畜残渣等)の処理・有効活用
・農畜生産物の流通量・価格の安定
・土壌の地力低下(土壌有機物不足、砂質土壌の土壌改良)
・残留農薬・化学肥料
比較的降雨のある地域での牧草栽培の風景
老朽化し、使われていない灌漑施設
活用が期待できる製品、技術例
・農業水高効率利用技術(節水灌漑(ドリップ、スプリンクラー等)、潅水施肥、水圧調整など)
・土壌の保湿力改善に資する製品・技術
・生産効率化の為の農業機械(小麦、オリーブ、オレンジ、ブドウ等の地中海作物プランテーション型向けに需要あり。
ただし、農業機械は低価格品が好まれ、米・中・印がシェア大)
・特別栽培・有機栽培・不耕起栽培に使われる技術・製品
・園芸・蔬菜栽培技術(病虫害防除、土壌保湿、ハウス栽培など)
・耐乾性品種の育種・開発技術
・マーケティング・ブランディング改善のためのノウハウ・技術
・家畜(牛、羊、山羊、鶏、七面鳥)の生産技術、濃厚飼料
・畜産加工の衛生管理技術
・農業・食品廃棄物の処理・活用技術
Pick Up ー 活用が期待できる関連デジタル技術
2022年実施の「北アフリカの開発課題解決に向けたデジタル技術活用にかかる情報収集・確認調査」より抜粋。
- 経営管理技術
パソコン・タブレット・スマートフォン等で作業計画・実績を記録することで、生産コストの見える化や栽培計画・方法の改善、収量予測等に活用するもの。
- 生産管理技術
ドローンやスマホで撮影した圃場や農作物の映像及び画像を、AIを用いて解析することで、効果的に作物の生育管理ができ、収量の向上につなげるもの。農薬・肥料用のタンクやノズルを搭載したドローンが、作物上空を飛行し、農薬・肥料を散布・適肥することで、人が入りにくい場所での防除作業を軽労化し、農薬・肥料のばらつき解消により収量の増加を図るもの。
- 水管理技術
日射センサーと土壌センサーで取得した情報を基に、日々の天候と作物の成長に合わせて灌水と施肥の供給量を自動的に決めるため、最適な水管理を行うもの。
- 販路確立技術
ウェブ上の農産物の売買マッチングプラットフォームを通じた事前予約により、調達者は鮮度の良い農産物を直売価格で購入でき、生産者は調達の不安を解消するもの。また、生産者が、個人や飲食店に直接商品を販売するという新しい販路を確立し、売上の向上につなげる。
- 発注技術
受注から生産現場への連絡、出荷、請求までの販売プロセスをワンストップでサポートするシステムを活用し、事務作業の手間を最小限にするもの。手書き注文書のシステム入力を自動処理することで人的ミスの削減、商品発送のスピード向上を実現する。
- コールドチェーン、流通・技術
貨物コンテナに冷却システムと氷感システムを追加し、保管時は外部電源、輸送時は蓄電池を使って定温管理を実現することで、長時間の鮮度維持を可能にするもの。
- 技能継承技術
熟練農家が「なんとなく」行っている作業や判断を視点解析や環境センサーなどにより抽出・分析し、学習教材、遠隔指導、VR を用いた疑似体験環境などを使って「見える化」し、新規就農者や非熟練農業者の技術習得に活用するもの。
※ただし、ドローンはモロッコの国防上の観点から一般利用は禁止されています。
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