アセアン工学系高等教育ネットワーク(AUN/SEED-Net)

1.背景

1980年代後半から高度経済成長を続けていたASEAN諸国は、1997年の通貨財政危機により大きな打撃を受けました。持続的・安定的な経済開発とそれを支える工学系人材の養成への認識の高まりから、日本政府はASEAN諸国の人材育成への協力を提唱し、工学系高等教育による人材育成事業として、ASEAN10カ国の工学系トップ大学19校を対象とし、その教育・研究能力の向上を目的とした「アセアン工学系高等教育ネットワーク(AUN/SEED-Net)」プロジェクトが開始されました。2003年からのフェーズ1を経て、現在、フェーズ2(2008年3月〜2013年3月)が実施されています。

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地震被害調査プロジェクトチーム

2.案件の概要

AUN/SEED-Netの中核は、(1)メンバー大学教員の能力強化を行う「留学プログラム」(ASEAN域内での修士、サンドイッチ博士(注1)、本邦博士)と、(2)留学プログラムと連携して行われる「共同研究」、となっています。

ASEANで留学生を受け入れるホスト大学(主にシニアASEAN)は、プロジェクトで対象とする工学系9分野の共同研究の中核となり、本邦大学からの教員派遣等による協力のもと、共同研究を大学院プログラムに組み込むなど、教育・研究能力の向上を図っています。

留学による高位学位取得を通じたメンバー大学教員の質の向上(個人レベル)、共同研究による大学院プログラムの強化(組織レベル)、そして、留学・共同研究・その他の活動を通じた大学間ネットワーク形成(組織間レベル)、の三つのレベルでのアプローチが可能となっています。

3.成果

フェーズ1では、以下のような成果を達成し、各国政府・メンバー大学から高い評価を受けています。

(1)教員の資格向上

AUN/SEED-Netによる修士・博士号取得者は合計440名(注2)(修士311名、博士133名)となり、メンバー大学工学部教員の修士・博士号保持者(注3)のうち、約14%を占めています(大学によっては20%以上)。フェーズ2終了までに約1,000名の修士・博士号取得保持者が輩出予定で、教員の質向上に貢献することが期待されます。

(2)大学院プログラムの改善

大学院プログラムの国際化、カリキュラムの効率化・改善、研究数や論文数の増加、国内外の大学との連携など、メンバー大学の大学院プログラムの質が向上しています。

(3)大学間ネットワーク強化

プロジェクト開始前に皆無に近かったASEAN域内大学間において、大学間連携協定の締結、プロジェクト枠外での共同活動など、人的・組織的ネットワークが新たに形成・強化されています。

4.フェーズ1からフェーズ2へ

フェーズ1の所期の目標は概ね達成された一方、カンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナムを中心として、教員育成や大学院強化のニーズは高く、また、ネットワークの基盤強化や自立発展性も求められます。

フェーズ2では、AUN/SEED-NetをASEAN地域における工学系人材育成のための自立発展的な枠組みへ発展させるとともに、非メンバー大学、産業界、コミュニティーへのより一層の貢献、防災等のASEAN域内共通課題解決に向けた共同研究など、ASEAN地域社会への直接的なインパクトを確保するべく、取り組みを継続しています。