「大国」としてのポテンシャルを生かす協力

2019年3月13日

工場を訪れて指導するカイゼンプロジェクトの日本人専門家

アフリカ大陸第3位の人口を擁し、55の国・地域(注)が加盟する世界最大級の地域機関、アフリカ連合(AU)が本部を置く、アフリカの大国エチオピア。熱帯高地で育つアラビカ種コーヒー発祥の地といわれ、日本でも人気の「モカ」コーヒーの主要な産地でもあります。

国内総生産(GDP)は過去10年間平均して二桁の成長を続け、20年間で約10倍の規模に達しており、エチオピア政府は、現在の農業を核とした成長から工業を核とした成長への変革により、2023年までの中所得国入りを目指しています。

JICAは、エチオピアの基幹産業である農業、そして台頭しつつある工業のさらなる発展に向け、ものづくりの品質や生産性を高める「カイゼン」の普及、外貨の流出防止や農家の所得向上につながる「コメ生産量の増加」のほか、「安全な水」を多くの人々に届けるための取り組みを行っています。

アフリカ開発会議(TICAD)で日本政府が掲げる優先分野に基づき、これらの取り組みは少しずつ実を結び、両国の関係の発展に貢献しています。

(注)日本が未承認の「サハラ・アラブ民主共和国」を含む

新旧基幹産業の底上げを図る

活気あふれる首都アジズアベバ。「アフリカ政治の首都」とも呼ばれる

経済は順調な伸びを維持しているエチオピアですが、GDPの34パーセントを占める基幹産業である農業は、小規模農家による天水に依存したもので、収穫量は天候に左右されがちです。製造業分野も基盤が整っているとはいえず、社会インフラも整備が十分でないため、人口の8割が住む農村には、教育・保健を含む社会サービスを受けられない人が多くいます。また、基礎教育も行き届いておらず、豊富な人的資源も活用できていません。

こうしたエチオピアが抱える課題を踏まえ、JICAは「農業・農村開発」「民間セクター開発」「インフラ開発」「教育」の分野を重点的に支援しています。

この4分野は、いずれも2016年に開催されたTICAD VIで日本が表明した支援の優先分野になっていますが、その具体的な取り組みの一つとして掲げられている「カイゼンイニシアティブの促進」を代表するプロジェクトが、エチオピアで実施中の「品質・生産性向上、競争力強化のためのカイゼン実施促進能力向上プロジェクト」です。

世界初「カイゼン博士」課程も誕生

縫製場の従業員を指導する専門家

今、エチオピアでは「KAIZEN」という言葉が大流行。国立メケレ大学は、2018年10月、世界初となる「カイゼン博士」課程を開設しました。

高度成長期の日本で、ものづくりの品質や生産性を高めるために培われた「カイゼン」の理念と手法が、2009年、工業を核とした成長への変革を試みるエチオピアに、JICAのプロジェクトを通じて導入されました。その後エチオピアは国内にエチオピア・カイゼン機構(EKI)を設立し、カイゼンの自国内での普及を図っており、現在、JICAの「品質・生産性向上、競争力強化のためのカイゼン実施促進能力向上プロジェクト」を通じて、より進んだ、中級、上級向けの指導員を養成中です。

JICA専門家やEKI指導員のコンサルティングでカイゼンを導入したある企業からは「『カイゼン』のおかげで、機械の稼働時間が3割以上も増え、不良品も減り、全体の生産性が2割アップしました」という声が届いています。

アフリカのコメ生産倍増にも貢献

イネ研究研修センターで試験栽培されている稲を見回る専門家とカウンターパート
写真:Abenezer Zenebe

コメは、エチオピアでは1970年代に栽培が始まった比較的新しい穀物ですが、近年はテフ(イネ科の穀物)から作る主食のインジェラにも混ぜて利用されるようになり、年々消費が拡大しています。しかし、増える需要に生産が追いつかず、輸入が急増して貴重な外貨が流出しています。そこでJICAは、稲研究・技術開発に関わる人材を養成し、国産米の生産を進める「国立イネ研究研修センター強化プロジェクト」(エチオライス)を2015年に開始しました。

2008年のTICAD Vで発足した「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」は、「10年間でアフリカのコメ生産量を倍増させる」という目標を掲げました。この目標の下、アフリカ各国で累計173件の稲作プロジェクトが実施されていますが、エチオライスもその一つです。ウガンダなど、他国で先行しているJICAの稲作プロジェクトから学びつつ、稲研究基盤の確立、研修事業の立ち上げ、稲作情報の体系化を通じて、エチオピアでのコメ増産を図っています。

「老舗」水プロジェクトの成果を活用

日本人専門家による研修。エチオピアではあと2万人の水技術者が必要とされている

「JICAセンター」と呼ばれるほど現地で親しまれているエチオピア水技術機構(EWTI)は、JICAが設立から関わり15年以上協力してきた技術者養成機関で、EWTIの前身時代を含めて、これまで4,000人以上の技術者を育成してきました。

エチオピアでの安全な水供給を担う技術者育成を一手に担うEWTIは、その技術力を生かして、JICAが支援する「国立イネ研究研修センター強化プロジェクト」での井戸掘削や、新設した灌漑施設での研修実施など、他のJICAプロジェクトとも積極的に連携しています。

このプロジェクトもTICAD Vで掲げられた「安全な水へのアクセスと衛生改善を促進する」という日本の支援優先分野の一つになっています。

JICAは、今後もさまざまなプロジェクトを通じて、エチオピアのオーナーシップを尊重し、国づくりに向けた努力や開発を支え、エチオピアと日本のさらなる信頼関係構築に貢献していきたいと考えています。