「アフリカの縮図」を人づくりで支える

2019年3月28日

コメの栽培方法をプロジェクト関係者に説明する日本人専門家

アフリカのサッカー大国として知られるカメルーン。2002年に開催されたサッカーのFIFAワールドカップ日韓大会では、大分県旧中津江村で合宿したカメルーン代表チームが話題になりました。西アフリカのギニア湾に面し、熱帯雨林、サバンナ、ステップ気候と異なる風土を持つこの国には、270以上の民族が暮らしており、自然環境と文化的な多様性から「アフリカの縮図」とも呼ばれています。

JICAはカメルーンで、アフリカ開発会議(TICAD)で採択された3つの開発の柱に沿いながら、産業人材、理数科教員などの人材開発、「カイゼン」を通じた中小企業振興、コメ生産振興プロジェクトなどの農業支援に力を入れています。また、サッカーを通じて始まった大分県とカメルーンの交流が、JICAの支援を通じて新たなビジネス展開につながっています。

すべての基本は「人」。現地の人材育成によって持続的な成長を実現し、同時に日本の地方創生も生み出す。JICAがつなぐ人の輪で、カメルーンも日本も共に発展するパートナーシップを目指しています。

多様性を生かしつつ均衡のとれた成長を

5S/カイゼンの現場実習の様子

原油、天然ガス、鉄鉱石などの天然資源に恵まれたカメルーンは、1960年の独立以来、紛争の散発する中部アフリカ地域にあって、政治的な安定を保ってきました。1982年に就任したビヤ大統領は、アフリカで最も在任期間の長い元首の一人です。

「Vision 2035」を掲げ2035年までの新興国入りを目指すカメルーン。輸出の約5割を石油に頼るなどコモディティ輸出に依存した経済構造の脱却が求められている中で、農業の多様化、生産性向上、公共投資による経済成長が主な課題となっています。

こうした中でJICAは、TICADで示されたコミットメントに則り、「農業・農村開発」、「中小企業振興等を中心とする経済開発」、「教育を中心とする人的資源開発」を重点分野としてカメルーンを支援しています。

他方、熱帯雨林からサバンナ、ステップと異なる気候風土に270以上の多様な民族が暮らすこの国では、均等な開発が進みにくく、地域格差、貧困、民族対立などの問題が発生しています。この国の多様性を生かしつつ、均衡のとれた成長を実現することが求められています。

コメの生産振興と環境保全

プロジェクトの研修用展示圃場を訪問する稲作農家の人々

アフリカの食糧不安を解消すべく、JICAは「サブサハラ・アフリカ(サハラ以南)のコメ生産を2008年から10年間で倍増させる」というTICADで合意された目標の達成に向けさまざまな支援を行い、その達成が確実となりました。次の10年で更なる倍増を目指し、対象国を広げて支援を続けます。

カメルーンでは、これまでに15,000人以上の農家に対して種子生産、栽培、収穫後処理といったコメ作りの一連のサイクルを学ぶ研修を実施。また、生産しやすく質の良い品種を普及させるために、約5年かけて種子の純化作業も行いました。貧困率が高いカメルーン極北州では安全上邦人の渡航が困難なため、UNDPと連携して研修を実施。今後はチャド、コンゴ民主共和国、など周辺国へも対象を広げながら、中部アフリカ地域のコメ振興を進めています。

カメルーンは、国連気候変動条約事務局(UNFCCC)に対して「2035年までに温室効果ガスの排出を32%まで削減」との国別約束草案を提出しています。JICAはこの目標達成に向け、違法な農地開発や違法伐採防止の取り組み支援や、コンゴ盆地の持続的な森林資源と生物多様性の保全を支援するなど、環境保全、地球温暖化防止を後押ししています。

産業界や教育界で進む人材育成

ABEイニシアティブ研修員の帰国報告会

「ABEイニシアティブ」は、アフリカの産業開発を担う優秀な若手に対して日本での修士課程教育や企業インターンシップを提供するプログラムです。TICAD Vの「アフリカ全体で約3万人の産業人材を育成する」目標に向けた計画の一つで、これまでに1,200名以上が日本で学んでいます。カメルーンからは20名の若者が参加。その経験を母国に還元しています。

また、日本の「カイゼン」の手法を生かした産業振興を目指して、JICAは2017年4月に「アフリカ・カイゼン・イニシアティブ」を「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」と共に開始しました。カメルーンにでは、民間企業40社へのカイゼン研修や、官・民コンサルタントへの育成研修を実施した結果、従業員の生産性向上や売上の拡大など、目に見えた効果が表れつつあります。

教育の分野でも、カメルーンをはじめとする仏語圏アフリカ諸国の理数科教員のレベルアップを図る指導者研修が2011年から徳島県の鳴門教育大学で実施されています。研修を終え帰国してからも現地でフォローアップを行うなど、継続的な人材育成が行われています。

つながる大分県とカメルーンの絆

ヤウンデ第一大学の敷地内に設置されたバイオトイレ

2002年のサッカーFIFAワールドカップでカメルーン代表が旧中津江村に合宿して以来、大分県とカメルーンの間には草の根の交流が続いていました。下水道の整備が遅れているカメルーンでは、都市部でも公共トイレは数カ所しかなく、悪臭や水質汚染、感染症、犯罪などの問題が生じています。そんな現状に大分県の企業が一石を投じました。

山岳用トイレのメーカーなど数社が共同出資するベンチャー企業「TMT.Japan」の横山代表は、JICAの「中小企業海外展開支援事業」を通じて、カメルーンに水のいらないバイオトイレを設置しようと計画。1年以上かけて関係省庁と調整を重ねた結果、ヤウンデ市庁舎とヤウンデ第一大学に8台ずつ設置され、市民・学生の好評を得ています。さらなるニーズに応えようと現地生産化が進められています。

横山さんはまた、大分県内の中小企業経営者たちとカメルーン視察ツアーを実施。そこから新たに自動車リサイクルなどの事業が動き出すなど、人と人の絆によって日本の中小企業の技術と世界がつながり、新しい国際支援の形に発展しています。