東アフリカの成長モデルに

2019年4月4日

ムエア灌漑プロジェクトのダム工事現場

ケニアは、2016年に開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)のホスト国。わが国にとっては、アフリカ支援の重点国であり、57社の日系企業・団体が進出するなどビジネス面でも深いつながりがある国です。

JICAではこれまでケニアに対して、サブサハラ・アフリカ域内最大級の支援を行ってきました。研修員・専門家・ボランティアなどの人的交流も、1960年代から50年以上の長い歴史があります。

東アフリカ地域の中核であるケニアの経済発展は、同地域での成長モデルのみならず、地域の平和と安定の大きな鍵となるものと期待されます。特に、東アフリカ地域への玄関口であるモンバサ港から内陸国へ通じる「北部回廊」は、この地域の産業開発・活性化のキーとなる重点開発エリアです。JICAでは、北部回廊エリアの港湾・道路開発などのインフラ整備に加え、同回廊のバリューチェーン活性化の基盤となる灌漑事業、小規模農家やコメ農家支援などの農業プロジェクト、また、近年注目が集まる「ブルーエコノミー」の活性化など、アフリカ開発会議(TICAD)の枠組みを通じて、さまざまなアプローチでケニアの産業の多角化、経済発展に向けた協力を進めています。

ナイロビ宣言に則し現地ニーズに応える支援を

オルカリアⅠ 4・5号機地熱発電事業

ケニアは、東アフリカ共同体(EAC)の中核国として、近年安定した経済成長を遂げており、2030年までの中所得国入りを目標に掲げています。その一方で、経済インフラの不足や、治安・気候変動などの不安定要素も抱えています。

2017年に再選されたケニヤッタ大統領は、次の5年間の課題として、食料・栄養の保障、手ごろな住宅の確保、製造業の推進、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の4点を重点経済政策「BIG-4」として定めました。これらは、「ナイロビ宣言」の3つの柱である「経済構造改革促進」「強靭な保健システム促進」「社会安定化促進」とも重なるものです。

JICAはこれまでもケニアに対し、経済インフラ整備、農業開発、人材開発、保健・医療、環境保全の分野で支援を進めてきました。TICAD VI以降は特に、現地のニーズと「ナイロビ宣言」で合意された優先分野に沿いながら、特に「北部回廊」のインフラ開発を主要課題として進めています。また、地熱発電による電力供給の安定化や灌漑事業、コメ生産の拡大など、農業分野を中心とした産業基盤の活性化、UHC達成に向けた支援も重要テーマとなっています。

持続的成長を支える北部回廊と地熱発電

ナマンガOSBP施設

モンバサ港からウガンダ、そして、ルワンダ、ブルンジ、コンゴ民主共和国へとつながる「北部回廊」は、2013年に開催されたTICADⅤで日本が支援を表明した3つの総合開発重点地域の一つです。日本は、ケニア・ウガンダ政府と共にマスタープランを作成し、2017年4月から具体的な計画が動き出しました。

モンバサ港とその周辺道路は、貨物の集中による物流の停滞が大きな問題となっています。新コンテナターミナルの建設と周辺道路の整備を行うことで、物流の効率化を進めています。併せて、EAC域内の国際物流円滑化のため、通関業務の集約化により所要時間を短縮する「ワン・ストップ・ボーダー・ポスト」(OSBP)の整備を、アフリカ開発銀行等の他ドナーと協力しつつ進めています。

また、ケニアは干ばつの影響を受けやすい水力発電から安定した再生可能エネルギーである地熱発電へのシフトを目指しており、JICAはヘルズゲート国立公園内にあるオルカリア地熱発電所の建設、同発電所の電力をケニア西部へ送るための送電線の整備、地熱開発能力強化のための人材育成などへの支援を進めています。

「作って売る」から「売るために作る」へ

SHEP PLUS対象農家とその畑

人口の6割以上が農業に従事するケニアでは、国土の約8割が乾燥地・半乾燥地であり、灌漑開発が大きな課題です。JICAはこうした状況を受け、灌漑普及アドバイザーを派遣し、生産性の向上に取り組んでいます。

また、農民のほとんどが小規模農家であるため、組織化や意識改革も生産性の向上には不可欠です。JICAは、小規模農家の意識と行動を、「作って売る」から「売るために作る」へと変え営農力をアップするための振興プロジェクト(SHEP)により、小規模農家グループの園芸作物所得増という成果をあげました。このアプローチが継続実施されるよう、地方政府に向けた支援策(SHEP PlUS)を実施しています。

日本の強みを生かしたコメの生産性向上にも取り組んでいます。ケニアではメイズ(トウモロコシ)、小麦が主食の主流ですが、コメは比較的調理が簡単なため、近年、都市部を中心に需要が増加しています。また、BIG4の食料・栄養の保障における重点作物の一つにコメが位置付けられ、今後更なる生産性・量の拡大が期待されます。JICAでは、コメの生産量拡大とコメ生産農家の所得向上を支援。現地で農業分野の事業を展開している豊田通商株式会社や株式会社クボタなどの民間企業と共に、農業の発展に取り組んでいます。

島国の知見を生かしてブルーエコノミーの推進役に

海外協力隊の隊員と共に交通安全活動も実施(ウゴング道路拡幅事業)

海や河川・湖などの環境を保護しつつ、水資源を有効活用して持続可能な経済発展につなげるという「ブルーエコノミー」に近年注目が集まっています。2012年に開催された「国連持続可能な開発会議」(リオ+20)で提唱され、TICAD VIでも重要性が言及されたコンセプトです。

ケニア政府は、昨年11月に「持続可能なブルーエコノミー国際会合」を日本・カナダと共催。170以上の国や国際機関が参加し、世界から大きな注目を集めました。JICAは同会議に参加し、アフリカの水産分野を取り上げたサイドイベントも実施しました。

ブルーエコノミーには、水産、海運・海事、貿易、観光、エネルギー、環境など多岐にわたる分野が含まれます。ケニアでは、モンバサ港の港湾整備について既に協力を進めていますが、これら海運・海事の領域に留まらず、水産、環境、ジェンダーなど、さまざまなセクターを包括した多面的なアプローチで、島国・日本の知見を生かした支援を進めていきたいと考えています。