「アフリカの巨人」の保健・健康を支える

2019年5月20日

ラゴス・メインランド行政区で出張保健サービスを行う保健官

ナイジェリアは1憶9千万人とアフリカ最大の人口を擁し、国内GDPは8年連続してアフリカで最も高い経済大国です。また、ノリウッドと呼ばれる映画産業が世界的にも有名な文化大国でもあります。

そんなスケールの大きさから「アフリカの巨人」と称されるナイジェリアですが、国内の所得格差は大きく、特に旧首都ラゴスと周辺地域は、アフリカ最大級の都市圏であり、人口増加、貧困、治安、公衆衛生など多くの問題を抱えています。

ラゴス都市圏を含むラゴス州では、住民の約7割がスラムと呼ばれる地域に住み、保健サービスが行き届いていません。JICAはこれまで、啓発活動や地域保健センター支援など息の長い活動を通して、ラゴス州の保健支援を行ってきました。また、ポリオ撲滅や感染症の拡大防止など、地球規模の課題に対しても国際機関や開発パートナーと共に取り組んでいます。

持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる「誰一人取り残さない社会」を目指して—。JICAはナイジェリアの保健支援を通して、その実現に向けた歩みを一歩ずつ進めています。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを目標に

ラゴス州の水上スラム。ラゴスは潟湖(ラグーン)の水上都市から発展した。州内には42カ所ものスラムが存在する

ラゴスと周辺の都市圏には、国の人口の約1割にあたる2千万人が住み、さらに急速なスピードで人口が増加しています。インフラや社会サービスが追い付かず、交通渋滞や大気汚染、電力・水不足、ゴミ処理問題が生活環境をますます悪化させるという悪循環に陥っています。特にこうした影響を受けるのが貧困層や妊産婦、乳幼児などの社会的弱者です。

中でも健康問題は深刻です。ナイジェリアの妊産婦死亡率と5歳未満児死亡率はアフリカでも高い方に属し、政府も国民の健康改善を発展の鍵と位置付けています。

強靭な保健システムの促進は、2016年に開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)で提唱されたアフリカ支援の3つの柱の一つです。JICAは、「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる」というユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成を目標に、ナイジェリアの母子健康の促進や保健システムの強化に取り組んでいます。

スラムに保健サービスを定着させる

フリップチャートを用いて健康教育活動を行う保健ボランティア

JICAがラゴス州で保健支援を開始したのは2010年。地域保健センターと産科病院の連携改善や母子保健サービスの強化を支援しました。また2014年からは、ラゴス州のプライマリーヘルスケア庁と連携して、「貧困層にも届く医療体制」を目指して地域保健サービスの改善強化プロジェクトを実施しています。

その貧困層が多く暮らすスラム地区に保健サービスが届かない一因として、地域の保健センターが利用されていないことが挙げられます。そこで、水上スラムなどアクセスの悪い地域にボートを使って出向いて出張保健サービスを行ったり、保健ボランティアがコミュニティの集会に参加して地域の保健ニーズをヒアリングしたり、健診や予防接種の重要性を説明するなど、保健サービスの定着を進めています。

それら地道な活動の積み重ねにより、熱心なボランティアのいる地域では、乳幼児の予防接種率の上昇、栄養失調児のケアが進むなどの成果が表れ始めています。

保健サービス強化にIT活用

ナイジェリアに限らずアフリカでの携帯電話の普及率は想像以上に高く行政サービスを届けるツールとして大きな可能性を秘めている

2014年から開始した地域保健サービス改善強化プロジェクトでは、スラムの住民たちにもっと地域保健センターを利用してもらうため、情報技術も活用しています。携帯端末でセンターの再来予約をすると、前日に確認のメッセージが届き、予約した人が来なかった場合には来訪を促すメッセージが送られるというシステムを開発し、現在32カ所の保健センターで試験的に導入しています。

導入時の現場の負担を最小限にするため、既存の妊婦手帳や予防接種カードに個人のQRコードシールを張り付け、必要な情報を一括管理できるように工夫しました。スタッフや利用者の評判は上々です。スラム住民は大多数が携帯端末を所持しているので利便性は高く、ラゴス州政府では他のセンターにも拡大していく計画です。ナイジェリア初のこのシステムには、国の保健省も注目しています。

そのほかにも、母子保健情報をボイスメッセージで携帯端末に配信する試みもありましたが、なかなか思い通りに進まず、計画を変更してラジオ番組にしました。母子保健情報を音楽とともに楽しく聞ける全14話の番組にし、5つのローカル言語で放送しました。

感染症阻止は地球規模の課題

経口ポリオ・ワクチンを接種するナイジェリアの子ども

ポリオは主に乳幼児がかかる感染症です。世界中でワクチン接種が行われ、撲滅まであと少しのところまで来ています。しかし、ナイジェリアでは治安などの理由で接種が行われなかった地域があり、2010年代に入り感染が増加してしまいました。現在、ポリオ・ウィルスの常在国は、ナイジェリア、パキスタン、アフガニスタンの3カ国を残すのみになっています。

JICAは、ナイジェリアの5歳未満児へのワクチン接種を目的に、米国のビル&メリンダ・ゲイツ財団、国連児童基金(UNICEF)、世界保健機構(WHO)と連携してポリオ撲滅事業を行いました。約4.6億回分のワクチン費用は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団が負担しました。JICAは、引き続き予防接種政策や人材育成などを支援し、撲滅運動を後押ししています。

感染症の拡大を防ぐためには、病原体を検査室の外に漏らさない「バイオセーフティー」も重要です。JICAは今年4月、西アフリカの感染症対策拠点であるナイジェリア疾病予防センターに病原体封じ込め施設を設置するために、資金提供契約をナイジェリア政府との間で締結しました。