自ら考え工夫する、意識変革が国を変える

2019年6月6日

アフリカで3番目に大きいマラウイ湖。マラウイの国土の5分の1を占め、世界遺産にも登録されている

マラウイはアフリカ南部の内陸国です。アフリカで3番目に大きいマラウイ湖に沿うように国土は南北に細長く、広さは日本の本州の約半分です。1964年にイギリスから独立して以来、一度も戦争や紛争、内戦などの争いごとに見舞われることもなく、「アフリカの温かい心」の別名で知られる穏和な国です。

一方で、マラウイは一人当たり国民総所得が世界191カ国中190位と、世界で最も貧しい国の一つです。国民の約8割が農業に従事していますが、貧しい小規模農家が大半です。JICAでは、アフリカ各地で実施している小規模農家支援を2014年よりマラウイでも実施しており、市場のニーズを踏まえた「売るための農業」への意識変革が広がりつつあります。

また、マラウイには、1971年以来、世界最多の1,800人以上のJICA海外協力隊が派遣されています。教育現場において生徒たちが自発的に学び考えるための工夫を行うなど、マラウイの人づくり、国づくりをさまざまな分野で支援しています。

自立的な経済を目指して

SHEPアプローチによって販売額が飛躍的に向上したタマネギ農家

マラウイは鉱物資源に乏しく、農産物の輸出が主な外貨獲得の手段になっていますが、主要産品の葉タバコが世界的な禁煙の流れで需要が減り、国際収支は赤字が続いています。援助への依存から脱却し、自立的な経済をつくっていくために、基盤となるインフラの整備や、産業を担う人材育成が必須です。

JICAはこれまで長年にわたって、首都リロングウェのカムズ国際空港の整備や拡張、マラウイ湖の水源を利用した水力発電所の建設、水供給などのインフラ整備を支援してきました。

また、農業を産業化して経済発展につなげる「SHEPアプローチ」も積極的に進めています。「SHEP」とは、「Smallholder Horticulture Empowerment & Promotion:市場志向型農業振興」の略で、小規模農家にビジネス意識を注入してやる気を引き出し、「売るための農業」へ転換していく試みです。JICAが2006年からケニアで実施し、大きな成果を上げました。2013年の第5回アフリカ開発会議(TICADV)で高く評価され、アフリカ支援の大きな柱として各国へ展開していますが、マラウイはその中でも中心的な存在となっています。

マラウイがSHEPアプローチ普及の研修先に

SHEP研修で市場調査演習を行う農業普及員たち

SHEPアプローチをアフリカ全土へと展開するために、JICAは2014年より各国の行政官を対象とした3週間の研修が日本とケニアで行っています。まず日本で2週間かけて「農業ビジネス」の現場を学び、残りの1週間はケニアでどのように実践されているのか学びます。この研修の成果を自国に持ち帰ってもらうことで、SHEPアプローチがアフリカ全土に広がっていくことを狙っています。

マラウイでは、この研修に参加した行政官が帰国後にパイロット事業を実施し、農家の生計向上につなげました。また、農業灌漑水開発省の普及局が全国レベルのワークショップを開催し、現在では、全国28県中21県でSHEPの活動を行っています。

このようにマラウイで積み上げられたSHEP展開の実績によって、2018年にはケニアに代わってマラウイが行政官研修の受け入れ国に選ばれ、ウガンダ、エチオピアなど14カ国22名の行政官がマラウイのSHEP展開の現場を訪れました。JICAは、現地の行政官のモチベーションをさらに高めていくよう、今後も後方支援を続けていきます。

「売れる農業」へ自らが工夫

普及員を対象にボカシ肥料の作成方法を指導する県職員

以前は市場の価格を知らずただ作物を育て、業者の言い値で売っていた農家の人たちは、SHEPアプローチによって、事前にマーケット調査を行い、いつ、どの作物が、どこで、いくらで売れるかという情報を得て、需要に合った生産・販売を行うようになりました。

ある農家グループは、近隣の小学校からトマトや葉物野菜の注文を受け、各メンバーで作付け時期を少しずつずらして生産することにしました。需要に合わせて供給することで、以前の約7倍の価格で販売できるようになり、暮らしも豊かになりました。

マラウイ農業灌漑水開発省の行政官は、SHEP成功の秘訣は、関係職員の熱意に加えて、農家が自ら主体的に工夫をするようにモノの援助をしなかったことが大きいと話します。「今後は、少なくとも1県に50件のSHEP農家グループを育て、輸出も含めた大きな規模のビジネスができるようにしていきたい。ゆくゆくは、全ての農産物を対象に、政府予算を投入したプロジェクトにできれば」と期待を膨らませています。

海外協力隊の活躍、光る

「かけ算ソング」の時間を楽しみにしている子供たち。「Multiplication(かけ算)」というあだ名をつけられた協力隊員も

国づくりには、人々の意識変革が重要。日本の海外協力隊の隊員たちは、教育現場でもそれを実証しています。

マラウイで理科教育支援を行っている隊員たちは、教員養成大学において「マジラ」というワークショップを2016年から年2回開催しています。「マジラ」とは現地の言葉で「卵」の意味。国づくりに不可欠な理科教員を育てるべく、教員の卵たちに働きかけています。機材が不足して思うように理科実験ができない中、このワークショップでは、身近な材料を用いた実験を行うなど、学生自身が実験の楽しさを体感し、自ら考えるよう工夫、学生たちにも好評です。

協力隊員の工夫は小学校でも光ります。マラウイの小学校は1クラス100名、200名は当たり前の大人数で、なかなか指導が行き届きません。そこで算数の基礎能力向上のために隊員たちが現地の学生の協力を得て「かけ算ソング」を制作。歌が大好きな子どもたちはこの歌であっという間に九九を覚え、テストの点数も伸びました。今では各地の小学校に「かけ算ソング」ブーム広がっています。