「民主化モデル国」の成長を支える

2019年5月6日

日本人専門家から親魚の麻酔の方法の説明を受ける「内水面養殖普及プロジェクト2」の普及員

トーゴとナイジェリアに挟まれた南北に細長い国土を持つ西アフリカの国、ベナンは、1990年代から民主的な大統領選挙によって政権交代が行われてきた「民主化のモデル」として名高い国です。

主要産業の農業や港湾サービス業が天候や他国の経済状況に左右されやすいという弱点をカバーするため、JICAはインフラ整備、産業振興、国民生活の環境改善に協力しています。代表的なプロジェクトの一つが、その成果が周辺国の注目も集める「内水面養殖普及プロジェクト2(PROVAC2)」。淡水魚養殖家を育て経済の多角化を図るとともに、ベナンの食糧自給率の向上、貧困削減にも貢献しています。

また、地域の拠点病院建設に協力した「アトランティック県アラダ病院建設・整備計画」では、完成した病院の機能やデザインなどが政府の高い評価を受け、今後建設する拠点病院の標準規格に採用されることが決まっています。

経済の基礎体力向上に協力

公共交通機関が発達してない首都コトヌーではバイクが住民の足

ベナンの主要産業は、綿花に代表される農業と、ギニア湾に面したコトヌー港の港湾サービスです。しかし、農産物は国内での加工率が低いため、国際市場での競争力に欠け、隣国ナイジェリアとの中継貿易が中心の港湾サービスは、ナイジェリア経済の動向に左右されるという弱点があります。そのため安定した政治状況にもかかわらず、一人当たり国民総所得(GNI)が1,005ドル以下の低所得国(世界銀行による)にとどまっています。

ベナン政府はこうした弱点を克服するために、経済の多角化と構造改革に取り組んでいます。JICAは「インフラ整備」「産業振興」「国民生活の環境改善」の3分野に重点を置いてベナンの持続可能な経済成長と社会開発に対する取り組みを後押ししています。

これらの3分野は、2016年に開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)で日本が表明した支援の優先分野「経済の多角化・産業化を通じた経済構造改革の促進」「質の高い生活のための強靱な保健システム促進」に合致したものです。

周辺国も注目する淡水養殖プロジェクト

ティラピアの親魚の検査

ベナンはギニア湾に面していますが、海岸線が短く、海産物の漁獲量には限りがあります。国内で消費される動物性タンパク質の5割以上を水産物が占めているにもかかわらず、自国の漁獲高だけでは賄いきれず、消費量の8割が輸入されていました。また、池や沼で行われる漁業(内水面漁業)の漁獲量も横ばい傾向にありました。

こうした状況を背景に、JICAは「内水面養殖普及プロジェクト2(PROVAC2)」を通じてベナンの淡水養殖活性化に協力し、住民の生計向上と食糧自給率向上を後押ししています。2010〜2014年の先行プロジェクト「PROVAC1」では、農民間の普及モデルが確立され、養殖を営む家の数が2.5倍、生産量は3倍になるという成果を上げました。PROVAC2では、PROVAC1で対象地域とした南部7県に加えて、中北部県への普及も図っています。

また、プロジェクトは周辺の国々からも注目されており、PROVAC2では、カメルーン及びトーゴに、ベナンで培われた養殖のノウハウが導入されることになりました。

拠点病院の標準規格として採用へ

アラダ病院の待合ロビー

ベナン政府は国内を34のゾーンに分け、ゾーンごとに拠点病院の建設を進めています。南部のアトランティック県にはまだ拠点病院のない「アラダ・トッフォ・ゼ」ゾーンがあり、帝王切開や交通事故などの緊急手術になると、2時間以上かけて患者を近隣ゾーンの拠点病院へ搬送していました。

そこで、JICAは「アトランティック県アラダ病院建設・整備計画」で、「アラダ・トッフォ・ゼ」ゾーンの拠点となるアラダ病院建設に協力しました。2018年に開院した病院には予想を上回る患者が訪れ、ベナン政府は早くも病棟や事務棟の拡張を決定しています。また、病院が幹線の合流地点付近にあるため交通事故患者が多く、政府はアラダ病院を外傷学部門に特化し、大学病院として位置付けることになりました。

さらに政府は、病院の機能、デザイン、費用対効果を高く評価し、アラダ病院を今後建設する拠点病院の標準規格にすることも検討中です。政府予算で行う新病院建設に当たって、アラダ病院を建設した日本のコンサルタントが技術面で協力を行う契約が結ばれる予定です。

協力隊員が障害者グループと融資先をつないだ

リーダー、サブリーダーと共に収支計画を立てる協力隊員

ベナン中部のズー県コヴェ市の村落開発支所で、地域の生産者の収入向上に協力する青年海外協力隊員が、ある障害者グループのリーダーから相談を受けました。グループで現金収入を得られるよう、ニワトリやウサギの飼育を始めようと施設を作ったものの、資金が不足して計画が止まったままになり困っているとのこと。

協力隊員は市場調査で得た情報を生かして、リーダーと共に地元のマイクロファイナンス業者や市役所などの融資候補先を回り、三つ目の団体で無事融資を得ることができました。2018年3月、グループは融資された資金を使って、飼育に手がかからず販売までのサイクルが比較的短いウサギを購入し、飼育を始めました。その後2回に分けて融資を完済した上、一定の利益も得られ、現在グループは2回目の資金調達に向けて活動中です。

グループのメンバーは、融資の獲得につながった隊員の協力に感謝するとともに「債務を完済することができ、自信が持てた。次のプロジェクトに向けてがんばりたい」と笑顔で話しています。