資源輸出だけに頼らない豊かさを求めて

2019年7月9日

ザンビア史上最高の収量を記録した「コメ普及支援プロジェクト」の試験田

ビクトリアの滝や多数の国立公園など、大自然を満喫できる観光で人気のザンビア。1964年の独立以来、近隣国との友好関係を保ち、アンゴラ、コンゴ民主共和国、ルワンダなどの和平活動を支援し、難民の受け入れも行ってきました。また、国内の政治的混乱も少なく、アフリカの民主化のモデル国として名を馳せています。

ザンビアは現在、銅などの鉱物資源に頼る経済構造の改革に国を挙げて取り組んでいますが、その経済多角化にも貢献する協力の一つが稲作振興です。JICAは、1980年代からザンビア政府が進めるコメの栽培・普及促進を支援しており、現在は「コメ普及支援プロジェクト」を通じて稲作の試験研究や普及の体制づくりを進めています。今後は、試験研究支援を続けるとともに、市場志向型の稲作振興も進めていく予定です。

また、感染症の研究・調査能力強化を目指すプロジェクトで開発されたエボラウイルス診断キットが、隣国コンゴ民主共和国でエボラ出血熱が流行したときに活用されたり、日本企業が開発した防蚊塗料の有効性を確かめる実証事業を支援して、ザンビア国内での塗料の販売が始まったりと、JICAの協力は保健分野でも成果を出しています。

産業活性化と基礎インフラ整備に協力

【画像】鉱物資源に恵まれたザンビアでは、銅とコバルトが輸出額の70パーセントを占めています。しばらく安定した経済成長が続いていましたが、2012年に銅の国際価格が下がり、国内経済は大きな打撃を受けました。政府はこれを契機に、農業や民間セクターの活性化など、鉱物資源だけに頼らない産業の多様化による力強い経済基盤づくりに取り組んでいます。

JICAはザンビアのこうした取り組みに対し、民間セクター開発や農業などの「産業の活性化」と、電力や道路などハード面と教育や保健などソフト面での「経済を支える基礎インフラの整備・強化」を支援の重点分野として協力を行っています。

これらの分野は、2016年に開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)で日本が表明した支援の優先分野「経済の多角化・産業化を通じた経済構造改革の促進」「繁栄の共有のための社会安定化促進」「質の高い生活のための強靱な保健システム促進」に合致したものです。

コメで農業の多様化を目指す

JICAが長年支援したイネ研究者が、自らが場長を務める試験場で見学者に説明

ザンビアでは、主食のメイズ(トウモロコシ)が、種子や肥料の提供、メイズ買取り制度など、政府の手厚い補助により幅広く生産されています。補助金によるメイズ振興は、農家の生活水準を保障する意義がある一方で、工夫して生産性を上げる農家の意欲を損なってきたともいわれています。このため、政府は、栽培作物の多様化を進めています。近年需要が高まっているコメも重点作物の一つと位置付けられ、2016年に策定された「国家稲作振興戦略」では、2020年までにコメの生産を50パーセント以上増やすという目標を掲げています。

JICAは、1980年代から灌漑の整備をはじめさまざまな形でザンビアの稲作振興を支援してきました。その過程で、それまで利用価値が低いと考えられてきた「ダンボ」と呼ばれる湿地帯で稲作ができることや、ネリカ米など新品種の導入、栽培技術の改善によってコメの生産性を大幅に向上させられることがわかりました。

現在は「コメ普及支援プロジェクト」を通じて、稲の試験研究能力向上と稲作普及活動の強化を進めています。プロジェクトは9月に終了する予定ですが、続く新プロジェクトでは、試験研究への支援を続けるとともに、稲作による農家の所得向上を目指し市場志向型の稲作普及支援を行う予定です。

成果が見え始めた感染症研究

エボラウイルスの自然宿主をつきとめるため、捕獲したコウモリから採血している

エボラ出血熱、鳥インフルエンザなど、人も動物も感染するウイルス性の感染症は、診断法はもちろん、人間社会への進入メカニズムも解明されていないものが多く、国際社会にとって大きな脅威となっています。アフリカの内陸国であるザンビアは、常に隣国から越境してくる感染症の脅威にさらされていますが、予防のための教育・研究・サーベイランス(調査・監視)体制は整っていません。

JICAは2013年から2018年までザンビア大学獣医学部を舞台に「アフリカにおけるウイルス性人獣共通感染症の調査研究プロジェクト」を行い、研究体制の確立とサーベイランス能力向上に協力しました。2017年5月に隣国コンゴ民主共和国でエボラ出血熱が流行したときには、プロジェクトで開発した迅速診断キット試作品が活用されました。特別な装置や設備が不要で、しかも15分程度で結果がわかるこの診断キットは、医療施設が整ってない地域でも使え、今後の活用が大いに期待されています。

こうした成果をさらに発展させるため、2019年6月から、ザンビア、コンゴ民主共和国の2カ国でJICAの新プロジェクト「アフリカにおけるウイルス性人獣共通感染症の疫学に関する研究」が開始されます。

日本企業の技術でマラリア予防

家屋用防蚊塗料販売開始時の発表会

2018年10月、関西ペイント株式会社の関連会社、関西プラスコン・ザンビアが、ザンビアで家屋用防蚊塗料「カンサイ・アンチ・モスキート・ペイント(AMP)」の販売を開始しました。室内に飛んできた蚊は人の血を吸う前に必ず壁や天井に止まる習性がありますが、そのとき塗料に含まれる成分が蚊の飛ぶ力を失わせるというもの。関西ペイントは、開発途上国の課題解決を目指す日本企業を支援するJICAの「民間技術普及促進事業」を活用して一般の家庭で調査を行い、安全性と有効性が確認されたため、ザンビア政府から塗料の輸入販売許可が下りました。

ザンビアのマラリア感染者は年間6万人、死亡者は3千人以上に達しており、政府は2021年までのマラリア撲滅を目標としています。この「ザンビア国感染症対策塗料普及促進事業」では、今後貧しい人々も購入しやすくなるよう、コスト削減を図っていく予定です。

このAMPは、マラリアだけでなく、蚊が媒介するデング熱などの予防にも役立ちます。ザンビアがアフリカ初の販売国となりますが、周辺国にも受け入れられれば、アフリカで蚊が媒介する感染症に悩まされる人の減少につながると期待されています。