「豊かな国」がよみがえる日を目指して

2019年7月18日

売れる作物作りで農家の生計向上を目指すSHEPアプローチ。普及員による研修を受ける農家の人々
写真:Yoshida Akihito

ビクトリアの滝に代表される美しい自然、肥沃(ひよく)な農地、そしてプラチナなど、世界有数の鉱物資源に恵まれた豊かな国、ジンバブエ。2000年以降、土地改革や経済政策が引き起こした混乱で打撃を受けましたが、2018年の大統領選挙で37年ぶりに新大統領が誕生しました。新政権は開かれた国を目指し貿易を促進しており、豊かな資源を生かした経済成長が期待されています。

JICAは「南北回廊北部区間道路改修計画」を通じて、内陸国ジンバブエが、経済統合が進む南部アフリカ地域で経済活動を行う上で不可欠な道路を整備しています。また、「5S-KAIZEN TQM手法による医療サービス質向上」プロジェクトで保健状況の改善に取り組むとともに、「市場指向型農業(SHEP)アプローチ」を導入し農民の生計向上を後押しするなど、ジンバブエの社会・経済の回復に協力しています。

社会・経済の回復と成長を後押し

首都ハラレ。現政権は南北回廊を軸にした開かれた国づくりに力を入れている

ジンバブエはかつて、「アフリカの穀物庫」と呼ばれるほど農業が発達し、豊富な鉱物資源にも恵まれた、農業、製造業、鉱業がバランスよく発達した豊かな国でしたが、2000年以降、農地改革や政府の経済政策が混乱を招き、人材流出やハイパーインフレも経験。しかし、2018年に誕生した新政権は、貿易を阻んでいた法律を廃止し、南部アフリカ各国を結ぶ大動脈「南北回廊」を生かした社会開発や観光開発を進めています。

JICAは「南部アフリカ地域経済への統合の円滑化」「豊富な資源の有効活用」「貧困住民に対する人間の安全保障の確保に向けた支援」の三つを重点分野とし、ジンバブエの社会・経済の回復と成長に協力しています。

これらの三つの分野は、それぞれ2016年のTICAD VIで日本が表明した支援の優先分野「経済の多角化・産業化を通じた経済構造改革の促進」「繁栄の共有のための社会安定化促進」「質の高い生活のための強靱な保健システム促進」に合致したものです。

交通インフラは内陸国経済活動の生命線

対象地区の完成予想図

南部アフリカ地域の経済統合が進む中で、内陸国であるジンバブエにとって、農産物や鉱物資源を周辺国に供給する道路は、いわば経済活動の生命線です。

南に位置する南アフリカ共和国から北上し、ジンバブエの首都ハラレを通り北のザンビアに抜ける900キロメートルに及ぶ「南北回廊」は、南部アフリカ地域の物流の大動脈ですが、ジンバブエ北部の山間部では、道路のアップダウンが激しい上に急カーブが多く、事故が多発していました。JICAは「南北回廊北部区間道路改修計画」によって、ジンバブエ北部の7キロメートルを改修し、安全性の向上に貢献していきます。

この改修区間は、ザンビアの国境の町チルンドにある、JICAが支援したワンストップボーダーポスト(OSBP:通関作業を1カ所で集中的に行い流通の効率化を図る施設)に近く、流通円滑化面での相乗効果が期待されています。

病院が真剣に取り組むカイゼン

きちんと整理されたカルテが並ぶ院内
写真:Yoshida Akihito

ジンバブエでは、2000年以降の急激な経済状況の悪化が人材流出や物資不足を引き起こし、保健分野も大きな打撃を被りました。2013年ごろには状況はやや改善しましたが、回復はまだ十分とはいえません。JICAは「5S-KAIZEN TQM手法による医療サービス質向上」プロジェクトで、こうした状況の改善を応援しています。

「5S- KAIZEN TQM手法」は、日本の製造業の現場で使われてきた手法を医療現場に持ち込み、病院サービスの質、職員満足度、患者満足度を向上させ、保健システム自体の強化を図ろうというアプローチで、①5S:整理、整頓、清掃、清潔、しつけ、②KAIZEN:根拠に基づく参加型の問題解決、③TQM(Total Quality Management):総合的品質経営という3段階で構成されています。

2016年から2018年までジンバブエの中央病院や州立病院に対して、5Sから協力を行ってきましたが、自力でKAIZEN段階に達した病院が現れるなど大きな成果が出ており、2019年以降も協力を続けていくことになっています。

SHEPプロジェクトがスタート

SHEPアプローチを導入したツンタ地区の農家の人々
写真:Yoshida Akihito

すでにアフリカ10カ国以上で効果を上げているJICA発の市場指向型農業(SHEP)アプローチの導入が、ジンバブエでも始まっています。

2014年から農業省の行政官や普及員が、毎年2、3名ずつ日本で行われるJICAの研修に参加してきました。彼らは帰国後、常駐する日本人専門家がいない中でも、自分たちが日本で学んだ知識を着実に農家に伝えています。

指導を受けた農家からは「高値で売れる品種の栽培を始めた」「高価な農薬をやめて、お金がかからず市場でも人気のある堆肥栽培を始めた」、そして「収入が2倍になった」「家を建てた」という喜びの声が。ジェンダー研修を受けた人々が、夫婦で栽培した野菜の売り上げを夫婦で共同管理するようになり、それが子どもの教育費に使われるようになったというエピソードもありました。

こうした手応えを得て、2019年3月から本格的なSHEPプロジェクトがスタートしました。かつて「アフリカの穀物庫」と呼ばれたジンバブエの農業がよみがえり、何よりも人々の暮らしの向上につながるよう、JICAは今後も支援を続けていきます。