「食と栄養」の改善を支援

2019年7月18日

学校菜園で栽培されている大豆を使い栄養改善に取り組む海外協力隊(写真左端)

ブルキナファソは西アフリカの中心に位置する内陸国で、マリやコートジボワールなど6カ国と国境を接しています。熱帯に属し、北部はサハラ砂漠南縁に位置するサハラ性気候、南部はより雨量の多いスーダン性気候に分類されます。労働人口の約80%が農業に従事する農業国ですが、もともと降雨量が少ない厳しい自然環境下にあり、また近年の気候変動による干ばつや洪水の発生などの影響を受けていることから、安定した生産性の確保を通した食糧安全保障が課題となっています。

またブルキナファソは、2018年に発表された国連開発計画(UNDP)による「人間開発指数」という保健、教育、所得の発展度を評価する指標で世界189カ国中183位と最低位に位置付けられているなど、さまざまな開発課題を抱えています。

JICAは、第6回アフリカ開発会議(TICADⅥ)で日本政府が打ち出した「食と栄養のアフリカ・イニシアティブ」(IFNA)に沿う形で、農業、教育、保健などセクターの垣根を越えた活動を推進しています。大豆を活用した栄養改善の分野では、国際機関や日本の民間企業と連携しながらブルキナファソの食と栄養の改善に向けた協力を進めています。

マルチセクターで挑む

栄養改善のためには安全な飲料水へのアクセスも重要でありJICAは井戸の建設や衛生啓発なども行っている

2016年8 月にケニアで行われた第6回アフリカ開発会議で、JICAはアフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)と共に「食と栄養のアフリカ・イニシアティブ」(IFNA)を打ち上げるためのサイドイベントを開催しました。このイベントには国連食糧農業機関(FAO)、国連児童基金(UNICEF)、世界保健機関(WHO)をはじめ、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、民間企業などから多くの関係者が参加し、2025年までの10年間でアフリカの食と栄養の問題解決に取り組むことが宣言されました。

現在、これらの機関の連携によって、ブルキナファソをはじめアフリカ10カ国で、栄養改善戦略の策定や普及活動などが進められています。

ブルキナファソはもちろん、多くのアフリカの国で栄養の改善は大きな課題であり、単一のセクターへの介入だけでは達成できません。食料が増えても人々に正しい知識がなければ正しく摂取できませんし、また、貧困層に購買能力がなければ食料が行き渡らないといった問題もあります。栄養の改善には農業、保健、教育、社会保障などさまざまなセクターを包括し、既存の分野を超えて多くの人を巻き込みながら進める「マルチセクター・アプローチ」が求められているのです。

大豆バリューアップ作戦

ブルキナファソの有望農産品の一つとされる大豆

ブルキナファソの栄養改善に向けて注目されている大豆。安価で栄養価が高い大豆は、油や飼料などに加工して販売できるだけでなく、栽培も比較的簡単で土壌を豊かにするというメリットもあります。しかし、同国の大豆栽培の歴史は浅く、大豆を豆として食べる習慣がないことから、飼料や加工原料として流通・輸出されています。

そこでJICAは、大豆バリューチーンの構築を目指して関係者間の連携を強化することを目的に、「大豆バリューチェーン強化」のための個別専門家を派遣しました。この活動の中で専門家は、関係者間のコミュニケーションの活性化を図り信頼関係を築くために、主要な生産地で政府関係者、大豆農家、加工業者、流通業者を集めた「B2B(ビジネス・トゥ・ビジネス)フォーラム」を開催しました。

このフォーラムでは、商談に慣れない大豆農家が安心して参加ができるよう、彼らとすでに信頼関係のある農業省の普及員に参加を依頼したり、「契約とは何か」といった基礎知識を事前に提供したりと、さまざまな工夫が盛り込まれました。関係者が直接顔を合わせて話すことで、お互いの状況やニーズが把握できるようになり、ビジネスが円滑に進むようになるなど、多くの農家にとって大豆ビジネスへの参入に向けた第一歩となりました。

大豆を現地の食卓に

豆腐の串焼きは徐々に食べられるようになってきた大豆製品の一つだ

大豆はブルキナファソでは比較的新しい作物ですが、大豆の生産地や健康への意識が高い都市部では、露店で豆腐の串焼きが売られるなど、徐々に大豆製品が食べられるようになっています。

JICAは安価なタンパク源である大豆を学校給食にも取り入れようと、学校菜園を支援するパイロット校4校で、現地の食文化に根差した大豆レシピを紹介しました。主食の一つであるクスクスや、納豆のような発酵食品でコメなどに混ぜて食べるスンバラ、お粥状の軽食ブイーなど新たなレシピを紹介し、給食を担当する児童の母親たちと一緒に調理しました。その後、このメニューは実際に各学校の給食として提供されています。

大阪府の食品メーカーである不二製油グループ本社株式会社は、ブルキナファソで大豆を調達して製品に加工し、現地の栄養改善と農家の収入向上につなげようと、2018年度のJICAの「途上国の課題解決型ビジネス(SDGsビジネス)調査」に応募し採用されました。今後、現地で大豆産地の調査や商品開発のための調査を行っていく予定です。

ブルキナ産イチゴをビジネスに

収穫されたいちごは大きなたらいに入れられ路上や市場で売られている

ブルキナファソは西アフリカで唯一のイチゴ輸出国。イチゴの収穫期である1月中旬から3月末には、大量のイチゴが入ったタライを頭に載せた売り子を首都ワガドゥグの街でよく見かけるようになります。ほのかに甘く美味しいイチゴではあるものの、温度管理された輸送網であるコールドチェーンがないため日持ちがせず、その多くが栽培近隣地で消費されています。

そうした状況に、日本のイチゴ農家がビジネスの芽を見出しました。愛知県に本社を置く株式会社秀農業は、日本のポット育苗システムをブルキナファソに導入し高品質なイチゴを安定生産しようと、JICAの中小企業海外展開支援事業(案件化調査)を活用した調査を2018年7月から行っています。JICAにとってブルキナファソにおける民間連携事業第1号です。

秀農業は、将来的には現地でのイチゴの生産販売を視野に入れており、現地政府からも高い期待が寄せられています。同社の加藤社長は、「イチゴで世界を豊かにしたい」と話しています。