地球規模課題にローカルの視点で挑む

2019年11月28日

ガボン国内の赤道直下の位置に立つ看板には「東京まで1万4,400キロメートル」とある

ギニア湾に面する中央アフリカの国ガボンは、国土の大半が熱帯雨林に覆われています。アマゾンに次ぐ世界第2の広大な森林は「地球の片肺」とも呼ばれ、環境保全が大きな課題です。ガボンの熱帯雨林を保護し生物の多様性を守るため、JICAは森林資源のデータ構築やエコツーリズムの支援などを行なっています。

ガボンはまた、シュバイツァー博士ゆかりの国でもあります。博士はガボン内陸のランバネレ市で地域医療に献身し「密林の聖者」と呼ばれノーベル平和賞を受賞しました。JICAは、博士の開いた診療所を起源とするシュバイツァー病院の隣接地に設置されたウイルス感染症の研究所(CERMEL)と感染症対策の共同研究プロジェクトを進めています。

このプロジェクトは、日本が進める「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム」(SATREPS) の事業です。JICAはガボンの抱える地球規模の課題に対し、現地のニーズに根差したローカルの視点で、解決に向けた支援を行なっています。

森林保護とエコツーリズム産業を支援

欧州からの観光客に木の薬効について説明するドゥサラ村の住民ガイド
写真:一般社団法人エコロジック

ガボンの熱帯雨林を違法伐採や乱開発などから守るため、JICAは森林資源インベントリの構築を支援しました。現地調査チームが数百におよぶ地点を実地調査して森林のデータベースを作成し、その成果はインターネットで閲覧可能になっており、ガボンの環境政策や森林管理に役立っています(※)。

かつては木材の輸出で外貨を獲得していたガボンですが、環境を保護しながら観光に役立てるエコツーリズム産業へ転換を図っています。国土の約1割を占める国立公園に生息するゴリラ、チンパンジー、象などの野生動物の生態系保護と、現地の研究員の育成を目的に、霊長類研究で実績のある京都大学が研究プロジェクトを行いました。

JICAはまた、ムカラバ・ドゥドゥ国立公園に近いドゥサラ村でエコツーリズム・ガイドの養成や土産物の工芸品を開発するNGOを支援しているほか、観光の拠点となるコミュニティセンターの建設も進めています。ドゥサラ村では、欧州などからのエコツーリストが少しずつ増え、養成された住民ガイドが活躍しています。

※ https://nafris.wixsite.com/nafris

感染症の早期把握と制圧を目指して

ランバレネ医療研究センターの分子生物学研修で日本人専門家から実験手技の説明を受ける研修員たち

ガボンの死亡原因の約半分は感染症です。特にアフリカ3大感染症(HIV/エイズ、マラリア、結核)の罹患率が高く、ガボン政府はシュバイツァー博士の診療所開設100周年にあたる2013年に、アフリカ3大伝染病に関する国際シンポジウムを開催し、国や分野を超えた協力体制を訴えました。

これら3大感染症に加え、アフリカではエボラ出血熱やデング熱などの流行で多数の死者が出ています。しかしガボンでは、これらの幅広いウイルス感染症に対する検査や診断の対応が遅れていました。そこでJICA は2017年に、シュバイツァー病院に隣接するランバレネ医療研究センター(CERMEL)に最先端機器を配備した研究棟を新設。現在、同センターと長崎大学が共同で研究を行なっています。

ここで行われている研究では、人間、動物、環境の健康バランスを守る「ワンヘルス」の考えのもと、ヒト検体に加えて野生動物の検体も解析し、ウイルスを迅速に特定し制圧することを目指しています。また、日本とガボンの大学院生・研究者が両国で短期研修を行い、交流を深めながら研鑽を重ねています。

母子保健の分野でUHCを推進

乳幼児健診を実施する青年海外協力隊の隊員

ガボンは森林資源に加えて地下資源にも恵まれており、現在は石油からの収入によりアフリカで最も所得水準の高い国の一つとなっています。しかし名目上の所得とは裏腹に、人口の約3分の1が貧困層と言われ、社会格差の是正が課題です。

すべての人が経済的な困難を伴うことなく保健医療サービスを享受できる「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」(UHC)は、国連の定めた持続可能な開発目標(SDGs)の一つであり、アフリカ開発会議(TICAD)でも継続して取り上げられている課題です。UHCの推進を支援するため、JICAはガボンの医療現場に多くのJICA海外協力隊員を派遣しています。特に母子保健分野では、4名の助産婦の隊員が、母親学級の実施、助産師の指導・育成、母子医療サービス向上などの支援を行っています。

JICAはまた、現地のNGOと協力して若年層への性啓発活動を行なっています。今年2019年9月には「ガボンにおける若者の早期の望まない妊娠予防計画」に対して、日本から1億円の資金支援が決定しました。今後、国連人口基金ガボン事務所と連携して2年間の期間でこの計画を進めていく予定です。

日本とガボンで活躍するABEイニシアティブ研修員

3年間の研修を終えて帰国し報告会で成果を話す元ABEイニシアティブ研修員のマリアノ・ムボウンバさん

脱石油化と経済の多様化によって新興国入りを目指すガボンは、「台頭するガボン政策」を掲げ、持続可能な開発、ガバナンスの向上、人材育成を中心に国の基盤強化を目指しています。

アフリカの将来を担う産業人材を育成するため、JICAは2014年から「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ」(ABEイニシアティブ)を進めています。アフリカの優秀な若者に日本の大学院での修士号の取得と日本企業などでのインターンシップの機会を提供するというプログラムで、これまでにアフリカ54カ国すべての国から1,200人以上が参加しています。

ガボンからはこれまでに5人が来日。2015年に来日した2人は、昨年プログラムを終えて帰国し、1人はガボンで復職し、もう1人は再び日本に渡り日本企業に就職しました。二人は今年2月にモロッコで行われた「ABEイニシアティブネットワーキングフェア」で日本の対ガボン投資についてプレゼンテーションを行うなど、日本とガボンの懸け橋になる活動を続けています。