サヘルの平和と安定を目指し人づくり

2019年12月16日

マリの首都バマコは3月から5月の乾季には最高気温は平均で37℃を超えサハラの砂埃が舞う

マリはアフリカ大陸のサヘル地域の国です。サヘルとはサハラ砂漠の南縁の地域で、アラビア語で「岸辺」を意味します。マリは国土の北側3分の1が砂漠、南部はサバンナ地域で、国の中央を流れるニジェール川の沿岸が農耕地となっています。

サヘル地域は貧困、食料危機、砂漠化、政情不安など、極めて困難な課題を抱えており、サヘルの中央に位置するマリは、その象徴ともいえる状態に置かれています。2012年には民族対立に端を発した騒乱がクーデターにつながり、国が分断される事態になりました。旧宗主国フランスの軍事介入を経て2015年に和平合意に至ったものの、国内は依然として不安定で、北部はイスラム過激派の勢力下にありテロ事件や民族対立が頻発しています。

JICAは、マリの行政、警察、教育の現場でさまざまな人材育成プログラムを進めています。人づくりを通じてマリの発展を後押しし、地域全体の安定につなげることを目指しています。

日・マリ首脳会談で人材育成の重要性が話題に

今年9月、横浜で行われたTICAD7に参加中のケイタ・マリ大統領
写真:外務省

今年8月に横浜で行われた第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の初日、「サヘル地域の平和と安定に関する特別会合」が開催され、G5サヘル諸国(ブルキナファソ、マリ、モーリタニア、ニジェール、チャド)、G7諸国、国際機関の代表が、サヘルの平和と安定のための取り組みについて話し合いを行いました。

この会合で参加諸国・団体は、サヘルの安定のために、サヘル諸国と国際社会が協調して安定をもたらす仕組みづくり、テロの根絶、人道・開発支援などに取り組む必要があるとの認識を共有しました。同日には日・マリ首脳会談も行われ、初来日したケイタ・マリ大統領は、日本の支援に対して謝意を表明するとともに、マリの発展には人材育成が重要であると強調しました。

JICAは、マリの治安維持を担う国家警察の能力強化、国家機能の基盤である行政官への研修、経済を後押しする職業訓練校の指導員育成、教育サービス拡充のための地域による小中学校の運営改善などを通してマリの人材育成を支援し、マリとサヘルの平和と安定につなげることを目指しています。

国内の安定を目指し警察・行政を支援

JICAの支援により改修されたバマコ国立警察学校で行われた麻薬密輸対策研修

7カ国と国境を接する内陸国マリの国内紛争は、難民の流出やテロの脅威の拡大など、周辺国にも大きな影響をもたらしました。

2015年の和平合意後、国家再建を目指すマリの最重要課題は治安維持機能の回復でした。JICAはマリで唯一の警察官養成機関であるバマコ国立警察学校の建物改修と拡張を行い、必要な機材を提供しました。

2017年には警察官への能力強化研修を開始。マリ警察や国連PKOミッションの警察部隊とも連携しながら、大統領選挙警備、テロ対策、麻薬密輸対策など実践的なテーマで研修を行い、受講した警察官は延べ1,000名に上ります。特に、地域住民との信頼に基づいた日本の交番システムを紹介する「地域警察活動」研修は好評を得ています。

国の中枢を担う行政官の育成支援も実施しています。2019年9月、外務・国際協力省、国民教育省の行政官らが、日本の大学院に留学を開始し、日本の開発について学び始めました。また、地方開発を担う行政官らが、日本の地方行政を学ぶために来日し、北海道の自治体を訪問する予定です。

隣国セネガルで職業訓練の研修を実施

西アフリカ随一との呼び声高い「セネガル・日本職業訓練学校」で研修課題に取り組むマリの指導員たち

マリの新たな国づくりのためには、若者たちの活躍が欠かせません。そこで重要な役割を果たすのが、手に職を付ける職業訓練学校ですが、マリには多くの学校が存在するものの設備や機材が不足しており、実習がままならない状況です。

JICAは、隣国セネガルで長年にわたり職業訓練分野の支援を行なってきており、1984年に無償資金協力で完成した「セネガル・日本職業訓練学校」(CFPT)はセネガルの職業訓練をリードする存在です。そこで、このCFPTでマリの職業訓練校の指導員に訓練や指導法の研修を行うことになりました。

2019年9月に第1回目の研修を開始され、マリ各地から集まった50名の指導員がセネガルの首都ダカールに滞在し、5週間の訓練を受けています。参加した指導員たちは、安定した成長を続ける隣国セネガルの空気を感じながら、自国の未来を見据えて生き生きと訓練に参加しています。

この成果をマリで実践できるように、CFPTと同等の電子機械、金属加工、工作機械、空調・冷蔵、自動車整備の実習機材をマリの職業訓練学校に導入する準備も進められています。

「みんなの学校」マリでも拡大中

笑顔あふれるマリの小学校の教室。コミュニティーの力で子どもたちの教育現場をより良いものにする試みが続く

日本の面積の3倍以上もの広大な国土を抱えるマリ。全国の小中学校を政府の力だけで支えていくのはとても困難です。そこでJICAは、保護者や地域住民が協力して学校を支える仕組みを導入しました。

この取り組みは「みんなの学校」プロジェクトと呼ばれ、ニジェール、セネガル、ブルキナファソなど西アフリカを中心にJICAが15年近く行なっているものです。マリでは2008年に開始されマリ政府の公式モデルとなりました。

2012年のクーデター後の政情不安により中断を余儀なくされましたが、2018年に再開されました。JICAは、地域住民による学校運営委員会の立ち上げなどを支援し、全国1万8,000の小中学校に「みんなの学校」を普及させることを目指しています。国の中・北部は依然紛争によって1,000校以上の学校が閉校しているという厳しい環境の中で、国の将来を担う子どもたちにより良い教育環境を整備しようと、地域の人々と共に努力を続けています。