「日本とスリランカをつなぐ架け橋に」(後編)

【写真】ケイケイユウ・アーナンダ・クマーラ氏 スリランカ出身(愛知県名古屋市在住)名城大学 名誉教授
ケイケイユウ・アーナンダ・クマーラ氏 スリランカ出身(愛知県名古屋市在住)

■写真:2021年4月 JICA北岡理事長とともに

2020年に第16回JICA理事長賞(注1)を受賞されました、ケイケイユウ・アーナンダ・クマーラ氏に、38年間にわたる日本での生活、活動、そしてこれからについて伺いました。

(注1)国際協力事業を通じて開発途上国の人材育成や社会・経済の発展に多大な貢献をされた個人・団体に贈られる賞

三重県協力隊を育てる会の設立にご尽力いただきましたが、どのような思いがあったのでしょうか。

2010年5月 三重県協力隊を育てる会設立総会

当時、三重県では「国際協力=クマーラ」というイメージが定着していました。また、当時勤めていた鈴鹿国際大学(現:鈴鹿大学)で担当していた国際開発論の講義や自らが発起人の一人として発足した「開発と文化研究センター」(後、センター長に就任)主催の公開講座などに元JICA海外協力隊員を招くなど、彼らと関わる機会を持っていたことから、何等かの形で助けになれればと思い、引き受けました。

三重県協力隊を育てる会の活動を振り返って強く印象に残ったことを教えてください。

大学という教育機関だからこそJICA海外協力隊員との繋がりを持つことができた一方で、彼らの活動に対して三重県の地域住民の理解はあまり得られていないのが現状でした。事実、帰国後に仕事探しに苦労する帰国隊員も少なくありませんでした。そんな状況を見て、彼らの経験や成長を地域社会にもっと評価してもらいたい、と強く思ったことが印象に残っています。

半世紀以上の歴史を持つJICA海外協力隊ですが、改善点があれば教えてください。

JICA海外協力隊に参加される方々は非常に強い熱意を持っておられます。しかし、参加者全員が豊富な社会経験を持っているわけではないと感じています。その面において、彼らの受け入れ先となる地域の村長や学校の校長先生など、社会的影響力のある地域の有力者を組織化することで、彼らの活動の初動を大きく助けることに繋がると思います。私は、彼らのことを「ヤングプロフェッショナル」だと思っています。だからこそ、彼らの活動をより実りあるものにすることで、その働きに対する評価がさらに高くなることを願っています。そのために私にできることがあれば、スリランカでもお手伝いしていきたいと思っています。

理事長賞を受賞された時の感想をお聞かせください。

スリランカ人個人として初の受賞ということもあり、「なんで私が」と驚きました。同時に、今後はスリランカを中心とした南アジアに日本が行う国際協力の取り組みを広めていきたい、という思いを新たにしました。これは、外国人である私だからこそできることであり、今回の受賞は、これらの活動を進める助けになると思っています。

日本の国際協力を長く見てこられましたが、課題や改善すべき点はありますか?

課題としては、開発途上国とのパートナーシップという側面からODA事業を検討するという点です。例えば、以前スリランカ南部に高速道路を建設する案件に対して、日本側が採択を見送ったケースがありました。当時、開発案件としての日本の優先順位は低かったと思いますが、将来の関係構築を踏まえた戦略的な面では、非常に重要な意味を持った案件でもありました。この案件については、結果として中国が採択をし、現地で高い評価を受けています。
ODA事業を通した開発途上国とのパートナーシップを考える時に、開発案件として優先順位は低くても、国際社会における位置付けとしては非常に重要な場合もあります。開発案件単体での将来的な効果や評価だけでなく、その国との関係性を踏まえた観点から開発案件を判断している国々はたくさんあります。そのような点において、JICAは実務者の立場から開発案件を判断することに加え、長期的なビジョンを持った戦略的判断の強化が、今後の国際社会の中では必要になるかと思います 。

今後日本の若者にどのように育って欲しいですか。

担当ゼミ生が企画した「国際協力セミナー」にて(名城大学)

日本の若者のみなさんには、日本で活躍するだけでなく、将来アジアの国々でリーダーになって欲しいと思っています。アジアで開発途上国と呼ばれる国々は、今後市場として拡大する可能性を大いに持っています。そして、アジアに生産拠点や販売拠点を置いている日本企業はたくさんあります。そのような視点を持つと、今後アジアが日本に経済的、社会的、政治的な影響を与え得る国々であることが分かります。だからこそ、ぜひアジアに目を向け、積極的にアジアのことを知り、アジアを活躍の場にしていって欲しいです。

間もなく名古屋の家をたたみ、スリランカにご帰国される予定とのことですが、最後に帰国後の先生の活動予定と抱負をお聞かせください。

将来、日本あるいは日本企業で活躍できる人材を育てるために、スリランカで大学設立を進めています。日本に対する理解を深め、日本と同様のIT技術が習得できるプログラムを提供し、最終的には日本人も含め、周辺諸国からの留学生受け入れも視野に入れています。日本人留学生にとっては、異文化環境で生活し、英語で教育を受けることで、国際社会に対する理解が深まると思っています。そしてもう1つは、JICAへの協力です。特に、「この国の役に立ちたい!」という熱い思いをもって、貴重な2年間をスリランカのために使ってくれるJICA海外協力隊員のサポートができればと思っています。みなさん、是非スリランカに来てください。お待ちしています!多くの優しい方々に見守られて人生の半分以上にわたる日本での滞在期間はとても有意義な生活となりました。今度は私の出番です。スリランカで何か困ったことがあれば是非私に声をおかけください。必ず私がお手伝いできる何かがあると思います。