インターンシップから就職へ - 日本での就職事例(モスタファ サイード エルマンカバディさん・可児建設株式会社)

【画像】モスタファ サイード エルマンカバディさん
・主任技師 可児建設株式会社(本社:愛知県小牧市)
(同社にてJICA元インターン研修員)
・元JICA長期研修員として、豊橋技術科学大学にて工学修士号を取得
(アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)
プログラム(2018-2020)に参加)
・エジプト・アラブ共和国出身



今回は元JICA長期研修員であるモスタファさんに、可児建設株式会社(以後「可児建設」)に、インターンから就職するまでのご経験について、主にお聞きしました。
(現在は、可児建設の主任技師。)

1) ムスタファさんは、何がきっかけで可児建設に入社することができたと思われますか?

やはり、インターン期間中での私の人柄や行動などを通して、築き上げてきた信頼関係のおかげだと思います。

2) やはりインターンシップ経験がなければ、可児建設への就職にはご縁はなかったと思われますか?

インターンは確実に内定への重要な役割を担いました。長期間に渡るインターンでしたので、私の仕事に対する姿勢や人柄をよく知ってもらうことができました。

3) インターン経験を通し、日本企業での働き方に対するご自身の考え方や意識は何か変わりましたか?

エンジニアとして参画していた、エジプトのギザ・パレスホテル建設プロジェクトの現場での様子

ある状況下での自分の反応の仕方というのは確かに変わりました。例えば、業務の進め方では、より計画的になりました。日本企業では個人単位の業務であっても、どちらかといえば細かく報告したり、業務マニュアルに沿うことを好むので、少し苦労もしました。ただ、逆にそのおかげで、何か問題が起きた際に、何が原因となっているのかがわかりやすくなるなど、解決の糸口になることもわかりました。

4) もともと日本での就職を計画されていましたか?

可児建設でのインターンシップ最終日

実は、日本での就職を真剣に考えていたというより、インターンシップに参加していくうちに、日本の労働文化や労働意識により興味を持ち始めたという感じです。特に将来、母国で日本企業とのパートナーシップを結ぶときに、やりやすいのではと考えていました。可児建設は、オープンな議論もでき、社内で提案した実行できそうな自分のアイディアなどにも、青信号を出してくれます。そのため、可児建設で、現在勤務できていることは本当に幸運だと感じています。

5) JICE(一般財団法人日本国際協力センター※)ではJICA長期研修員(留学生)に対して、企業とのマッチングイベントを提供していますが、そちらは、就職活動などには役に立ちましたか?

装着型視線追跡技術を使って、現場の安全対策の再考する様子

実際のところ、日本語能力があまり高くない留学生に対して、日本企業はインターンシップや採用の内定を出すことに、少し心配というかかなり慎重になっていたようでした。しかし、このマッチングイベントのおかげで、私自身は可児建設と出会うことができ、コンタクトを取るようになり、今となっては働くことができています。

※JICAでは、JICA長期研修員(留学生)向けのインターンシップ受入実施をJICE(Japan International Cooperation Center)に委託しています。

6) ムスタファさんの日本語能力はいかがですか?

N5程度です。
(日本語能力試験による基準では、基本的な日本語をある程度理解することができるレベル:N1○難~N5○易)

日本語はどのくらい勉強しましたか?

大学時代に受講した日本語基礎クラスと、ゆっくりのペースの独学の、合計約2年半程度です。

日本語でメールを書いたり、日本語での文書作成はされますか?

可児建設入社後は、メールはすべて日本語になってきました。日本語の文書作成はまだ難易度が高いのですが、現在、少しずつ頑張っているところです。

7) 職場ではどのくらいの頻度で日本語を使いますか?

日常会話は日本語を使っています。そして、少しずつですが、同僚やマネージャーとの仕事の会話でも使っています。

8) 可児建設入社後、もしも何か驚いた経験や奮闘したことなどがあれば、教えてもらえますか?

名古屋で開かれたi-Construction 推進展に出展した際の様子

大変だったことの一つは、会社の冬用ユニフォームのサイズです。着てみたところ、全体のサイズとしては問題なかったのですが、袖がとても短く、大変驚きました。また、日本企業は、最初の2、3か月での仕事のミスは、だいたい怒られませんが、その後はきちんと対応することが要求されますね。

9) 海外人材登用(インターン含む)を検討する日本企業へのアドバイスが何かあれば是非お願いします。

日本企業の皆さんにアドバイスをするとすれば、彼らの異なる文化や行動に対する、十分な柔軟性や理解を是非持ってください、ということでしょうか。それがあれば、仮に誤解が生じても、双方の「柔軟性」で、きっと乗り越えられるのではないかと思います。

10) 日本企業での勤務では、ご自身のどんな能力やスキル、意識が役立っていると思いますか?

可児建設の東京オフィスで働いている様子

日本語能力は高い方が、社内でのコミュニケーションがより円滑になるのでいいですね。あとは自分が持っているスキルに自信を持ちつつも、(特に会社での自己紹介の時などでは)謙虚であること、そして、変更や提案にオープンであることでしょうか。結局、仕事は個人一人ではなくチームの結果です。特に若手の場合は、日本企業内では、その人のスキルよりも人柄が重要視される傾向があるので、その点は日本企業でのインターンや就職の際に、留意が必要です。また、採用されたタイミングで、自分の制約や心配を会社側に話しておくと、スムーズにあらかじめ議論してもらえる可能性もあるかと思います。

11) 最後に何か一言JICA長期研修員(留学生)へお願いします。

日本企業では、コミュニケーション能力や組織運営能力(日本流)など、多くのスキルを学ぶ機会があります。そのため、(何か問題に直面したときには)是非、批判的になるのではなく、その行動の裏にある背景や理由を理解することに、時間と労力を費やされるといいのではないかと思っています。

「中部圏における高度外国人材の活躍促進に関する報告書」(一部紹介)

一般社団法人中部経済連合会(以後「中経連」)の「中部圏(*1)における高度外国人材の活躍促進に関する報告書」(2021年11月)よると、回答企業(*2)の35%が現在、外国人労働者を雇用しており、44%が雇用の意思を持っています。
留学生を採用したい主な理由としては、1)専門知識や日本人社員とは異なる視点(23%)、2)グローバル展開の中心的役割(21%)、3)ダイバーシティの一環(19%)および人手不足解消(19%)となっています。
企業側の留学生採用における課題としては、1)言語によるコミュニケーション不足(25%)、2)働く上での価値観の相違(休暇、残業、生活習慣など)(24%)、および、日本の文化や習慣でのコミュニケーション不足(24%)といったものが、上位に挙げられています。
企業にとって外国人留学生に求める、最重要な採用条件としては、1)日本語能力(59%)、2)日本の一般的な企業文化知識(17%)、3)長期間の雇用契約(16%)が挙げられました。
また、企業が外国人留学生に希望する日本語の能力は、N1またはN2レベルが76%、そして、N3レベルが17%でした。ただ、その一方で、「英語力があれば日本語は不要」という回答も2%ありました。
外国人留学生に採用前に行っていて欲しい教育としては、「日本語」が49%、「日本の一般的な企業文化知識」が44%と、それらで回答の9割以上を超えていました。
なお、回答企業のうち、インターン生の受入経験がある企業は15%で、さらにその目的は、1)採用後のミスマッチの防止(36%)、2)外国人人材の発掘(27%)、3)ダイバーシティの観点からの日本人社員の育成、国際交流(ダイバーシティの推進)(22%)と回答がありました。
その他、報告書の詳細は下記の関連リンクでご覧いただけます。

*1 中経連における「中部圏」は、長野、岐阜、静岡、愛知、三重の5県を指しています。

*2 回答企業は、中部圏(*1)の企業358社。回答企業の従業員数の内訳としては、100人未満の企業24%、100人以上1,000人未満の企業46%、1,000人以上の企業30%。