海外にルーツを持つ児童・生徒の教育を考えるフォーラム2022

2022年8月23日

【パネリストの皆様(左上:神田すみれ氏 上中:服部みさ氏 右上:奥村あゆみ氏 左下:川上真由子氏 下中:各務眞弓氏 右下:吉實フィリッペよしお氏)】

8月18日(木)に外国に繋がる子どもたちの教育において、長年真摯に関わっている方々をお迎えし、児童・生徒の教育について考えるフォーラムを面参加とオンライン配信で開催しました。

参加者数は、会場参加者とオンライン参加者を合わせ170名を超えました。行政・学校・地域それぞれの取り組みを聞き、パネルディスカッションではパネリストの意見交換を通して、互いに連携することの重要性を再認識しました。最後に、会場とオンラインの参加者それぞれからの質問を受け、さらに共感や学びが深まっていく様子が印象的でした。

【パネリスト】
神田すみれ氏(愛知県立大学多文化共生研究所 客員共同研究員)
服部みさ氏(愛知県教育委員会 指導主事)
奥村あゆみ氏(愛知県語学相談員/JICA海外協力隊経験者)
川上真由子氏(三重県立飯野高等学校 教員/JICA海外協力隊経験者)
各務眞弓氏(可児市国際交流協会 事務局長)
吉實フィリッペよしお氏(JICA日系社会研修員)

海外にルーツを持つ児童・生徒の教育の現状と課題についてお話しいただきました!

冒頭では神田氏による「東海4県における海外にルーツを持つ児童・生徒の教育の現状と課題」について基調講演がありました。

各家庭の形態や背景、親の多様化が進んでおり、教育課題は教育言語(日本語)習得だけではなく、子供自らが学ぶ意欲を持つことが大切であること、また、外国人も活躍できるダイバーシティ社会の実現に向けて、様々な組織の取組みについてご説明をいただきました。

企業と地域団体が合同で実施する子供向け学習会を紹介いただき、このような事例は、東海地域のこれまで培った経験の蓄積から生まれた事業であり、「今後NPO、学校、子ども・保護者、教育委員会、企業が連携していくプラットフォームを創っていきたい。」とお話いただきました。

行政事例報告から実際の現場をイメージしました!

行政事例報告として、愛知県教育委員会の服部氏、奥村氏からお話をいただきました。

【服部氏】
文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和3年度)」では愛知県の日本語指導が必要な児童生徒数は12,738人(外国籍、日本国籍を合算)であり、言語別人数で見ると、ポルトガル語が最多ではあるものの、現在はベトナム語が急増しているそうです。

他にも注目すべき点として、日本語指導が必要な児童生徒(日本国籍)の特長として、日常生活で主に外国語ではなく日本語を使用しているのにも関わらず、日本語指導が必要である児童・生徒がいるという事。様々な背景のある多様な日本語指導が必要な児童・生徒の支援が必要になっていることが印象的でした。

【奥村氏】
愛知県教育委員会の語学相談員はポルトガル語4名、スペイン語3名、フィリピノ語4名が活動しており、職務は語学指導の補助及び学校生活に関する相談・適応指導・教科学習の補助、進路指導支援など、多岐にわたる支援を児童・生徒のみならず保護者へも行っているそうです。支援の際に大切にしている事をご自身の経験を基にお話しいただきました。

JICA海外協力隊経験が活きている点として、「異文化の中で生きるという経験」「相手のことを「知る」から「理解」すること」、「答えではなく、方法の支援」の3点をあげていただきました。相手の立場に立って、子どもが自分の力で解決する力を育みたいという気持ちが伝わってきました。

飯野高校の発表から学校現場の取り組みを知ることができました!

【川上氏】
飯野高校(三重県)では英語コミュニケーション学科のCLD生徒(Culturally Linguistically Diverse文化的言語的に多様な背景を持つ生徒)の割合は約70%を超えています。学校では「外国人」という言葉を意識して使わないようにすることで、日本人・外国人という二分化されたイメージを払拭するため用いているそうです。教員も生徒もCLD生徒だから支援が必要、という固定観念を持って生活していないところが、学校の良いところであると紹介いただきました。

生徒は中学まではマイノリティであることが多かったそうですが、高校進学後はイキイキと学校生活を送っている様子が動画から伝わってきました。他方、教員への負担増や、中学生時に比べ校内の中での日本語の使用の機会が減ったことから、日本語保有の課題もあるそうです。

今後は生徒達が卒業後への不安を抱かないよう、地域の会社でのインターン体験や、日本語スピーチコンテスト等の発表の場を積極的に設けるなど、社会との接点を多く持ち、将来に向けての自己肯定感を高め、CLD生徒だからこそできることに気づき、サポートする側に立てるように支援したいとの事でした。

協力隊経験で活きている事として、自身の言語弱者、マイノリティ経験、現地の人たちに助けてもらった温かい経験が今に活きているとお話しされていました。

地域事例報告として、可児市国際交流協会のお話を聞きました!

【各務氏】
岐阜県可児市の在住外国人は定住者や永住者が増加傾向にあり、可児市国際交流協会は自主事業である多文化共生事業の内、学校に繋げる支援として、言語学習支援、語学講座、就学支援の充実、母語教室等通して外国につながる子どもたちが、日本での将来を考える力を育む事を目指している、とご説明いただきました。

外国につながる子どものキャリア教育では、近年10代の子どもが増加している事や、彼らと接していてライフプランとキャリア教育の必要性や、アイデンティティと言語についての課題を感じたそうです。高校進学支援教室の過去10年を通して、日本社会での自立を目指し、3つの言語での進路学習会や、外国人向けのビジネスマナー研修、ライフプランと性教育を実施してきました。また母語教育においては10年間の成果もあり、今後は継続の成果の見える化に取り組むそうです。

また、子ども達の頑張っている姿を地域に発信する必要性も感じ、映像作品の作成や、地域のお祭りに参加しています。お祭りでは参加だけでなく通訳の役割を担うことで、地域住民や親に評価される体験を通してキャリア教育の効果も感じたそうです。

JICA日系社会研修員の受け入れとして、今年初めて吉實氏の来日が実現しました。彼の経歴がロールモデルとなり、子どもたちが母語やブラジル文化の継承、将来を考えるきっかけとしたいと考えているそうです。


【吉實氏】
幼い頃来日し、日本の公立小学校に編入しましたが、その後ブラジルへの帰国を視野に、ブラジル学校に転校しました。その時の経験から、学習言語の理解は難しいと感じたそうです。ブラジルに帰国後、ブラジル公立校に通学しましたが、ポルトガル語でも学習の理解は難しく、今思うとダブルリミテッドであったと話されていました。

現在は市役所の窓口業務や翻訳・相談も担当しており、最近はその多くがマイナンバーに関する内容だそうです。日系社会研修を通してDLA(外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメント)を学び、ポルトガル語でDLAを実施し、それぞれの子どもに合った教育支援に繋げています。他にもポルトガル語教室の子供たちとも交流し、一緒に本を読むことでポルトガル語だけでなく文化も伝えているとお話をいただきました。

パネルディスカッションで意見交流をしました!

【パネリストと運営者】

「子供たちが自ら未来を切り開き、地域社会で生活していく為には何が必要か」というテーマについて、パネリストの皆様のご回答の後、全体での意見交換が行われました。

服部氏 「選択肢を広げるための支援」

川上氏 「情報リテラシー」

奥村氏 「情報共有・提供の工夫」

粂内氏 「地域の人とのかかわり」※当日はご欠席のため代読

各務氏 「地域社会での活躍の場や機会を提供すること」

吉實氏 「子供はあらゆることを経験し成長する、その為の家族の後押し」
 
意見交流をする中で、連携の必要性が話題となり、社会が意識変革をしていくことが大切だと分かりました。

すべてのプログラムが終了し、質疑応答の時間となりました。「キャリア教育について学校現場で実施されていること」や「子どもの進学・学習に関心のない親にどのようなアプローチが必要か」などの質問がありました。

パネリストによる回答が終了し、イベントは盛況のうちに幕を閉じました。

※三重県立飯野高校の発表資料をご希望の方はこちらの連絡先に、①お名前②ご所属③電話番号を記載の上ご連絡ください。(2022年9月30日締め切り)
飯野高校 川上 kawakami.m@mxs.mie-c.ed.jp
※「海外にルーツを持つ児童・生徒の教育を考えるフォーラム2022」アンケートにご協力いただいた方にフォーラムの様子を収めた動画のURLを送信いたしました。届いていない方は下記までお問い合わせください。
E-mail:cbictpp@jica.go.jp