【実施報告】2020年度高校生国際協力体験プログラム

2021年1月7日

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JICA中国では例年夏、「高校生国際協力体験プログラム」を実施しています。
中国5県の高校生がJICA中国で直接会って過ごす1泊2日の時間こそがこの体験プログラムの醍醐味。そんな想いからコロナ禍の今年は8月から12月に延期を決め、準備を進めてきましたが、開催直前で再びコロナ感染拡大のニュース。今年は教育現場でも多くの行事が中止となり、例年以上に期待の高まった今回のプログラムには90名以上の高校生が応募してくれました。
JICA中国に来てもらえないのは残念ですが、好奇心と学ぶ意欲の強い高校生のみなさんと少しでもつながることができたら…と、急遽オンラインでの開催に変更し、迎えた2020年12月19日(土)、各学校で選ばれた29名の高校生が画面上で顔を合わせました。

多様性を尊重した社会を目指して

今年のテーマは「インクルーシブな世界から見た多文化共生」。ハンディキャップを持った人や外国につながる人、マイノリティーな立場にある人達の気持ちや日常に抱える問題などを理解するため、様々な背景や経験を持つゲスト講師やJICA海外協力隊の体験談を聞きました。そしてグループに分かれ、感じたことや考えたことを分かち合い、全体でも発表してもらいました。

JICA海外協力隊経験者が感じた、異文化での少数派の立場

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広島県国際協力推進員の羽立大介さんの体験談

青年海外協力隊員としてガーナに派遣され、障害児者教育の分野で盲学校で活動した広島県JICA国際協力推進員の羽立大介さん。現地での言葉や文化の違いへの戸惑い、目に見えない子どもへ物事を伝える難しさ、伝わらない・伝える手段のないもどかしさ、ガーナの人の国民性と日本での自身の習慣のはざまで抱えた葛藤、見た目の違いによるガーナの人の自分への扱いに抱いた違和感。協力隊員として現地の人達と一緒に生活する中で感じた、自分自身が少数派の立場におかれた経験と想いを話してくれました。

ハンディキャップを抱えて初めて気づいたこと

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奈良原嘉さん

下肢または上肢に切断障害を持った人たちがプレーするアンプティ-サッカー。その選手として「アフィーレ広島」というチームで活躍しているのが奈良原嘉さんです。14年前の交通事故により右足にハンディキャップを持たれています。事故に合うまで、障害者は自分とは別世界の人、別次元の人と思っていたという奈良原さん。そんな自分が突然、障害者の立場に立たされたときに感じた気持ち、苦しみ、様々な疑問と葛藤を語ってくれました。
事故に合ってからしばらくは精神的にも苦痛を抱えた奈良原さんですが、素の自分でいられるアンプティーサッカーと出会い、このままで良いんだという居場所を見つけ、1人の人間として自信を取り戻したそうです。
その後、高校生はグループごとに「障害があっても自分らしく生きていける社会になるためには、どんな事が大切?」をテーマに意見交換をしました。「周りの人が相手の限界を勝手に決めてはいけない」という意見や「障害を持つ人の気持ちや活動を知るために、学校の体育で障害者スポーツを体験するのはどうだろう?」というような具体的なアイデアも出ました。
奈良原さんは最後に、「すべての人が傷つかない社会が理想的。それが困難だとしても、傷ついている人の存在を気づける社会であってほしい」というメッセージをくれました。

アクションプラン作成-様々な立場からの難民支援-

外国にルーツを持つ人が見た日本社会、そして母国

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エージオ・ヒロユキ・セキネさん

岡山県に住むエージオ・ヒロユキ・セキネさんは日系ブラジル人です。現在は機械のオペレーターとして働いています。ご自身は日本語が流暢ですが、言葉の壁から困ることの多い外国の人達の話をしてくれました。また、エージオさんはブラジルで会計士だったそうです。母国での専門性を日本では活かすチャンスがないもどかしさから、どんな国でも自由に生きることの貴重さ、自分自身もその自由を大切にしたいという想いを語ってくれました。また、外国の人が持つ日本へのイメージとのギャップも。「外国人は日本を東京、大阪のような大都会ばかりだと夢を抱いて来日する。でも田んぼ、畑ばかりの母国より田舎な地域も多く、最初は少しショックを受けるかも」と、笑いながら話してくれました。

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アルサーディ・ナディーム・ハザ・ナギさん

アルサーディ・ナディーム・ハザ・ナギさんは現在広島県の大学に在籍する留学生。ナディームさんの国籍はイエメンですが、ご家族はベトナム出身で、現在はご家族もエジプト、ベトナム、カナダと世界各国で生活しているそうです。アジアにルーツを持つナディームさんが母国イエメンで経験したこと、イスラム教徒である彼が来日してから感じたこと、そして日本から見たイエメンについてなど、様々な立場と視点からご自身の想いを語ってくれました。
お二人の話の後で、高校生は「外国にルーツがあっても、暮らしやすい社会ってどんな社会だと思う?」「異なる宗教が混在する社会の中で、共に尊重しあって暮らしていくためにはどんなことが必要だと思う?」といったテーマについて話し合いました。「よく知らないのに、相手を決めつけない」「相手をリスペクトして生活していきたい」と、お二人の体験談から意見をのべてくれた一方、友人や隣人、塾の先生といった、自分の周りに暮らす海外にルーツを持つ方が直面している問題についても話してくれました。
プログラムの最後、司会の指示に合わせて高校生は人差し指を頭上にかかげました。指を時計回りに回しながら胸元まで下ろしていく、そして目線を上から移して見下ろしてみると…、時計回りに回していたはずの指は反時計回りに見えてきます。
視点を変えると、世界が変わる。世界の数だけ、人の数だけ個性がある。そして、すべての人にとって居心地の良い世界になるには?自分になにができるだろう…。
参加してくれた高校生は、すでに海外や国際協力に興味を持ち、自分の意思で参加してくれました。これからさらに多くの知識と経験を積み、多様性を尊重できる社会の創り手になってくれることでしょう。
高校生のみなさん、そして開催までに多くの協力をして下さった学校関係者・保護者のみなさま、本当にありがとうございました。次回はきっと、JICA中国で会いましょう!