【実施報告】2021年度高校生国際協力体験プログラム[多様な社会を考える 編]

2022年1月7日

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2021年12月18日(土)、19日(日)の2日間、高校生国際協力体験プログラムを開催し、中国地方の高校生33名が参加してくれました。新型コロナ感染拡大により、昨年度と今年度の夏はオンラインでの実施となり、対面形式での開催は2年ぶりとなりました。長びくコロナ禍の中で学校内外での行事にまだまだ制約はありますが、その中で本プログラムに参加した高校生は、皆さんやる気にあふれ、グループを引っ張る生徒、出会ったばかりのメンバーから話を引き出してくれる生徒など、短い時間の中で自分の役割を見つけ、積極的に動いてくれました。

「インクルーシブな世界」を体感しよう

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体育館での疑似体験

はじめに、同じ質問に対して各自が考える答えをグループ内で共有し、話してもらうアクティビティをしました。世界の国の数は?といった答えのある問題から、日本の公平性って世界で何位だと思う?といった正解のないものまで、高校生という同じ立場で同じ問いを考えても、全く異なる回答が出ることもありました。このような簡単なアイスブレイクからも、人々の考え・見方が多様であることが伺えました。今日のプログラムではこの「多様性」を総合テーマとし、いろいろな角度からの体験を通して、考えてもらいました。
その後、体育館に移動し、言葉が通じないってどんな気持ち?目が見えないってどういうこと?車いすで買い物するってどう感じる?など、日常生活を送る上で少数派の人々が直面しているであろうことを実感できるよう、疑似体験を行いました。外国で家族で買い物をする、というシミュレーションのもと、様々な仕掛けの中で与えられたミッションに取り組んでもらいました。そこで感じて欲しかったのは、今の自分とは違う状況にいる人の気持ちを感じてもらうこと。お金がない、自由に動けない、言葉の問題で伝えたいのに伝わらない、話しかけてくる物乞いにどう接したら良いのか…。戸惑いやもどかしさを感じてもらうため、あえて困るような場面を設定しました。
その後、疑似体験にもご協力頂いたゲスト講師からお話を聞きました。

人の数だけ「普通」がある-多文化共生講座-

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ゲストを囲んでインタビュー

不慮のバイク事故によって足を切断、今まで無縁だった「障害者」となり、自身の気持ちも家族や周囲との関係も大きく変わってしまったという奈良原嘉さん。事故後に抱えた苦悩、そしてアンプティサッカー(注1)とその仲間達との出会いが、苦しい毎日の中で光となったことを赤裸々に語ってくれました。高校生からも「足に障害が残ると分かったとき、周囲の人にどう対応してほしかったか」「障害をネタにする芸能人の話、僕たちは笑って良いのでしょうか…」といった普段はなかなか聞けないストレートな質問が飛び、奈良原さんはその一つ一つに丁寧に分かりやすく答えてくれました。
イエメンで幼少期を過ごしたナディームさんは、自分の過ごした国に今も複雑な思いがある、とその胸の内を語ってくれました。ナディームさんのご両親のルーツはベトナム。容姿がアジア人であることからいじめにあった幼少時代。自由な発言がしにくい環境で育った経験から、日本に来て思ったことを自由に話すことができ、友達を作る楽しさを知った、といいます。本来の自分の性格は人と関わるのが好きなんだと分かったと、きっと思い出すのも辛いであろう経験を語ってくれました。
親の事情から、小学校6年生の3学期という子どもにとって難しい時期に来日したマイケルさん。日本語も分からず友達もできない毎日で、母国フィリピンとは異なる日本人との距離感がつかめず「地獄だった」と話してくれました。そのときの気持ちを忘れず、逆境をエネルギーに変えて、自分に負けないようにと勉学に励み、現在は広島にある大学で学んでいます。
青年海外協力隊として中米のベリーズで活動経験のある濱長真紀さんは、自身が海外でマイノリティになった時の体験から、日本人として、アジア人として感じたこと、帰国後にその経験がどう生きているかなどを、分かりやすく話してくれました。
自分とは違う人生を歩んできたゲスト講師の生い立ちや気持ちをインタビュー形式で聞いたのち、参加生徒は「どんな特徴があっても取り残されない社会になるためには何が必要?」という問いについて考えていきました。「相手を知る・想うこと」「自分との違いを理解し、受け入れること」「自分の特徴を認めること」「自分の価値観を信じすぎない」など、素晴らしい意見がたくさん出ました。

(注1)アンプティサッカー:四肢切断障害を持った選手がプレーするサッカー。フィールドプレーヤーは下肢切断者、ゴールキーパーは上肢切断者が担当。

夜の交流は「ブラインドサッカー」!

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研修員と英語で楽しむ「ブラインドサッカー」

みんなのお待ちかね、レストランでのエスニックバイキングの夕食を終えたら、1日目の締めくくりはブラインドサッカー(注2)です。ゲスト講師3名も入り、またJICA研修員の3名も参加者として共に楽しみました。
新たな体験は楽しみながらもなかなか難しい様子。ブラインドサッカー用のボールの中には鈴が入っており、その音でボールの位置を認識し、見えない状態でボールを探ります。そもそも全く見えないという状況がとても怖く、その状態で動くには周りの人の声による情報が必要です。そして、助けがないとうまく動けません。数時間前に会ったばかりの人の手を取り、伝え、協力し合って動きました。全ての事柄が健常者に合わせて進みがちな社会の中で、一番ハンデの重い状態に全員が合わせてプレイする競技を体験し、参加者同士でより強い一体感が生まれ、さらに距離が縮まったようでした。

(注2)ブラインドサッカー:ゴールキーパー以外が全盲の選手で、アイマスクを装着し、音の出るボールを用いてプレーする、いわゆる「見えないサッカー」。(日本ブラインドサッカー協会ホームページより)

アクションプラン作成と発表

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アクションプラン作成中

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発表の様子

2日目の午前中は前日のふり返りからスタート。広島県国際協力推進員の羽立大介さんから、ガーナでの青年海外協力隊の体験談を聞きました。羽立さんの話には、輝かしい活動事例ではなく、現地で苦労したこと、辛かったことや悩んだことなどがたくさん含まれていました。その体験談をふまえ、また前日のプログラムを通して感じたことを思い出し、自分が考える「マイノリティ(少数派)」について、グループ内で書き出していきました。そして「少数派である人も取り残されない、理想の社会の在り方」をテーマに、テーマ設定から言葉の定義、そのテーマを扱う理由、社会に伝えるための具体的行動のアイデアをグループで考え、まとめていきました。
プランが完成したら、作成した模造紙をもとに参加者全員が自分のグループの内容を発表していきました。自分の言葉で、他のグループの参加者に短時間で分かりやすく説明するプレゼンテーションにも、参加生徒は堂々と臨み、また聞く側の生徒も鋭い質問や意見を出していきました。

閉会式では全員に、漢字一文字でこの2日間を表してもらいました。参加してみてどうだったか、何を感じたか、一人ひとりが自分の言葉で伝えてくれました。中には、自身の進路や家族背景と今回のテーマである多様性を結びつけて気持ちを話してくれた生徒も。彼らの想いあふれる言葉に、日々多忙な中で本プログラムの準備を進めてきた各県の国際協力推進員をはじめ、スタッフ一同胸が熱くなりました。
久しぶりに対面型で実施した高校生国際協力体験プログラム、開催にあたりご協力頂いた保護者の皆様、学校関係者の皆様に無事に終えられたことを感謝いたします。
そして参加してくれた生徒の皆さん、本当にありがとうございました!