幸せとは何か

【写真】守都 未来岡山県国際協力推進員
守都 未来

私の原点~ないものを数えるのではなくてあるものを探そう~

高校1年生の時に訪れたカンボジアにて

「幸せとは何か?」もし皆さんがこんな質問をされたら、どう答えますか?15年間、私はこの問いの答えを探し続けています。

私は小さいころ、家が経済的に厳しい状況で、ランドセルすら買ってもらうことができず、服もお古ばかり、周りの人たちにあるものが自分にはないと感じるばかりの幼少期でした。

そんな私に転機が訪れたのは小学校高学年に差し掛かろうかという頃です。
学校でユニセフ募金が行われることになり、児童全員にユニセフ手帳が配られました。そこには世界で暮らす子どもたちの中に過酷な環境で暮らす子どもたちがいること、3秒に1人の速さで5歳を迎える前に亡くなる子どもたちがいること、募金する100円でどのような支援ができるのかなど、わかりやすく書かれていました。それまでの私は、周りのお友達と自分とを比べては、自分にないものや足りないものばかりを探していました。でも、私には雨風をしのぐ屋根付きの家があり、質素ではあるけれど空腹を紛らわすだけの食べ物があり、古びていても身に着ける服があり、学校に通うことができる。世界にはもっと大変な環境に暮らす人たちがいる。そうならば、ないものを数えて卑屈になるのではなく、自分にあるものを探して誰かのために何かができる人に私はなりたい。その時を境に、そう思うようになりました。

本当の国際協力ってなんだろう?

訪問したチャンバック小学校にて

高校生になり、自分にも何かできることがあるかもしれないと、岡山に本部を置く国際協力NGOのAMDAで、高校生ボランティアとして活動をはじめました。

当時AMDA高校生会で取り組んでいたのは、カンボジアのコンポンスプー州というところにあるチャンバック小学校を再建するというプロジェクトでした。チャンバック小学校は、校舎が老朽化し、崩壊寸前の状態で、児童たちが室内で授業を受けることができない状況でした。そのため、AMDA高校生会で募金活動を実施し、再建のための資金を募っていました。300万円の募金が集まり、広島の企業からの10年にわたる継続支援の申し出により、無事に校舎が再建されることが決まり、私もそのセレモニーに招かれカンボジアを訪問しました。セレモニーには地域の子どもたち以外にも、教育大臣などの要人も出席し、盛大に行われました。

一方で私が気になったのは、学校までの道のりにぽつぽつと建っていた、クリーム色のコンクリートの建物でした。その美しい建物は、舗装されていない道に立ち並ぶ簡素なマーケットや住居と対照的でした。地元の方に、何の建物か聞いてみたところ、日本からの募金で建設された小学校であることがわかりました。ところが、中をのぞいてみると誰もいません。その理由を尋ねてみたところ、こんな返答が返ってきました。「カンボジアはポルポト政権時代に多くの教員が虐殺され、教えることのできる先生たちがほとんど国内に残っていません。親の世代が学校に通っていないため、子どもたちも学校に行く意義を知らず、家の手伝いのために働いています。政府も、教育に回す予算がないため、学校を運営していくことができません。そのため、使われることなく放置されているのです」と。それを聞いて、私はハッとしました。そうしたカンボジアの現状を考えることなく、「カンボジアは貧しい国で、大変だから、子どもたちが学校に通えるように学校を建ててあげればいい」と思いこみ、募金活動をしていたことに気づかされました。私は、カンボジアに暮らす方々が何を必要としているのか、どんな日常を歩んでいるのか、どんな未来を生きていきたいのか、そうした当事者の思いを聞くことなく、「支援する側」という先入観で物事を考えていたことに、大きなショックを受けました。「本当の国際協力ってなんだろう?どうすれば『共に生きていける社会』になるだろう?私がやったことはただの偽善で押し付けだったのではないか?」そんな疑問が次から次へと浮かんできました。

幸せとは何か?

トレント大学の卒業式

カンボジアでの衝撃と何年も葛藤し、大学進学を考えたとき、「本当の国際協力とは何か」を学びたいと強く思い、カナダの大学へ進学することを決めました。
胸膨らませて臨んだ、国際開発学入門の最初の授業の冒頭で、教授が私たちに投げかけた問いを、私は忘れることができません。
「幸せとは、なんでしょうか?あなたは幸せですか?あなたにとっての幸せは、あなたの大切な人の幸せと、同じですか?どうすれば人は、幸せになれるのでしょうか?その問いの答えを見つけていくことが、国際協力なのです」と。それはまるで大きな稲妻のように、私の心を揺さぶりました。
それからの4年間、この問いの答えを探し続けました。けれども、開発の歴史や現状、課題を知るたびに、ますます答えは見えなくなり、結局私は卒業するときまでに、この答えにたどり着くことはできませんでした。最後に教授を訪ねていき、答えを見つけられなかったことを正直に打ちあけたとき、教授はこう言いました。「それでいいんだ。探し続けることが大切なんだ。もしいつか君が、この問いの答えにつながるヒントを見つけたときには、僕に教えに来てくれよ。待っているからね」と優しく背中を押してくれました。
あれから10年の月日が経ちました。自分なりに一生懸命毎日を生きる中で、一つだけ、わかったことがあります。それは、この問いを問い続け、答えを探し続けることは、世界に関心を持ち続け、今生きている社会の中で、自分の生き方を絶えず見つめなおすことでもあるのだと。

「一緒に未来を創っていきましょう。」

【画像】私は今、岡山県JICAデスクで、国際協力推進員の仕事をしています。
日々、多くの皆さまと出会い、地域と世界を、人と人をつないでいます。
そんな日々の中で、私はいつも「幸せとは何か」を問い続けています。
三人の子どもの子育てをしながら奮闘する日々を支えているのは、カンボジアのチャンバック小学校に残してきた、16歳の私からのメッセージです。
芳名帳に、名前と共に書いた、「一緒に未来を創っていきましょう」という言葉。
世界のどこに暮らしていても、明日を生きるのが楽しみになる。そんな社会の実現に向けて、一歩一歩進んでいきたいと思います。