【授業実践紹介】「SDGs-世界の未来と日本の役割」(広島県熊野町立熊野第一小学校)

2021年1月8日

熊野町立熊野第一小学校 中村祐哉先生

熊野町立熊野第一小学校の中村祐哉先生は、2016年の夏、JICA中国の教師海外研修でラオスを訪問しました。
現地で多くの学びを得た中村先生が、中でも最も重く受け止めたテーマは不発弾の問題でした。
不発弾処理で生まれたスクラップメタルから作られたスプーンなどを現地で購入し、帰国後から現在に至るまでそれらの教材を大切に使って、世界の問題に目を向ける幅広い授業を実践されています。

自己研鑽を続ける中村先生は今年、JICA地球ひろばが主催する「国際理解教育/開発教育指導者研修」に参加され、全国の先生方との意見交換やディスカッションを重ねました。その研修での学びを活かし、12月から同校の6年生を対象に、世界の未来と日本の役割を考える授業を展開されました。

18番目のSDGs?

「ラオスの目標はSDGsにふさわしい?」

2020年12月16日、中村先生は社会科の授業の最初に、SDGsのロゴをゴール1から順にスライド方式で提示していきました。4月からずっとSDGsに触れてきた6年3組の児童は、ロゴだけでどんな目標かが分かります。
しかし、次々と目標の内容を答える児童も最後に戸惑った表情を見せました。17で終わるはずの目標に見たこともない18番目のロゴが出てきたからです。

中村先生は、不発弾問題を扱ったラオス独自のSDGsの目標を説明し、児童に問いかけました。「世界各国が合意して国連が定めた17のSDGsに、17以外の目標を勝手に入れてもいいんかね?世界の目標としてふさわしいと思う?」。
大人でも分からない問いに、子どもたちが出した回答は大きく分かれました。
「みんなで決めて一緒に取り組む目標がSDGsだから、1つの国の課題を入れるのはふさわしくない」
「SDGsにはふさわしくないけど、同じ問題を持つ国同士で話し合っていけば良いのでは?」
「SDGsは2030年までに達成する目標だけど、不発弾の処理はラオスだけでも100年以上かかると習った。間に合わないよ!」といった意見や
「今も不発弾が残っているんだから、取り組むべき目標だと思う」
「『誰も置き去りにしない』がSDGsの目標。ラオスの人々も置き去りにしちゃいけない」といった賛成意見など、これまでの学びで得た知識をもとにした考えは、いずれも説得力のあるものばかりでした。

児童の意見を静かに聞いていた中村先生は、日本でも毎日多くの不発弾が学校や住宅地で見つかっていること、今も不発弾の被害に合う日本の子どももいることなどを、新聞記事を使って説明しました。そして、日本はラオスのような国を支援しながら被害国でもあること、一方で他の国には日本が残した不発弾が存在する加害国でもあるという中村先生の話を、児童は神妙な面持ちで聞いていました。

SDGsを「道しるべ」に

日々の学びにSDGsが取り入れられていました

これまでも中村先生の授業では、SDGsは覚えるものではなく、物事を見るときの「ものさし」として使われてきました。世界の現状や日本の課題はもちろん、日本史や理科などあらゆる学習に関連づけて、子どもたちはSDGsへの理解を深めてきました。
6年3組の教室は、新学期から現在までの学習の歩みがわかる掲示物であふれています。
世界の課題を解決するため日本はどんな活動をしているのだろう?
日本が行っている国際協力、国際支援、国際援助にはどんなものがあるだろう?
そして同じ国に50年以上も支援を続ける日本の国際支援は、本当の支援と言えるのだろうか…?など、正解のない問いに真剣に向き合った学びの足跡がありました。

そんな教室で、授業の最後に中村先生は「SDGsは『未来をつくる道しるべ』だね」と言いました。
29名の子どもたちは2030年、22歳になっています。たとえそのとき、すべての目標が達成されていなくても、「道しるべ」を深く理解し、世界の問題を自分事にとらえ、自分の考えを自分の言葉で表現することのできる彼らならきっと、新しい道しるべとともにより良い未来をつくってくれる、そう思わせてくれた授業でした。