【授業実践紹介】「WE HAVE A DREAM-なりたい自分プロジェクト-」(広島県三原市立三原小学校)

2022年1月13日

三原市立三原小学校 田中涼子先生

三原市立三原小学校の田中涼子先生は、2010年にJICAの教師海外研修に参加、「現地の人と同じ目線で活動したい」という思いを強くされ、2012年に現職教員特別参加制度(当時)でカンボジアに小学校教諭として派遣されました。現在は、それらの経験を活かして、探究的な学習の在り方に関する研究推進地域事業における三原市の研究推進リーダーとして、生活科、総合的な学習の時間の充実に努めています。
自己研鑽を続ける田中先生は今年、JICA地球ひろばが主催する「国際理解教育/開発教育指導者研修」に参加され、全国の先生方との意見交換やディスカッションを重ねました。その研修での学びを活かし、同校の6年生を対象にした総合的な学習の時間で、自分の将来の夢とSDGsとのつながりを考えるという、とてもユニークな授業を展開されました。

自分の夢が社会を変える!?

モイちゃんの将来の夢を分析

2021年12月17日、田中先生は自身が派遣されていたカンボジアについて、国の位置や主な産業、観光資源や教育事情など、現地の写真もまじえて説明してくれました。その後、田中先生は現地で出会ったモイちゃんという10歳の少女を紹介しました。彼女の担任は、なんと彼女のお姉さん。モイちゃんの将来の夢は「お姉さんのような小学校の先生になること」だそうです。はじけるような笑顔のモイちゃんの写真とわずかな情報から、6年2組の38名の児童は「夢分析」を始めました。
モイちゃんの将来の夢が叶い、彼女が小学校の先生になったなら、カンボジア社会へのどのような貢献になるのだろう?そしてそれは、SDGsのどのゴールと関係があるだろう?JICAが作成したSDGs資料を読みながら、まず個人で考え、グループ内でも話し合いました。「先生が増えれば、学校に通える子どもが増えるよ」「それはSDGsのゴール4『質の高い教育をみんなに』につながるよね」「夢を叶えて、先生という仕事に就けたら、ゴール8の『働きがいも経済成長も』が達成できる!」など、子どもたちはこれまでに学んだSDGsの情報を思い出しながら、活発に意見を出し合いました。クラス全体での発表では、「女の子の夢が叶って、働く女性が増えることでゴール5の『ジェンダー平等を実現しよう』につながるのでは」といった、大人にとっても難しいテーマに触れてくれた児童もいました。
授業の最後に、田中先生はもう一度カンボジアについて解説をしました。カンボジアが辿った悲しい歴史について、その結果、経済や教育に遅れが出てしまったこと、働き盛り世代の人口が少ないことなどを分かりやすく説明してくれました。「だからこそ、これから大人になる子どもや、カンボジアの未来をつくる若い人が夢を叶えることで、これからのカンボジアは変わっていく、そしてそこから世界も変わっていくと思うんだ」、田中先生は笑顔で締めくくりました。

夢を描くことから始まるSDGsへの貢献

カンボジアの子どもの夢が国を変える!

現代は予測不可能な時代と言われています。テレビや新聞ではプラスチックゴミによる海洋汚染や温暖化など、地球規模の問題が日々取り上げられ、明るい未来を描くことは容易ではありません。さらに新型コロナウイルスの感染が拡大し、臨時休校や様々な学校行事の延期や中止などで、今の児童は制限の多い学校生活を強いられています。「そんな社会情勢であっても、児童には明るい未来を思い描き、希望を持って小学校を巣立って欲しい」、田中先生はそんな願いを常に抱いていたと言います。そして小学校でも身近になってきたSDGsを、大人が決めた遠い世界の話ではなく、自分たちこそが担い手になれる目標と捉えるにはどうしたらよいか、その2つの大きな課題に頭を悩ませたそうです。多くの参考文献や教具を調べ、いろいろな案を検討した結果、実現したのが本授業でした。身近な人や国内外で活躍する人の夢を聞き、考えることで自分自身の夢や目標を明確にすること、そしてSDGsという視点を持つことで、自分の夢の実現が、地域のみならず世界規模でより良い社会を創造すると理解すること。田中先生自身の夢と経験がたくさん詰まった活動を、三原小学校の6年生は頭と心でしっかり受け止めていたようでした。