「自分らしく生きる力を育む教育」を追い求めて ~挑戦し続ける教師・瀬戸誠さん~
2026.03.16
「子どもたちは、『生きる力』をどう学び、身に付けるのだろうか。」
学校での開発教育・国際理解教育に長年取り組んでいる静岡県の教師・瀬戸誠さんは、20年以上にわたりこの問いを続けています。
JICA中部の教員向け研修「教師海外研修」や「開発教育指導者研修(実践編)」の受講を経て、「自分らしく生きる子どもたちを育てる」ために奮闘しつづける、瀬戸さんの熱い想いをお届けします。
※本記事は、JICA中部にインターンとして勤務中の愛知県教員・橋本幹子さんが、開発教育・国際理解教育を実践する先生方にインタビューをした内容をもとに構成しています。
瀬戸さん:
私が考える「生きる力」は、テストの点が取れる力だけではありません。
自分の得意なことも苦手なことも、弱さも含めて「これが自分だ」と受け止める力。そして、目の前の人とつながりながら、社会の中で自分の役割を見つけていく力です。
人は誰でも凸凹があります。大切なのは、「できる・できない」で比べることではなく、自分を理解したうえで他者と出会い、社会と関わっていくこと。
学ぶことと生きることは切り離せません。遊びも生活も失敗も、すべてが学びです。
学校は、ありのままの自分でいていいと感じられる場所であってほしい。そうした経験の積み重ねこそが、「生きる力」を育てるのだと思っています。
【大学時代、モロッコにて】
瀬戸さん:
開発教育と出会ったのは、今から25年ほど前、大学生の頃です。アジアやアフリカでのワークキャンプやスタディーツアーに参加し、現地での経験や感じたことを、いつか教育の中で生かしたいと思うようになりました。そのとき、「これだ」と感じたのが開発教育です。
【シンガポール日本人学校の同僚たちと】
教員となり、総合的な学習の時間の開始とともに実践を重ね、JICAの教師海外研修への参加を通して同じ志を持つ仲間と出会い、開発教育の魅力をさらに実感しました。その後も教室で実践を続け、海外とのつながりを求めてシンガポール日本人学校でも勤務しました。
帰国後、JICAの開発教育指導者研修で学び直す中で、子どもたちの主体性を引き出す参加型学習の価値を再認識しました。開発教育は、世界の人々の暮らしや文化を知り、互いを尊重しながら共に生きる力を育てる学びであり、「生きることそのものが学びになる」と実感しています。
JICAの開発教育は、知識を教える教育ではなく参加型学習という体験を通じて、子どもたちと一緒に「生き方と未来を共につくっていく教育」だと思っています。「自分らしく生きること」、「社会の中で、自分の役割を見つけること」、それは、まさに私が学校教育で実現したかったことでした。
瀬戸さん:
「子どもたち自身が学びを動かしていく授業をやりたい」――その思いで、IB教育の新設校に飛び込みました。子どもが問いを立て、仲間と学びをつくり、自分の興味から世界とつながっていく。教科書中心ではなく、「概念」から学びを広げていく授業の姿に、私がずっと探していた教育の形を見た気がしたからです。
ただ、実際にやってみると決して平坦ではありませんでした。理念に沿って授業を進めても、その真意を子どもたちに伝えきれず、悩むことも多かったです。それでも今は、「陰があるからこそ、陽が生まれる」と思えるようになりました。落ち込む時間も、次につながる大切な“充電期間”だったのだと感じています。
注1:IB(国際バカロレア)教育とは、主に①知識を深め、批判的に考える力を養う、②異なる文化や価値観を理解し、尊重する姿勢を持つ、③自ら課題を見つけ、解決に向けて行動する能力を育む、ことを目的とした教育。
瀬戸さん:
現在は、公立の小規模特認校で教壇に立っています。「寄り添うこと」と「主体性を育てること」、この両立は、本当に難しいです。
教師が正解を教えるのは簡単ですが、それでは、子どもの「考える力」を奪ってしまうし、「生きる力」を育むことにはつながりません。子どもたちが悩んだ先にある「もっと知りたい、やりたい」という気持ちから始まる学びこそが、子ども自身が前に進む力になると思っています。ですから授業では、子どもを信じて、考えることを委ね、あえて「子どもが少し困る」ことも大事にしています。子どもたちを見守る中で、子どもたちはその「困り」を乗り越えて多くのことを学ぶ。それを信じたいです。
瀬戸さん:
『しなやかに、たくましく生きること』ではないでしょうか。「しなやかさ」って、戻る力だと思っています。失敗したとき、うまくいかなかったときに、もう一度立ち上がれる力。
最近は、子どもを傷つけないように、守ろうとする場面が多いですよね。でも、全部大人が解決してしまうと、子どもは「自分で乗り越える経験」ができなくなってしまう。それって、結果的に弱くしてしまうこともあると思うんです。子どもたちには、いろいろな経験をさせて、自分の強みも弱さも受け入れ、仲間や社会と関わっていこうとする力を育てたいです。
瀬戸さん:
自分らしく生きるための力を、子どもたち一人ひとりに手渡していきたい。教育現場には課題も多いですが、問い続けることをやめず、子どもたちと一緒に考え続けていきたいですね。
「生きる力」を育てることは、本当に難しいと感じます。子ども一人ひとりで声のかけ方は違い、あのときの関わりが正解だったのかと悩むこともあります。
それでも、瀬戸さんが理念と現実の間で揺れながらも、子どもを中心に据え続ける一貫した姿勢に、強く心を打たれました。
うまくいかない経験や、立ち止まる時間と向き合いながら、なお子どもたちの学びを信じて歩み続ける。その姿勢こそが「生きる力」を育てる教育なのだと思います。
教育は、常に成功の連続ではありません。むしろ、立ち止まりや葛藤の中でこそ、次の実践への視点が生まれる。同じ教員として、私もまた、子どもたちのために迷いながらも挑戦し続けたい。そう思わせてくれるインタビューでした。