【広島県:出前講座 実施レポート】それぞれの未来に向け、これからも続いていく探究学習-広島叡智学園 高等学校3年生-



2025.02.07
生徒の発表に対してコメントする新庄推進員
安芸津港からフェリーに乗って辿りついたのは、瀬戸内に浮かぶ人口7,800人の大崎上島。
2019年、この大崎上島町に中高一貫校として開校したのが、今回訪問する広島県立広島叡智学園(以下広島叡智学園)です。木材を基調として作られた平屋の校舎には木の香りがただよい、天井の高い開放的な空間で300人の生徒たちが学んでいます。
今回、JICA広島県国際協力推進員の新庄芳菜恵さんが、同高等学校3年生の「総合的な探究の時間」に行われる、11月の中間発表と12月の最終発表に参加しました。広島叡智学園の「総合的な探究の時間」では、世界の様々な課題の中から、それぞれの生徒が自身の探究テーマを選び、国際協力・開発の視点からその解決に向けた手立てを考え、校内で発表を行っています。今回JICAへその発表への助言やコメントの依頼をいただき、新庄推進員が訪問しました。
今年度は、3年生のうち「ローカルな視点で国際協力を考える」というテーマを選択した7名が、1か月間探究を重ねてプレゼン資料を作成し、11月の中間発表で各自が順番に発表していきました。ここでの新庄推進員のコメントを受け、その後さらに探究活動を進め、12月には最終発表を行いました。
1人の生徒は「ヨルダンにおける難民受け入れの問題」について取り上げ、発表を行いました。中間発表後、難民問題を考えるときには、難民を取り巻く現状だけではなく、ヨルダンの失業率や財政危機、貧困、国民の心理状態など多角的な視点から問題を考えることが必要だと感じ、最終発表に向けて、調べを進めたそうです。ヨルダンの政策、NGOの活動、国連の動き、地域コミュニティでの活動など、多様な関係機関のアクションについて調べ、そこから自身が考えた解決策について発表しました。
難民問題の背景にある一つの課題として経済について焦点化し、「ヨルダンの特性・資源を生かした職を充実させることが必要になってくる」と考え、観光産業と結びつけて化粧品として注目されている死海の泥を活用することで、新たな職が生まれるのではないか、といったアイディアを発表しました。
発表を聞く新庄推進員は、ヨルダンへJICA海外協力隊として派遣された経験があります。当時の自身の体験や、国際協力の仕事に携わる中で得た知識をふまえて、具体的にコメントしていきました。新庄推進員の現地を知る視点で発せられたリアルなコメントを聞き、発表した生徒は、課題や解決方法がより立体的に見えてきたようでした。
「難民問題は、気候変動や他の国際問題にも関わることであり、難民を取り巻く課題を考えることは他の問題を解決することにもつながる。これから自分は何ができるのか、考えていきたい」。そう言った生徒の「探究」は、これで終わりではなく、これから先将来に向けて何を学び、何をしたいのか、自分自身の中で明確にしていく時間でもあったようです。
また、ある生徒は、自身の生まれたメキシコに暮らす子どもたちが違法な活動に参加しないため、また、教育の重要性を知ってもらうためにはどうすればよいか、発表を行いました。母国の問題をテーマに選び、当事者としての実体験をふまえて考えた課題解決策です。第三者としての俯瞰的な視点で考える探究活動だけではなく、当事者の立場からの考えも知り、学び合うことができる広島叡智学園の「探究の時間」。県や地域、国境をも超えて、多様な生徒が集うこの学校ならではの貴重な時間なのかもしれません。
発表後、ある生徒は探究を進めていく中で、現地の人の言葉を直接聞くことができず、だからこそ、その地の本当の状況が分からないため、調べるだけでは解消されないモヤモヤした気持ちが残ったと言います。
「でも、ここですっきりしなくてよかったと思います。これからの進路の中で、これから先も自分が選んだテーマに関わっていく中で、現地で生活する人の声を直接聞き、解決の策を見つけていきたいです」と笑顔で語ってくれました。
1か月という短い時間の中で、様々な視点から課題を掘り起こし、何度も見つめ直し、そして自身の考えを広げる作業を重ね続けた探究学習。この時間はきっと、知識を蓄えただけでなく、これからの自分の将来を照らす“道しるべ”のひとつになったのではないでしょうか。
これから先、国際協力に関わる場所で、生徒のみなさんと再会できたら嬉しいです。
生徒のみなさん、先生方、この度は貴重な時間をありがとうございました。
プレゼンの後の座談会。生徒からの質問に答えている様子
新庄推進員からのヨルダンのお土産をみんなで食べました
終了後、担当の先生と撮影した1枚
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