【実施報告:広島】 「シネマトーク~多文化で語る戦争と平和~」を開催しました!
2025.09.30
会場の様子
2025年9月10日(水)、東広島市文化会館くららサロンホールにて、JICA中国主催の「シネマトーク~多文化で語る戦争と平和~」を開催しました。イベント前半は、広島の原爆を生き抜いた被爆者と留学生の友情を描くドキュメンタリー映画を上映、後半はJICA 関係者を招いたクロストークセッションを通じて多様な視点で平和や共生に関する理解を深める機会として実施しました。当日は大雨で足元の悪い中、JICA留学生や市民のみなさまに参加いただき、平和の意味とその継承について多文化の視点から考える貴重な機会となりました。
上映作品は『MEIKO 被爆者である母のこと ~南方特別留学生との友情~』。当時19歳で被爆した栗原明子さんの証言と、娘さんが描いた絵を組み合わせた約40分の映像作品です。原爆投下直後の惨禍の中、明子さんが東南アジアからの特別留学生と出会い、人間同士のつながりを通して希望を見いだしていく姿が描かれています。戦争によって奪われた青春と、極限状況の中で生まれた友情。その対比が平和について考えさせられる作品として観客の心に深く刻まれました。
上映に先立ち、監督の出山知樹さんにオンラインにてご登壇いただき、開会の挨拶をいただきました。出山監督は、明子さんとの出会いから映画を制作した経緯を説明し、「広島には当時、日本人だけでなく、外国人留学生もいた。その存在を知ってほしい」と語りました。
映画を通じ、明子さんがどのような気持ちで戦火を生き抜いたか、また被爆しながらも救助に奔走した東南アジア出身の南方特別留学生の献身的な行動等、映画で伝えたい想いを共有し、「なぜ人間は仲良くできないのか」という明子さんの問いを引きながら、戦争を自分ごととして考える必要性を訴えました。
映画上映後のトークセッションでは、モデレーターの平野裕二さんの進行で、只野杏奈さん(元JICA海外協力隊員)、村瀬みゆさん(JICA中国元インターン生、現大学院生)、Peter Okelloさん(南スーダン出身のJICA留学生)の3名が登壇しました。それぞれの経験や立場から、平和や記憶の継承に関する考えが共有されました。
只野さんは、幼少期に訪れた広島平和記念資料館での体験を振り返り、「怖い」という印象が平和を問い続ける原点になったことを共有しました。また、JICA海外協力隊としてパラグアイに派遣され、日系移住地で平和展を開催した際、現地の高校生が自宅に戻って祖父母に戦争について尋ね、自身の家族に被爆者がいたことを知ったエピソードを紹介。こうした世代を超えた対話が生まれることで、現地の高校生自身がパラグアイで平和展を開催するに至り、現地で平和展を引き継ぐ動きにつながったと語りました。「異なる文化的背景を持つ人々と共に広島の歴史を語ること自体が、平和づくりの第一歩になる」と強調しました。
村瀬さんは、映画が原爆の悲惨さよりも、人間同士の前向きな交流に焦点を当てていた点が新鮮だったと話します。絶望的な状況でも助け合い、前を向く人間の生命力を感じ、平和を実現するには「人と人との建設的な対話が鍵を握る」と指摘しました。さらに、現在被爆者の平均年齢が86歳を超える現状を踏まえ、AIやVR等の技術を活用した継承の可能性にも言及され、「広島で起こったことを過去のこととして片づけず、明日にでも起こり得る現実として考えることが重要」と語りました。
Peterさんは、自国南スーダンの紛争に触れ「私の国では広島の原爆について知らない人が多い。しかし、この映画は戦争を止めるために対話がいかに重要かを示している。平和は国境を越えて共に作り上げるものだ」と訴えました。また、若者が平和を担う役割として「Peace Mission」構想を提案し、日本の若者が世界各国に赴き、現地の若者と共に平和について語り合うような活動に取り組むべきだと語りました。「平和は国境を越えて共に作り上げるもの」という力強いメッセージに、会場の参加者は深くうなずいていました。
パネルディスカッション後には、会場からも活発な声が上がりました。「外国人と一緒に広島の歴史を共有できたことが新鮮だった」「被爆者の高齢化が進む中、私たち世代が語り部になるべきだと実感した」といった感想に加え、「平和は遠い理念ではなく、まずは家族や友人と話すことから始めたい」という意見も。また、ある参加者は「SNSで今日の学びを発信する。それが自分なりの一歩」と語り、日常の行動につなげる姿が印象的でした。
最後に登壇者たちは、「身近な人と戦争について語ること」「異なる文化を持つ人々と出会い、語り合うこと」「若者が国境を越えて平和活動に取り組むこと」など、次世代へ平和をつなぐための具体的な行動の大切さを共有しました。
JICA中国は、平和構築分野で様々な取り組みを行っていますが、引き続き広島の経験を世界に共有/発信するとともに、これからの平和に向け一人ひとりが自分事として考えられるような機会を作っていきたいと思います。被爆80年という節目に、本イベントが、未来の平和を考える小さな一歩となることを願います。
出山監督のオンラインでのあいさつ
只野杏奈さん(パネリスト)
村瀬みゆさん(パネリスト)
Peter Okelloさん(パネリスト)
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