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【島根県: 帰国研修員のその後】「ルーツを力に」―日系アイデンティティの“醸成”を支える現場から

#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs
#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2025.10.08

祖父の故郷、島根での研修を行った高木さん

祖父が紡いでくれた故郷との繋がり

【日系社会研修事業とは】
日本の地方自治体、大学、公益法人、NGO、企業などの団体からの提案に基づき、JICAがその実施を委託する国民参加型の取り組みです。中南米地域の日系社会と日本との連携を担うキーパーソン(日系人に限らない)に対して技術協力を行うことで、日系社会の発展や移住先国の国づくりに貢献します。また、広く国民がこの事業に関わる機会を持ち、参加を促進することも目的としています。

氏名:高木 ラリッサ友加
研修コース名: 2024年度 日系アイデンティティの涵養を通じた日系団体の活性化
研修期間:2025年1月19日~2025年2月4日

ブラジル、サンパウロ州のグァタパラ市にてグァタパラ農事文化体育協会に所属している高木ラリッサ友加さん。日系の歴史や記憶を“語り直し”、次世代へつなぐ活動を続ける中で、「日本での学びを仕組みとして持ち帰りたい」という思いが芽生えた。
日系行事の顔ぶれが固定化し、若い世代の関わりが細る現実に直面していた彼女は「想いはあるのに仕組みに落ちない」課題を痛感していた。一方で、祖父から聞いた彼の生まれ故郷の島根の記憶や、訪れたことのない遠く離れた地の思い出のエピソードは彼女にとって行動の原点であり続けた。
物語(ルーツ)→行動(参加)→発信(共有)の循環を設計として学べば、コミュニティはもう一歩進める―そう確信し、JICAの日系社会研修事業のひとつ「日系アイデンティティの涵養を通じた日系団体の活性化」コースに応募。自身のルーツや伝統芸能、次世代育成を体系的に学び、現場で即実装できるアイデアとツールを持ち帰ることを目指した。
日本での学びは、彼女の視野と行動をどう変えたのか。帰国後の挑戦と、その先に描く未来を聞いた。

Q.) 研修への参加にあたり、個人的な目標や、研修を通して達成したいと考えていたことは何ですか。

A.) この研修に参加した私の目的は、祖父母から常に耳にしていたことを目にして、実際に体験することでした。日本、特に祖父が生まれ育った島根県に行くことができるということは、夢物語のような機会でした。松江城、出雲大社、足立美術館などを訪れ、文化体験ツアーに参加したことは決して忘れることのできない体験となりました。また、日本の文化や自然への敬意、そして社会の組織のあり方についてより深く理解することができ、将来農業分野の専門家を目指す私にとって大きな刺激となりました。この経験は新しい目標への扉を開き、日本とのより深いつながりを築く道筋を描くきっかけとなりました。

Q.) 研修を通して、専門知識やスキル以外に、ご自身の考え方や行動に変化はありましたか。

A.) 研修後、自分の考え方に大きな変化があったことに気づきました。日本での経験は、まるで私に何らかのスイッチを入れてくれたかのようでした。自分が築きたい未来について、より明確に考えられるようになったのです。日本の日常生活に見られる規律、組織力、敬意の念等は、これらの価値観を私自身の日常、そして仕事にもどう活かせるかを考えさせられました。一つ印象的なエピソードがあります。それは神社や博物館を訪れたときのことでした。そこでは、非常に強い精神的、歴史的なつながりを感じとることができ、自分のルーツや文化継承の大切さをさらに深く認識することができました。

「誇り」を推進力に変えるために

Q.) 研修への参加が、ご自身の所属する組織やコミュニティにどのような影響を与えていると感じますか。

A.) 研修への参加は、日本で得た知識や経験を共有できていることから、間接的にコミュニティに影響を与えられていると感じます。また、この経験を通じて、ブラジルと日本の文化交流や対話を促進し、人々に自分のルーツを大切にする重要性を伝えながら、新たな発展の形を模索したいという思いが一層強くなりました。学術的な面では、私の経験がブラジル国内外に存在する様々な文化の重要性について、学友の関心を喚起するのに役立っていると感じています。日本での経験を共有することは、他の学生たちが国際的な交流の機会を求める動機付けに繋がるかもしれません。したがって、この研修は単なる個人的な経験ではなく、私の属する学術コミュニティにも良い影響をもたらすものとなったと思います。

Q.) 今後、JICAの研修プログラムに期待することやご意見はありますか。また、同様の研修に参加する方に向けて、研修を最大限に活かすためのアドバイスがあればお願いします。

A.) 今回の研修は非常に充実したものでしたが、研修期間がもっと長ければさらに良いものになり得ると思いました。参加を考えている人には、規律、敬意、共同体意識といった人間的価値観について学ぶ意欲を持ち、オープンマインドで参加することを助言したいと思います。また、現地の言語や習慣について事前に準備しておくことも重要だと思います。そうすることで、この経験をより充実したものにすることができるのではないかと考えます。

文化体験で行った銭太鼓の様子

自身が所属する日系団体での一枚

帰国後のあたらしい歩み

Q.) 研修を通して、ご自身のルーツである日本とのつながりに対する意識にどのような変化がありましたか。今後、日本との関わりをどのように深めていきたいと考えていますか。

A.) この研修は、私の日本のルーツに対する意識を深く強化してくれました。祖父の故郷である島根県で時を過ごすことは私の家族の歴史の一部を取り戻すような感覚を覚えました。このつながりは私に誇りと、この絆を存続させ続けたいという思いをもたらしました。将来的には、学術交流や農業プロジェクト、研究を通じて、日本との関わりをさらに深めたいと思っています。これまで培ってきた経験を活かして、ブラジルと日本の文化・職業上のつながりを強化する架け橋として活動していきたいと考えています。

研修で得た学びをどう生かすか―その答えは、帰国後の彼女の行動にある。小さな実践を積み重ね、仲間を増やし、地域に変化を起こす。そのプロセスは決して平坦ではないが、彼女の挑戦は続く。未来を信じるその歩みが、やがて大きなうねりとなることを期待したい。

(記:島根県JICAデスク 小波津 チアゴ 明)

研修終了時には「今後も島根との繋がりを大切にしたい」と語りました

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