【島根県: 実施報告】日系研修員・大石 チアゴ エンリケ 誠さんが島根での研修を修了しました
2025.11.07
研修修了式の様子
2025年10月16日(木)、島根県内にて実施されていた日系社会研修プログラムに参加していたブラジル・サンパウロ出身の日系2世、大石 チアゴ エンリケ 誠(おおいし ちあご えんりけ まこと)さんの研修修了式を島根県庁で開催しました。研修は7月中旬から約3か月に及び、県内の土木・建築・環境事業等各種工事の見学等を通じて、日本の建設現場の実務・技術・工事管理を集中的に学びました。
修了式には受け入れ先企業であるカナツ技建工業株式会社から金津 式彦代表取締役社長、田中 悟技術部長、福井 晴子総務統括マネージャーの3名の方にもご出席いただき、他にも島根県庁関係者、島根県海外移住家族会会長、JICA職員らが出席しました。式で大石さんは「日本での研修を通じて学んだ文化と技術をブラジル社会に還元し、企業との連携やICT活用を進めながら、地域イベントやワークショップを通じて若い世代の育成と世代間交流を促進したい」と語りました。
7月28日から10月10日にかけ、カナツ技建工業株式会社にて受け入れていただき、複数の現場で研修が行われました。これらの現場で、大石さんはICT(情報通信技術)を活用した施工管理、3D設計、測量、品質チェック、そしてAIによる安全管理など最先端の実務に触れました。特に印象に残ったのは、現場の“段取り”と“全員で取り組む安全文化”だったといいます。
「ブラジルでは安全監督が別に置かれることが多いですが、日本では作業員自身が日常的に安全確認を行います。指差し呼称やラジオ体操、朝礼での報告・連絡・相談の徹底は、事故ゼロを目指す文化につながっていると感じました」と大石さんは述べ、実務の詳細についても、彼は具体的な気づきを挙げました:ICT導入により紙ベースの煩雑な作業が解消され、設計→現場のフィードバックが迅速になったこと、デジタル測量や3Dモデルの設計図が品質チェックに寄与している点、下水処理場では微生物管理や設備の維持管理ルーティンが稼働寿命に直結することなどを例に挙げました。
現場で目にした技術のうち、大石さんが特に注目したのはICTを活用した遠隔現場管理とAIによる労務・安全モニタリングです。宍道湖東部浄化センターで見た、AIタブレットによる熱中症リスクの監視や、コンクリート不良を色で識別する手法は「ブラジルの現場でも有効に機能するはずだ」と語りました。ブラジル国内のプロジェクト管理に携わる立場から、人手不足と安全確保の両立にICTが寄与する実感を得たと言います。
また、古民家の木造組立や田んぼの乾燥調製施設の見学からは、日本の“効率と伝統技術の融合”を学びました。特に木造の“はめ込み”技術(釘を多用しない接合方法)は、材料コストと工期の縮減を両立させる工夫としてとても学びに繋がったと語りました。
研修初日の本社前にて
温かいチームワークで迎え入れて頂きました
カナツ技建工業株式会社の金津式彦社長からは、以下のコメントをいただきました。
「大石さんは常に前向きで、現場での観察力と質問の質が高く、我々にも良い刺激を与えてくれました。ICTや安全面での学びをブラジルに持ち帰り、現地で実装しようとする姿勢は素晴らしいと思います。受け入れ側の我々も教える立場となったことで”自分で勉強しなければきちんと伝えられない”という意識が働き、とても勉強になりました。これを契機に、お互いに成長できればと思います。また、(大石さんには)私どもに国際的な視点や異文化理解の重要性を再認識する機会を与えてくださったことに感謝したいと思います。」
現場での研修以外でも、大石さんは島根の地域文化に深く触れました。出雲そばや抹茶体験、祭り、鼕行列を介しての地域住民との交流などを通じ、地域社会の価値観を体感。自身のルーツでもある福岡で親戚を訪ねた経験は、日系人としてのルーツ理解を深める契機となりました。「先祖のふるさとを知ることで、自分のルーツが価値観に影響していることを再認識した」と語りました。
最後に大石さんはブラジルに帰国してから達成したい三つの目標を掲げました。
1. 人として成長する
日本文化について学んだことをイベントで生かし、ブラジルの人に文化体験を届ける。
この知識を共有し、日常生活や人間関係に日本の価値を取り入れる。
2. ブラジルの会社と研修で学んだことを繋げる
テクニカルなワークショップを開き、工事の方法を紹介する。
ICT技術を活用し、建設に応用する。
学んだことを SNS や地域イベントで発信する。
3. リーダーとして活動し、若い世代を支援する
オザスコ日伯文化体育協会(ACENBO)と協力してワークショップを開催する。
世代間のつながりを強化し、交流を深める。
ブラジルの島根県人会 70 周年イベントの準備を支援する。
大石さんが学んだのは、技術だけではありません。
整理整頓や安全管理、協力、そして感謝の気持ち。
それは日本社会の中に流れる「人を思う文化」そのものでした。
JICAは今後も本研修をはじめとする取り組みを通じて、地域間のネットワークを強化し、互いに学び合いながら成長できる機会を創出してまいります。こうした国際協力の場を通じて、多文化共生社会の実現に向けた取り組みを今後も推進してまいります。
(記:島根県JICAデスク 小波津 チアゴ 明)
水産環境整備工事など、中々目にすることのない技術も学べました
松江市内の秋の風物詩、鼕行列にも参加しました
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