【広島県:出前講座 実施レポート】南米パラグアイで改めて気づいた、日本文化の魅力と平和の尊さ-広島県立井口高等学校 3年生-
2025.12.04
クイズを出しながら話を進める只野さん
2025年10月23日、広島県立井口高等学校の広い体育館に集合した高校3年生310名のみなさん。今日は、南米パラグアイの日系人コミュニティで、青少年活動の隊員として活動された只野杏奈さんからJICA海外協力隊の体験談をお聞きする日です。
広島県立井口高等学校は、国際協力出前講座やJICA中国を訪問するプログラム「国際理解教室」などのJICA開発教育支援事業プログラムを、20年以上前から活用されています。毎年この時期にご依頼いただく国際協力出前講座では、「平和」や「人権」をテーマとしたロングホームルームの時間に、JICA海外協力隊経験者が開発途上国での体験を話しています。
当日の体験談は、国際協力やJICA海外協力隊についての話、そして只野さんが協力隊に参加するまでの進路の話から始まりました。社会人経験を経て協力隊に参加した只野さんは、大学時代にスペイン語を専攻していたこともあり、スペイン語圏であるパラグアイへの派遣を希望しました。念願かなって、2023年から2025年までの2年間、パラグアイ南東部に位置するピラポという町で活動しました。
“南米のおへそ”と言われ、南米大陸の真ん中に位置するパラグアイ。只野さんはクイズを交えながらパラグアイの紹介をしていきます。現地の方言であるグアラニー語を初めて聞く生徒のみなさんは、聞いたことのない言葉に驚いた様子。パラグアイの食べ物の写真や動画を紹介したときは、会場から「美味しそう」とい声が聞こえてきました。
また、只野さんが見せた別の写真には、日本で見かける赤い鳥居が映っていました。なぜ赤い鳥居がパラグアイにあるのでしょう、という問いかけから、第二次世界大戦後の国内の食糧事情や就職が困難だったこと、そして海外移住計画の話に移っていきます。
実は只野さんが活動していたピラポ近くの都市ラパスには、広島県から集団で移住した方とその家族が現在も多く生活されています。また東日本大震災が起こったときには、大豆の生産が主要産業であるパラグアイから、現地の方が大豆を加工するために準備されていた資金と大豆が寄附されました。生徒はこれらのエピソードから、日本、そして広島とパラグアイとの深いつながりを知りました。
只野さんが活動していたピラポの人口は約9,500人。そのうち約1,100人が日系人であり、大きな日系人コミュニティがあります。只野さんが撮影した動画では、活動先である日本語幼稚園や日本語学校で行われる、七夕、もちつき、正月、和太鼓、さんさ踊り等の様子が流されました。現在の日本で消えつつある伝統行事が、遠い南米の地で大切に受け継がれている様子に、生徒は驚いた様子でした。
はじめの3か月は環境に慣れることに徹したという只野さん。現地の先生たちと一緒に活動する中で、様々な課題が見えてきたそうです。中でも印象的だったのは、日系の人たちの「アイデンティティのゆらぎ」だと言います。パラグアイにいたら日本人だと言われ、日本に来るとパラグアイ人だと言われる自分はいったい何人なのか。そこで日本から移住した人々にインタビューを行い、移住の歴史や彼らの想いについて、次世代に伝えていける形で記録を残す活動を行ったそうです。
もうひとつ只野さんが力を入れていたのが、平和教育。パラグアイでも「『広島』といえば原爆が落とされた場所」だと知られていますが、改めて平和の大切さや戦争の恐ろしさを現地の人々と一緒に考えたいと思い、パラグアイの4都市で平和展を開催しました。4か所で1,080名の来場者があったそうです。このとき大切にしたのは、現地の人をまきこんで行うこと。2年間しかいない自分が日本に帰った後も平和展が続いていくように、パラグアイの人と一緒に企画、開催しました。その結果、現地のある高校生が「被ばく者でない私でも、恐ろしさを伝えることができるんだ」と共感し、只野さんが帰国した後に自主的に平和展を開催したそうです。
そんな只野さんが考えるボランティアの役割は「タネ蒔き」だと言います。小さなタネを蒔くと、そのタネは地元の人によって育てられ、次の世代に引き継がれる。「広島は世界で知られている場所だから、皆さんも海外に行くと広島代表になる。ぜひこれから広島代表として、小さな平和のタネを蒔いていってほしい」と生徒たちに伝えました。
パラグアイで活動したからこそ、改めて日本文化のすばらしさに気付いたという只野さん。自分が外国人として生きた経験から、マイノリティの立場に置かれた人々の気持ちも理解できるようになったと言います。
一度、海外に出たからこそ気付けたことがたくさんある。そう強く感じている只野さんは「高校3年生の今、進路選択で悩むこともあると思うけれど、失敗を恐れずに少しでも心が動いた方向に進んで欲しい」というメッセージで講座を締めくくりました。
只野さんの体験談を聞いた井口高校3年生の皆さんが、今後それぞれの得意分野でどのようなタネを蒔いてくれるのか、今からとても楽しみです。
話を聞く生徒
講座で紹介したスライド
講座終了後に学校の前で
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