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教えてもらったこと、大切にしていること | 「人」明日へのストーリー

広島県国際協力推進員
上田 愛

はじめての海外

大学4年の時、「お金がないから卒業旅行は近くて物価の安い国へ行きたい。」そんな単純な理由で訪れたのが、タイとカンボジアだった。開発途上国と呼ばれている国であることすら意識していなかった。いろんな場所で、裸の子ども、おなかが膨らんだ子ども、赤ちゃんをおんぶした5歳くらいの子どもに手をだされて何度も言われた言葉「1ダラー!1ダラー!」。初めての経験で、どうしたら良いのかわからなかった。1ドルあげたらこの子は何か食べれるの?何かあげるべき?どうしよう…。衝撃的な出来事だった。
アフリカやアジアの貧困を取り上げたテレビ番組で見たあの光景って現実だったんだ…。そんな当たり前のことに気づき、あの時どうすればよかったのか?自分に何かできることはあるのか?と考え始めたのがこの時。しかし考えてはみたものの、特技も資格もお金もない私が、今すぐにあの子どもたちにできることなんて何もないと思った。だからせめて日常生活でできること、「その人がしてもらって嬉しいと思うことをしよう」「世界のことをもっと知ろう」というこれまた当たり前のことを心がけるようになった。

オーストラリアでは乗馬ファームでツアーガイドをしたことも

大学を卒業して就職、でも…

大学卒業後は民間企業に就職。世界のことをもっと知りたくて、休みの度に海外へ。そのうち「どうしても海外で生活してみたい!」という想いが抑えられず、会社を辞めてワーキングホリデービザにてオーストラリアへ渡航し、約1年半滞在した。英語は苦手、知り合いもいない初の長期海外生活。いろんな国のたくさんの人たちが助けてくれた。優しくしてくれた。いつも誰かが支えてくれた。「なんで他人の私にこんなに優しくしてくれるの?」思わず聞いてしまった時のこと。その人の言葉は今も忘れない。「私もこうやってたくさんの人に助けてもらったから。」私もたくさん助けてもらった恩返しがしたい、そして今がそのタイミングだと思い、帰国後は「青年海外協力隊」に参加した。

夕方には子どもたちが水くみ

青年海外協力隊として~ブルキナファソでのものづくり活動

私が派遣されたのは西アフリカにあるブルキナファソという国。ブルキナファソの人は優しく、働き者が多く、全体的にとっても素朴な印象の国。乾季の暑さは大変厳しく決して生活しやすい環境ではなかったが、またこの国で暮らしたいと思わせる不思議な魅力がある国だ。世界で最も貧しい国の一つと言われているが、人々はいつも笑顔でとても陽気で、「幸せ」って何なのかを考えさせられた。

私はブルキナファソ第2の都市、ボボ・デュラッソにある障がい者センターで自立支援活動をさせてもらった。このセンターでは、足に障がいをもつ人(主に女性)に無料で職業訓練を行っており、ミシンや刺繍などの裁縫技術や織物の技術などを学ぶことができる。私は、その訓練を修了した女性とともに、技術を自立につなげる活動として、現地の人が使用している布を使ったものづくり活動を行った。

「少しでも役に立ちたい!」そんな想いで始めた活動だったが、順調にはいかなかった。言葉の壁、価値観の違い、はさみの切れ味はどれも悪く、ミシンはすぐに壊れるが修理代が払えない。雨季には道路が水に埋まり、車いすで通う女性たちはセンターにたどり着くことさえできなかった。問題をあげればキリがないので、できることからやっていく。品質を良くするための型紙づくりや、作業手順の見直し、作業しやすい環境づくりなどを行った。
ケンカを重ねて仲良くなるにつれ、わかってきた彼女たちの本音。「収入はほしいけど家でもやらなければいけないことがある。」「ミシンはないけど家でなら作業できるのに…」「雨季はセンターに来れないから作業できなくて困る」などなど。また販路開拓の際には、首都の土産物屋のオーナーに「他とは違うユニークなものでないと、売れない」と販売を断られた。そこで、ブルキナファソの女性の顔をモチーフにしたポーチを考案し、皆で試行錯誤を重ねてなんとか商品化した。これなら、顔部分の刺繍は家でも作業できるので、毎日センターに来れなくても作れる。このオリジナル商品がきっかけとなり、首都の土産物屋での販売も開始。すると、生産が追いつかないほどの注文が入る人気商品となり、女性たちの収入も少しずつ増えていった。自信をつけた女性たちのモチベーションも向上し、お互いに品質チェックをし合うようにまでなった。

「障がい者が作ったから買う」のではなく、「良い商品だから、かわいいから買う」という継続性のある流れを自分たちでつくりだした女性たち。私が帰国して5年たった今でも、彼女たちの作った商品が首都の土産物屋で人気商品として販売されていると聞いた時は、涙が出るほど嬉しかった。

色鮮やかな布「パーニュ」は腰に巻いてスカートにも

活動はできることから少しずつスタート

1番の人気商品、ブルキナファソの女性をモチーフにしたポーチ

作業中の女性たちの集中力は驚くほど高く、真剣!

相手のことを思いやる、大切にする、してもらって嬉しいことをする

「たくさんの人に助けてもらった恩返しがしたい」と思って参加した青年海外協力隊。でも実際には、現地の人やセンターの女性たちはもちろんのこと、青年海外協力隊の仲間やJICA関係者、日本の家族や友人など多くの人に支えてもらう毎日だった。結局もらってばっかりの私…。 
でも今は、何もない私にもできることがあると思っている。「相手のことを思いやる、大切にする、してもらって嬉しいことをする」全部私が周りの人たちにしてもらっていること。
そして私にもできること。小さな心がけ、小さな行動だけど、世界を変える第一歩になると信じている。

障がい者センターの女性たちと