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今月のオススメ図書

今月は、所蔵資料から2冊をご紹介します。

『戦争語彙集』

オスタップ・スリヴィンスキー 作  ロバート キャンベル 訳著

 「戦争は、当事者の人生を激しく様変わりさせるのみならず、新たな説明が必要なほど言葉の意味をも変えてしまうのです」―。
 2022年2月に始まった、ロシアによるウクライナへの全面侵攻。
 本書は、ウクライナ西部リヴィウ在住の詩人、オスタップ・スリヴィンスキーさんが、戦火から逃れてきた人々を支援するかたわら、彼らの「ありのままの声」を聴き取り記録した「文芸ドキュメント」。日本語版には、翻訳を手がけた日本文学研究者、ロバート キャンベルさんが、2023年6月に現地を訪れた際の手記も収められています。
 「おばあちゃん」「ココア」「猫」「ナンバープレート」「ゴミ」「林檎」……「語彙」としてウクライナ語のアルファベット順に並ぶのは、それぞれの証言の中で触れられるモノやコト。「普通」に暮らしていた「普通」の人々の日常のありふれた言葉は、戦争の経験を境に何を意味するようになってしまったのでしょうか。そして言葉の持つ力とは。
 一人ひとりの独白が、戦争の現実を伝えます。

『わたしのくつしたはどこ? ゆめみるアデラと目のおはなし』

フロレンシア・エレラ 文  ベルナルディータ・オヘダ 絵  あみのまきこ 訳

 主人公のアデラは、研究所で働くダックスフント。おいしくて栄養満点のドッグフードを開発する仕事をしています。ところが最近、まわりで不思議なことばかり起きて―。
 「わたしの あかいくつしたは どこ?」
 ある朝支度をしていると、引き出しにあるはずの靴下がなくなっていました。べつの日には、職場までの道をまちがえてしまいます。いつもの曲がり角にある大きな木やパン屋さんが「なかった」のです。友人たちとの集まりでは、その場にいるはずの大好きな親友、キリンのバレンティーナの姿が見当たりません。一体なぜ?
 実はいろいろなものが「なくなった」のではなく、アデラの目が見えていないのでした。「網膜色素変性症」という、視野が徐々に狭まり視力が低下していく病気が原因でした。
 作者の体験をもとに書かれた本書は、お話としかけで視覚障害についての理解を助けるチリの絵本。変化と向き合い受け入れる、アデラの明るく前向きな姿勢に勇気づけられる一冊です。