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- 第39報 ザンビアから教わったこと
旭川市立永山南小学校 平山 将典先生
ザンビアでの経験と価値観の変容
ザンビアの地に降り立ち、毎日が驚きの連続でした。道端に散乱する膨大な廃棄物、半年以上雨が降らない現実、そして数週間前まで猛威を振るったという、サッカースタジアムまでもが臨時病棟と化したコレラの流行。断片的な知識として持っていたアフリカのイメージと目の前の光景を重ね合わせ、当初はそこで生きることの大変さを痛感いたしました。
しかしながら、現地の学生や教職員と交流を重ねる中で、私の抱いた感情は大きく変化していきました。子どもたちは目を輝かせて将来の夢を語り、自尊感情が高い。貧困地域でも献身的に働く教員たちは、児童生徒を我が子のように慈しみ、その表情には教育に携わる喜びが溢れていました。また、現地で活動する協力隊員の方々も、自らの支援がザンビアの未来に繋がることに意義を見出し、この地ならではの生活を謳歌していました。なかには一度帰国した後、再びザンビアに戻り、現在は医療施設で勤務している元協力隊員の方もおられます。私自身も、こうした人々の力強い生命力、価値観に魅了され、いつしかこの国に対して深い愛着を抱くようになりました。
翻って日本社会に目を向けると、物質的な豊かさは享受しているものの、日々の生活に充足感を見出せているでしょうか。仕事や家事、育児といった目の前のタスクに日々追われ、本来の生活を楽しむ余裕を失っている人々が少なくないように見受けられます。私自身もかつては毎日生きるのが辛く、まるで人生の綱渡りをしているかのような、心許ない感覚に陥ることがありました。一方、ザンビアでは、道端で井戸端会議に興じる女性たちが、時間を忘れて対話そのものを愉しんでいます。廃棄物を収集し生計を立てている若者たちは、「自分自身のことが好きだ」と晴れやかに語る姿にも出会いました。また、コミュニティースクールの校長先生とギフトショップを訪れた際には、私の荷物を大切に預かってくださる(スリに遭わないように)など、その細やかな配慮と懐の深さに感銘を受けました。 これらの体験を通じ、私はザンビアの人々が持つ「精神的な豊かさ」や、自己愛・家族愛の深さを学びました。幸福とは、環境のみに左右されるものではなく、自らの捉え方や心の在り方次第で決まるものであると強く実感させられました。
「WASHプロジェクト」 授業実践
視察の一環として、青少年に衛生教育を行う「WASHプロジェクト(※)」の団体「ジコランガ(※)」を訪問しました。小学2年生の児童にコレラ予防策を尋ねると、誰もが即座に「煮沸消毒(boiled water)」と答え、その仕組みを正しく理解していることに驚かされました。 一方で、深刻な課題も浮き彫りになりました。職員の話によれば、衛生的なトイレを設置しても、上下水道の故障時に修理できる人材がいないため、使用不能に陥るケースが多々あるとのことです。また、絶対的なトイレの個数不足等が原因で、女子生徒が通学を断念せざるを得ないという構造的な問題も伺いました。私たちが普段当たり前に使用するトイレですが、国によっては充分に環境整備されていない現実を目の当たりにしました。
ザンビアで得た膨大な経験を、どのように日本の児童へ還元すべきか。その指針となったのは、出発前に行ったクラスアンケートの結果でした。当時、給食前の手洗いやハンカチの携行を習慣化できている児童は半数程度に留まっていました。そこで私は、ジコランガで行っている衛生面に関する生活習慣を元に、児童に「手洗いの重要性」を伝える授業を構成しました。授業では、まず日本とザンビア両国の類似点を探すゲーム等を通じてザンビアへの親近感を持ってもらえるように工夫しました。その後、独自の紙芝居教材を用いて衛生観念を学び、外部講師を招いて「世界に一つだけの石けん」を製作。この石けんを「ジコランガ」へ届けるという国際協力活動へと繋げました。さらに、石けん製作に留まらず、簡易手洗い場(ティッピータップ)を試しに作ったり、衛生習慣を普及させるための塗り絵を考案したりするなど、児童自らが主体的に考える場を設けました。 本実践にあたっては、前任校である中富良野小学校の児童と教職員の皆様をはじめ、手作り石鹸サロンoliveの舟崎氏、草の根WASHプロジェクトのジコランガの皆さん、ご協力ありがとうございました。また、北海道大学の山内教授、佐井先生、ニャンベ教授より多大なるご助言とご支援を賜りました。この場を借りて深く感謝申し上げます。
※WASHプロジェクトとは、JICA草の根技術協力事業(草の根協力支援型)に2021年度に採択された案件名「ザンビア国子どもと若者の参加型アクションリサーチによる地域に根差したWASH(水、トイレ、衛生)モデルの共創」のこと。
※ジコランガとは、ザンビアの首都周辺都市部の子どもや若者で構成され、水・衛生に関連する健康とウェルビーイング向上を目指す団体。
未来への展望
本研修を通じ、同行された諸先生方の卓越した語学力、コミュニケーション能力、そして周囲を巻き込む行動力に圧倒されました。翻って自分自身を省みた際、固有のスキルや貢献できることの少なさに、深く自問自答する日々が続きました。 今春、大学院で開発教育の探求を始める方、日本人学校で奮闘される方、溢れるバイタリティで学び続ける若手の先生方。志を高く持つ仲間に刺激を受け、私も英語の学習や将来設計の再構築など、次なるステップへ向けた準備を始めております。
新しい命
ザンビアからの帰国より半年後、私のもとに新しい命が誕生しました。この子が数十年後、安心して日々の生活を享受できる社会を維持し、より良い世界を構築するための一助となれるよう、微力ながら私にできることを模索し続け、行動に移していきます。 一度きりの人生において、新たな一歩を踏み出そうとしている現在の自分自身に、大きな期待と高揚感を感じております。
【付記】「日本にもゴミ山が存在?」
廃棄物処理に関して、私はこれまで日本が世界最高水準にあると認識しておりました。焼却処理によって容積を削減する手法は、最良な処理方法であると考えていたからです。ザンビアでは、わずか数メートル歩くごとに大量のゴミに遭遇し、最終処分場では不十分な分別による自然発火と、それに伴う有害な煙の発生が常態化していました。また、過酷な環境下でゴミを収集し生計を立てる「ウェストピッカー」の方々の姿も、強く印象に残っています。帰国直後の朝、日本の整然とした街並みや、ルール通りに排出されたゴミ袋を見て、改めて自国の清潔さを実感いたしました。しかし同時に、この処理システムが真に最善であるのかという疑念も生じました。 調査によれば、日本のゴミ焼却率は世界でも突出しています。ある市町村のごみ処理施設の担当者の話によれば、焼却によってゴミは元の重量の約10分の1の「灰」となるそうです。しかしこの灰も決して無害ではなく、最終的には山間部へ埋め立てられます。つまり、姿を変えているだけで、本質的には環境負荷を蓄積し続けているのです。 ドイツや韓国のようにコンポスト(堆肥化)を導入し、埋め立て量を抑制している諸外国の事例に触れ、先進国側も従来の処理方法を再考すべき時期に来ていると痛感しました。豊かな自然を誇るここ北海道においても、その裏側では焼却灰や不燃ゴミが山々に埋め立てられているという現実に、私たちはどう向き合うべきでしょうか。数十年、数百年先を見据えた持続可能な方策が、今こそ求められています。
◆関連リンク
付記出典
焼却大国ニッポン ~ 日本のリサイクル率はなぜこんなに低いのか?