北海道の「道の駅」を応用し、南米パラグアイに「道の駅」がオープンしました!
2025.02.18
現在、日本が直面する大きな課題である地方創生に向け、地域活性化の原動力になっている「道の駅」。
中でも、北海道は全国最多の129の「道の駅」があり、広大な大地と豊かな自然の恵みを活かし、地域資源を活用した開発(農林水産物等の特産品や景観を活かした観光スポット)の拠点として特徴や規模が異なる多様な道の駅が開設されており、人気を博しています。
JICA北海道センター(札幌)は、「道の駅」に特化した研修を実施する唯一の国内拠点で、広大な平野が広がる地形や一次産業が農産物である点等、北海道とパラグアイとの類似点は多いと言えます。パラグアイ政府観光庁は、観光開発のツールとして「道の駅」に着目し、「一村一品(OVOP)運動」や地域産業振興と組み合わせた道の駅の国内展開を通じて、経済社会開発に大きく貢献することを目指しており、2023年度から当センターにて、パラグアイ国別研修「道の駅展開による地域開発」を実施しています。
これまで、観光庁職員、農牧省職員、市長、自治体職員等の16名が北海道での研修に参加しました。
2023年度の研修員。道南地方の道の駅視察の振返りのため、函館を訪問した様子。
2024年度の研修員。道の駅あびらD51ステーションに併設する鉄道資料館で町の歴史遺産についても知見を深めた。
パラグアイでは、2019年にミシオネス県庁職員がJICA九州センターの課題別研修「地域の特色を活かした産業振興(B)」に参加したことを契機として、「地域外からの活力を呼び込む道の駅」に強い関心を寄せ、県庁の独自予算で国道沿いに2023年2月に国内初の道の駅を開設しています。
パラグアイでの道の駅は、既存施設に道の駅の機能を併設する計画ですが、道の駅を通じた地域経済を支える産業の活性化や集客の観点から、「地域住民の行政への依存」および「行政の過剰投資」に留意しながら、施設整備・運営管理を適切に行っていくことが重要なポイントとなります。
同国では、地域の付加価値向上や持続的な運営管理に関する知見が十分でない事から、中南米地域の複数ヶ国を対象とした課題別研修「道の駅による道路沿線地域開発」を実施するJICA北海道センター(札幌)に協力依頼が届き、上述した同国のみを対象とした国別研修が実施するに至りました。
JICAパラグアイ事務所と観光庁は、戦略的に3つの地域に道の駅を展開する事を決め、札幌の研修関係者も2023年2月には現地調査に行き、研修準備を進めました。
道の駅候補地のイグアスの観光センター視察
建設中のホエナウ市の道の駅の調査
研修では、持続可能な運営に繋がるよう、ソフト面の強化に重点をおき、主に以下について講義や視察、参加者(研修員)間のディスカッション等を通じて日本の知見を得て、帰国後の取組みを計画するプログラムとしています。
1.北海道の地域産業振興や観光開発等の実践方法
2.道の駅の制度や運営手法、地域との連携方法
3.安定的・継続的な店舗運営や公益貢献、施設整備等に関連する経費負担
4.活用可能な地域資源や地域のブランディング
道の駅あびらの農産物直売所を視察する様子
模型を使用して、設計や道路からの見え方等について学ぶ様子
北海道の事例に基づき、管理・運営主体について講義を受ける様子
帰国後の行動計画について研修員間でディスカッションする様子
日本での研修(2023年7月19日~8月9日)が終了した後、イグアス市では研修に参加した日系人のマウロ市長や観光庁の職員アスンさん、ジョナタンさんを中心に、道の駅候補地の観光センターで何度か市場を開催し、商品の売行き調査を踏まえた商品選定や加工、運営者の研修などを行い、道の駅開設に向けて準備を進めました。
そして、帰国から約1年後の2024年7月4日にイグアス市に「道の駅イグアス」が正式にオープンした!と帰国研修員のアスンさんから報告が届きました。
この地域は、日系人が戦後初期から入植を開始した土地でもあり、その開拓の歴史は北海道とも共通するものがあります。
マウロ市長はパラグアイで2人目となる日系人の市長で、現在もイグアス市には多くの日系人が住んでおり、北海道からの移民第一号がはじめてパラグアイの地を踏んでから85年が経過しています。
日系人が多い影響か、看板には、研修で創作したイグアス市のキャッチフレーズ「イグアス、味と自然のパラダイス」が日本語で併記されています。
オープニングセレモニーで挨拶する帰国研修員のマウロ市長
立食パーティーでオープニングを祝う様子
日本の研修で創作したイグアス市のキャッチフレーズが日本語で記載されている看板
綺麗に陳列された野菜やチーズ
地域で制作された手工芸品の販売コーナー
続いて、道の駅がオープンしたと報告が届いたのはホエナウ市です。
ホエナウ市のエンリケ市長も2023年度の日本の研修に参加した帰国研修員です。
2024年11月26日にオープニングセレモニーが盛大に開催されました。
ホエナウ市は、エンリケ市長が農業エンジニアとして海外で学んだ経験を活かし、小規模農家の支援を目的として 生産者自身が市役所と連携して運営・管理する日本の道の駅の農産物直売所と類似のシステムを4年間掛けて構築しており、道の駅を設置する際に重要となる地域の合意形成を既に終えている状況でした。
こちらの道の駅開設においても、観光庁の職員アスンさんやジョナタンさんが生産者や運営者の研修などを支援しました。
道の駅ホエナウの外観
オープニングセレモニーのテープカット(右端から3人目の黒いシャツを着用している方がエンリケ市長)
盛大なオープニングセレモニー
道の駅内にある観光情報コーナー(左から帰国研修員の観光庁職員スアスンさん、ジョナタンさん)
地域で制作された手工芸品の販売コーナー
上記の通り、パラグアイでは、既存の道の駅を含め、現在3つの道の駅が開設されています。
研修開始時に戦略的に道の駅を設置する地域のキーパーソンとして、イグアス市長、ホエナウ市長、観光庁職員等が研修に参加し、当初の予定地であったイグアス市の観光情報センター、ホエナウ市の小規模農家の中央販売所の2店舗目として建設中の施設に道の駅が開設されました。
成功の要因は、本研修を要請した観光庁とパラグアイ事務所が戦略的に、参加する研修員を選定した事にあると考えています。
また、研修開始前に研修担当、関係者が現地を視察し、道路状況の把握や観光庁やイグアス市、ホエナウ市等の候補地を視察し、面談や打合せを行っていたことも現地の課題把握や研修員との関係構築に大いに有益でした。
今年度は本研修が3年目となります。
設置された2つの道の駅の継続的な運営と、これらをパイロットとしてパラグアイ国内に道の駅が展開され、農村部の所得向上に繋がるよう、JICA北海道は引続き地域開発分野の支援を続けていきます。
<関連リンク>
研修員受入事業
scroll