旭川ビースターズに青年海外協力隊・椎葉隊員の教え子が入団!~ベリーズで活動中の椎葉隊員にインタビュー~
2025.05.21
椎葉隊員とデルバート選手
北海道ベースボールリーグ(HBL)の旭川ビースターズには、多くの外国人選手が在籍しています。今年5月に入団したデルバート選手もその1人。中米に位置する国ベリーズから「日本で野球をしたい」という熱い想いを胸に来日しました。
彼はなぜ「日本で野球をする」という夢を叶えることができたのでしょうか。その背景には1人の青年海外協力隊員の熱意と、その意志を支持する人たち、そしてベリーズの多くの人たちの協力がありました。
2025年5月現在もベリーズで青年海外協力隊として野球指導をしている椎葉一勲隊員に、デルバート選手との出会いや、デルバート選手の母国であるベリーズでの生活と協力隊活動、デルバート選手にかける思いを伺いました。
ベリーズで野球をする若者たち
ロジャーススタジアムの空き地での練習
―デルバート選手とは、どのように出会ったのでしょうか。また、そのときの印象を教えてください。
椎葉隊員:ベリーズに派遣されてから1か月間、JICA海外協力隊員は現地語学訓練があるのですが、その訓練を終了した翌日、つまり協力隊活動の初日に、カウンターパート(現地のパートナースタッフ)とベリーズの女子ソフトボール全国大会を見に行ったんです。そこで「日本でプロ野球選手になりたくて毎日練習をしている」という若者と出会いました。それがデルバートです。「日本で野球がしたい」「日本のプレーヤーたちは礼儀正しい。日本のスポーツマンシップが好きだ。だから日本でプレーしたい」と、野球ができる場所を求めているのがすごく伝わってきました。 その翌日、彼が練習しているというロジャーススタジアムに行ってみると、そこには10人ほどの青年が集まって野球をしていました。ベリーズで野球をしている人はいないと思っていたので驚きました。そして、その中でもデルバートのプレイはひと際目立っていました。
―ベリーズでは、野球はあまりメジャーではないんですね。
椎葉隊員:ベリーズにはソフトボールのスタジアムはいくつかありますが、野球文化が根付いていないため、野球チームもなければ球場もないんです。それで、彼らはソフトボール用のロジャーススタジアムの空き地で野球の練習をしていたんです。「じゃあ一緒に頑張ろうか」という感じで、練習を始めました。
ベリーズのTV番組に出演
ベリーズのTVに出演した椎葉隊員
―その出会いから、デルバート選手はどのようにして旭川ビースターズ入団という流れになったのですか?
椎葉隊員:私が福知山成美高校野球部(京都府)の主将時代に、よく対戦していた相手チームの主将に石川駿さんがいました。高校を卒業し、私は教員の道へ、石川さんはプロ野球の道へ進んでからも親交が続いていました。私が青年海外協力隊としてベリーズに飛び立つ前夜、石川さんと「これから、お互いに野球を通して社会貢献をしよう」と夢を語り合いました。日本でピッチャー指導を学んできていた私がベリーズで野球選手を見つけて育てるから、石川さんはその選手を日本のプロ球団に繋ごう、という、その時には何の確証もない夢物語でした。
それが、活動初日にデルバートと出会い、すぐに石川さんに電話をして動画を送り、石川さんも「彼なら自信を持って推薦できる」と。いくつかの球団の中で、旭川ビースターズさんが名乗りを上げてくれたんです。
―石川さんと椎葉隊員との強い絆がデルバート選手の来日に関わっていたのですね。
椎葉隊員:はい。ただ、日本への渡航費や滞在費を集めるのが大変でした。
ベリーズ国内で費用を集めようと思ったんですが、全然集まらなかった。
本当に困ったと頭を悩ませているときに、日本大使館主催の天皇誕生日祝賀会にJICA海外協力隊として参加しました。そこでたまたま同じテーブルになった人に、今ある状況を話したら「ベリーズの青年のために、そんなに一生懸命になってくれてありがとう」と、資金援助をしてくれることになったのです。このことをデルバートとカウンターパートに伝えたときの歓喜の声は忘れられません。
その後も、テレビ局にコネクションを持つ方に協力してもらい、ベリーズの主要テレビ局に何回か出演する機会を得ました。また、知人を通じてベリーズの首相にもこの活動を知っていただき、首相のオフィスで激励の言葉をいただくこともできました。
-多くの方の応援とベリーズの人たちの協力があって、デルバートさんが日本に渡航できることになったのですね。
屋台のライス&ビーンズ
椎葉隊員の元気の源・日本食は朝晩自炊している
―ところで、椎葉隊員が活動をしているベリーズとはどんな国なのでしょうか。そして、椎葉隊員は日ごろどんな生活をしているのか、教えていただけますか。
椎葉隊員:派遣される前は、若年層の非行が課題となっていることや、失業率の高さから、どんな危険な国なんだろうと想像していました。でも、ベリーズに来て一番実感していることは、「ベリーズの人の温かさ」です。街を散歩すれば、「マーニー(おはよう)!」「リスペクト!」「よう、兄弟!」など、どんな人でも声をかけてくれます。街を歩くだけで、気分が良くなる、嬉しくなる。ベリーズに来て良かったと思える瞬間です。
それから、ベリーズはカリブ海に面していて、自然がとても豊かです。地元の人もよくやっているのですが、時間があるときはボーっと海や景色を眺めることもあります。日本ではあまりしないですよね。とてもシンプルだけど、自然と調和しているような感覚になり、この上ない幸福感を感じます。ベリーズに来て、幸福の定義が一つ増えたと感じています。
隊員活動としては、午前中に練習メニューを考えたり、広報・記録用の動画を編集したりしています。広報活動や打ち合わせも行います。昼は自宅近くの大きな公園に屋台が立ち並んでいるので、そこでライスアンドビーンズ、バーベキューチキンなどを食べます。午後は3時から7時半くらいまで、ロジャーススタジアムに集まる青少年たちに野球を教えています。毎回10人ほど集まっています。
実は、私は日本食を食べないと元気がでないので、中華系のお店で米や味噌を入手して、朝晩は自炊で、ご飯とみそ汁を作っています。
ドミトリーから見えるカリブ海
―さて、デルバート選手は既に北海道・旭川に来ていますが、デルバート選手にかける椎葉隊員の想いをお聞かせください。
椎葉隊員:君の夢にはたくさんのベリーズの人の想いが乗っているんだ、ということを決して忘れないでほしいです。そして、将来は彼がベリーズの次の若者を育てる人になってくれると嬉しいですね。
―最後に、椎葉隊員がベリーズ野球にかける思いもお聞かせください。
椎葉隊員:何十年後になるか分かりませんが、ベリーズ野球がWBCやオリンピックに出場するところを見たいです。その時の指導者が、今私が指導している若いメンバーであったら最高ですね。
今回は、JICA海外協力隊員としてベリーズで野球指導をしている椎葉一勲さんに、旭川ビースターズに入団したデルバート選手が来日するまでのストーリーを伺いました。
次回は、椎葉隊員と出会い「日本で野球をしたい」という夢を叶えることができたデルバート選手と、同じく旭川ビースターズで活躍する外国人選手たちにお話を伺う予定です。お楽しみに!
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