若者との交流を通して得た学び~アフリカ人留学生の声~
2025.06.18
2025年5月28日に札幌開成中等教育学校で行われたイベント「日本・アフリカ・ユースキャンプ」。そこに参加したアフリカ人留学生の中からコンゴ民主共和国、ナイジェリアからいらしたお二人の声をお届けします。
彼ら留学生たちは、普段ふれあうのは、20代の若者や指導教官が多く、今回、日本の中高生との交流は、ほぼ初めての経験でした。そんな彼らが見た、日本の中高生の姿はいったいどんなものだったのでしょうか。
コンゴ民主共和国出身のマニサさん(左から2人目)とナイジェリア出身のラワルさん(同4人目)
私は、コンゴ民主共和国から来たマニサです。北大農学院博士課程で農業経済を研究しています。日本人はとても礼儀正しいと思いますが、おそらく教育が大きな役割を果たしているからなのでしょう。私の国では、小学校にすら行けない子供たちも多くおり、教育を受けていない人のふるまいは全く違ったものになります。例えば、ただ道路で歩いているだけなのに、正面から来た人にいきなり怒鳴られることもあります。このような経験は日本ではまずありません。
実は、このような礼儀正しさについて、来日前にはよく知りませんでした。ただ、日本そのものに対しては良い印象は持っていました。しかし、日本ははるか遠い国で、行ってみるなど全く思っていなかったのですが、奨学金があるという話を聞き応募した結果、日本に来ることができました。
今後、どのぐらい日本にいるかは決めていませんが、日本での生活は素晴らしく学ぶこともたくさんあります。一方で、帰国してから母国の役に立ちたいという思いも強く、これから自分に何ができるかを日々考えていきたいと思っています
マニサさんからのコンゴ民主共和国の話を熱心に聞き入る生徒たち
私はナイジェリア出身のラワルです。北大博士課程で細菌生物学について研究しています。
今回のイベントでは、自国の文化を紹介するとともに日本の若者からも学ぶことができました。このような双方向のコミュニケーションを通じて未来を担う世代に良い影響を与えることは私の夢でもあり、いい機会になりました。
彼らは私たちの未来ですが、私は若者の世界のとらえ方を理解する必要があると考えています。私はこれまでも高校に出向き、自分の経験や発見などを伝えてきましたが、このユースキャンプのように、若者から私が刺激を受けたことはなかったと思います。今回出会った生徒たちは社交的で、変化を厭わず、独創的で、本当に多くの可能性を持っていると感じました。
生徒たちは明るく親しみやすく、私との話を楽しんでいることがわかりました。お互いの話を理解するのに時間はかかりましたが、沢山の友達ができました。彼らとは英語の勉強のための仲間となったのです。今回のイベントが今後も続いていくよう希望しますし、国や人々の間にできた溝を埋める架け橋として、このような交流がそのきっかけになると思います。
日本の高校生との話を通じて刺激を受けたと話すラワルさん
ナイジェリアと日本の学校を比べると、全体としては似ており、特に学校給食は、集まって食事をするという点で似ていると思います。ただ、栄養面を見てみると、日本ではバランスが取れている一方、ナイジェリアではバランスや栄養価そのものが課題といえましょう。栄養バランスは子供の脳の発育などにも影響するため、重要と考えます。
両者をくらべて特に違いを感じたのが、ジェネレーションギャップと公立学校の質についてでした。日本の生徒の中に、ナイジェリア人のユーチューバーについて話す人がいたのには驚きました。私の世代の話題といえばサッカーでしたが、彼らはSNS上のインフルエンサーについて話をしていました。話題の違いなど、若者とコミュニケーションをとるときには、ジェネレーションギャップの間に橋を架けることで、お互いを理解することが可能となります。
日本の公立学校については、建物からカリキュラムのレベルまで、その質の高さに驚くことばかりでした。生徒によるポスターセッションでのテーマでは、私が大学で学んだ内容に匹敵するものもありました。ナイジェリアでは私立学校の割合が高いですが、そこに通える生徒は限られています。公立学校である札幌開成中等教育学校が、レベルの高い教育に取り組んでいること、また今回のような付加価値の高いプログラムを提供していることは素晴らしいことです。私の国の学校でも、今回経験したような交流の機会を設けるべきだと感じ、より多くの子供たちに質の高い教育を普及するために、私立学校のみならず公立学校でも改革を進めなければという思いを新たにしました。そして公立学校でも、オールラウンドな教育が実践され、教室という場を超えて、世界的視点を持ったリーダー、異なる意見に耳を傾けられる人材、外国語能力が高い人材を育てることが大切です。
日本の教育の質の高さに驚いたラワルさんと生徒たち
私自身は、長い目でみて多くの人々の役に立つことを目標としています。まずは保健分野にて、医療・保健人材の育成を行い、新型コロナウイルスのような大規模な感染症に対応することです。人材育成それ自体はトップダウンで行うのではなく、ボトムアップのように人々のつながりを通して広げることを目指します。その目標のため、「Biosafety & Biosecurity Handbook for Students in Nigeria」(学生のための生物安全性と生物誤使用について)という本の出版に著者の一人として参加しました。ナイジェリアの高校生向けの本です。今後は公衆衛生の現場のみならず、高等教育にも関わっていきたいと思っています。私は日本に来てから教育への関心が高まりました。学びというものは、何か行動に移すためにおこなっているものです。ただ論文を書くためだけに、あるいはその科目の試験に合格するためだけに学んでいるのではなく、行動に移す必要があるのです。未来を担う若者にも、与えられた環境から飛び出して学ぶことが必要です。将来的には、私もそのようにしてナイジェリアの教育環境の改善に取り組みたいです。
JICA留学生として日本の大学で学ぶ日々では、研究室など限られた範囲の日本人と関わる機会が大半で、今回、日本の中高生と交流できたことはお二人にとっても得るものがあったようでした。今後も今回のアフリカユースキャンプのような、アフリカの人々と日本人が交流する機会が増えていくことで、双方にとって互いの理解が深まり、良い影響が広がることと期待しています。
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