【留学生が北海道の「エコ」について学ぶ!(石狩市・当別町)】
2025.10.03
9月2日、曇り空のもと、留学生(JICA長期研修員)は、「人生で初めての貴重な体験だ!」と口々に感動の声をあげました。
JICAでは、日本の大学で学位取得を目指している開発途上国からの留学生に対し、学問から離れ、日本や住んでいる地域がどのように発展してきたのかをより深く学ぶ「日本理解・地域理解プログラム」を実施しています。
毎年大学が夏休みになる時期に行っているこの取り組みの今年のテーマは「ゼロカーボン」つまり「脱炭素」としました。耳にする機会があっても、詳しくは知らない「脱酸素」、今回は「風」と「森」の二つの切り口で、学ぶ機会となったようです。
札幌市中心部から車で30~40分も走れば石狩湾にたどり着きます。石狩と聞いて思い出すのは石狩鍋でしょうか。もともと石狩市はサケ漁を中心とした街でしたが、今は大都市札幌を後背地に控え、さまざまなモノを運ぶ物流エリアとしての開発が進んでいます。
今回留学生が石狩市を訪れたのは、そうした開発を進める中で「脱炭素先行地域[1]」として、市内の新港地域に複数の再生エネルギー(以下、再エネ)電源を集積させた街づくりについて詳しい話を聞くためでしたが、石狩市役所の担当者からは、豊富な情報と、普段聞くことがないような最新事例をご説明いただきました。
市内には、広範囲にわたり、洋上風力発電、ソーラー発電、バイオマス発電などの電源からバラエティのあるエネルギーを蓄積しているとのことでしたが、特に地域の再エネ導入とデータセンターを集積させた「REゾーン」と呼ばれる地区があり、これがGreen Transformation(GX)の戦略地域として注目を集めているそうです。再エネの地産地活を推進し、先導的な “GX” の推進地域を目指す、そして脱炭素地域の実現により産業の成長・発展につなげるという高い目標についてご説明がありました。
[1] 石狩市は環境省による「脱炭素先行地域」に選定されており、市・市民・事業者の3者とともに地域の豊かな資源を活かし、未来へつなぐ持続可能な都市として、2050 年までに二酸化炭素排出実質ゼロを実現し脱炭素社会を目指している。
石狩市役所の方から講義を聴く様子
地球温暖化について世界各地で話題になっている中、再エネというホットイシューがテーマだったこともあり、留学生からも積極的に質問がありました。
中には、「再エネは天候にかなり依存すると思うが、どのようなバックアップ体制を準備しているのか?」「カーボンクレジットは温室効果ガス削減に貢献すると思うか?」といった回答に困るような質問からも、関心の高さが窺えました。
講義後の全体記念撮影
次に訪れたのは「道民の森 神居尻地区」です。札幌中心部から車で90分ほどのところに、多くの動植物が生息している広大な天然林に囲まれた森林学習センターなどの施設が整備されています。
ここでは、北海道庁石狩振興局の担当者から、森林の役割や人間にもたらす恵みについて、特に二酸化炭素削減の観点から話を伺いました。
再エネ発電方法として最近特に注目されているものはバイオマス発電ですが、普段から「道民の森」で勤務する講師は、森林や林業という視点からバイオマスエネルギーについて説明をしてくださいました。健全な森林を維持させるためには、森の木を伐採することで間引く必要があります。間引いた木は木材として利用するもの以外は、維持管理費が足かせとなり、山中に放置されるものがあったそうです。この活用されていなかった伐材をバイオマス発電に活かすことで、新たな収入源になりました。
また、バイオマス発電のみならず、森林は、酸素を生み出すこと、木材自体も多様な用途で人々が利用していること(建物・道具・楽器、さらにはティッシュまで)、それらの役割を踏まえると地球温暖化緩和に重要な役割を担っていることなども説明されました。さらに、森林は絶え間なく酸素を生み出していることや、「ダム」として蓄えた水を吸収しつつ時間をかけて人々に提供していることなども話され、生きていく上で最も大事な酸素・水・食べ物など、森がどれほど重大な役割を果たしているか、時々意識しながら過ごしてほしいというメッセージが伝えられました。
石狩振興局の方から講義を聴く様子
講義のあとは実習を行いました。
まずは、伐材を用いた木工体験です。みなさん、限られた材料のなかから、松ぼっくりやどんぐりなどを飾り付け、思い思いに個性的な作品を作成していました。中には、細い枝を器用に使って文字を形作る留学生もいました。
木工に使う伐材を「品定め」する留学生
木工作業中
出来上がったオリジナルの作品
木工体験が終了したところで、いよいよ「道民の森」の中へ!そこでは、2つ目の実習「植樹体験」を行いました。事前にこの日のために用意されていたアオダモの苗を1人1本ずつ植樹したのですが、アオダモは地域の天然の木で、シカやウサギなどに荒らされないようなタイプの木という点で選ばれたようです。留学生の中には「一生に一度の体験だ」と感激する人も多くみられました。
植樹開始!
どんよりとした天気の1日でしたが、留学生の皆さんは、時代の先を行く風力発電から、太古の昔から人のそばにあり続けた森林というものを題材に、北海道ならではの風景と森林との共存を強く感じることができたことでしょう。大都市札幌圏を中心に大学生活を営む中で、住んでいる地域のことを多面的に理解する機会は限られているところ、今回のプログラムは有意義なものとなりました。
なお、当日の様子を動画にして、JICA北海道Facebookに投稿しました。
ぜひご覧ください。
https://www.facebook.com/jicahokkaido.sapporo/videos/1843775089896438/
<関連リンク>
研修員受入事業 | 日本国内での取り組み - JICA
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